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2章4‐6 託されるもの。

 時は過ぎ。来るべくアイドルリレーが始まろうとしていた。

 アイドル達は入場を終えそれぞれの定位置で待機している。

 俺はやるべきを事はやった。後は上手く事が運んでくれているのを祈るだけ――。

 手を打ったとはいえ、それが上手く作用したかどうか分からない現状、青松の走りを見るまでは落ち着く事は出来なさそうだな。

 青松は変わらず活気を感じられない様子だが大丈夫だろうか。まぁ半分くらい俺が原因な訳だが。

 そんな心配を他所にトップバッターがスタートラインへ立つ。このリレーは1人トラック1周200mを走る。ちなみに一般生徒のリレーは1人半周だが、アイドルは走者が少ないのと、何よりも走っているアイドルをより長く見る事ができるから1周走らされるのだろう。

 2年のトップバッターは藍坂。あいつの足ならぶっちぎりでトップを独走するだろう――と思った矢先。スタートは学年のハンデとして若い順にインコーナー、更に5m程先頭でのスタートという取り決めがあるのだが、なんと藍坂は3年の隣、しかもその外側のコーナーへと立ったのだ。……おいおいマジかよ。

 それを見た3年の走者は舐められた事に腹を立てたようで、今にも掴み掛りそうな剣幕で藍坂へと詰め寄る。あの先輩は鰐内って人だっけか。去年気に入らない一般生徒を殴って活動停止になった人だ。よくそんな人に喧嘩売れるな。

 藍坂はそんな鰐内先輩を何処吹く風かのようにスルーしているが、このままでは揉み合いに発展するのも時間の問題では、と思われたが、


『は~い、それでは皆さん、位置に付いて~~~』


 マジか、そのまま進行するんか。できれば注意して規定の場所に戻してほしかったのだが。まぁ何か起こる前に、無理矢理進行してしまうのが無難と判断したのだろう。

 そのアナウンス聞き、鰐内先輩も慌てて走りの体勢を取る。……もしこれで藍坂が勝ってしまったらその後が怖いな。


『よ~い、ど~ん!』


 ピストルを響かせリレーがスタートした。

 藍坂と鰐内先輩。序盤は拮抗した走りを見せていたが、中盤、エンジンが掛かってからは藍坂が先輩を突き放し、次第にその差は開き1位で赤宮にバトンタッチ。あれだけのハンデを付けておきながら、しっかり1位を搔っ攫う辺り流石である。

 そんな藍坂は全力疾走の後とは思えない涼しげな顔で仲間の下へと向かうが、それを鰐内先輩は物凄い形相で睨み付けていた。思った通りの展開だが、場が場なのでこれ以上踏み込む気はない様だ。……うん、まぁ当人ら勝手にやっててくれ。

 さて続いて2番走者の赤宮。本人談では中学時代は毎年アンカーを務めるくらいには速いそうだが……うん、確かに早いな。藍坂の方に気を取られていたが、後続との差は更に広がっていた。さっきの跳び箱もそうだが、本当に同じ怠け者族とは思えない運動神経だ。

 それからは、橙田→緑沢→柴崎と順調にバトンが渡り、俄然トップをキープし順調に進んでいた。だが、3年との差は徐々に詰められており余談を許さぬ状況。ちなみに1年に関しては既に半周分の差が付いていて最早抜かされる心配はない。

 でもって、いよいよ次の走者は黄谷。何故この順番したのかというと、なるべくトップで精神的余裕を持って走れるようにしたかった。後ろから追われるプレッシャーもあるかもしれないが、とりあえず後ろを見ずに全力で走るように言っておいた。だがそれだけなら余裕のある3、4番手に回すのがベスト。

 もう1つの狙い。それが吉と出るかはまだ分からない。

 大丈夫だろうか……。ちゃんと悔いのない走りができるだろうか。

 そしてその時は来る。柴崎から黄谷へとバトンが渡された。期待を託されいざ走り出す黄谷。――その瞬間、周りの声援が止んだ。

 遅すぎて言葉を失った? 違う。その逆、皆驚いているんだ。まるで別人かのような走りを見せる黄谷に。1年前はネタにされる位だったからな。さぞ驚いたろう。

 当然だよな。あれだけ鍛えたからな……。俺達の個人的な練習。それだけに留まらず、プロである体育の教師にも個別指導を行ってもらったりしたからな。

 それに、確かに黄谷は運動神経がよくないが、この学園の『アイドルは体力勝負』というモットーにより、よく走らされていた為身体作りはできていた。

 そこに徹底したフォームの改善、効果的なトレーニングの導入により走りに必要な筋力を付けた。これで結果が出ない訳がない。

 こうして黄谷は大きくタイムを縮め、魔の10秒台から8秒代ギリギリに食い込める程にまでなったのだ。驚愕の光景。だがそれも次第に受け入れられ、再び声援が上がり始める。


「あと少しだっ!! いけっ、黄谷!!」


 熱い気持ちが込み上げ思わず叫ぶ。俺だけじゃない、場の気持ちは一帯。黄谷を応援する為に2年の生徒達は黄谷に声援を送り続ける。これがライブ感ってやつか……。

 どうだ? これが黄谷が積み上げてきたものだ。何も去年を悔やんでいるのはお前だけじゃない。走りに注ぐ活力を見れば分かる。黄谷も相当引きずっていたんだろう。悔しがるお前を見て、自分を責めていたに違いない。表には出さなかったが、それが伝わる程に打ち込んだ。


 お前もこの走りを見て伝わった筈だ。――さぁ、どう答える青松。


 ギリギリのところで3年に抜かされてしまったが、それでも大健闘といえる活躍をした黄谷からバトンを受け取り、最高に高まった状態で全力疾走――する筈だった青松。しかしあろうことか、ここでその狙いが悪い方向へ出てしまった。

 なんと青松はバトンを受け取らず、走り終えた黄谷の肩をポンポンと叩きだしたのだ。おい、この土壇場で何やってんだよ!!

 慌ててバトンを見せる黄谷。こうしてようやくリレー中であることを思い出し、慌ててバトンを受け取る青松。

 その間数秒だが、走りにおいて数秒の差は大きい。

 まずいぞ。いくら青松とはいえ、3年のアンカー相手にこの差を埋められるのだろうか。

 ――と、そんな心配はいざ走り出す青松を見てすぐに吹き飛んだ。同時にリレーの勝敗に対するハラハラだとかももう消えていた。もうすっかりお開きムードだ。


 そして、今は別の事を考え初めていた。たった今理解したこの学園のシステムと摂理について。

 この青松を見てそれを理解した。元々言葉でも分かっていたし、俺は黄谷によってその摂理に基づいて動かされていたんだが、それを今ようやく認識し実感する事ができた。


 ――この学園のアイドルは太陽なんだ。


 生徒らは曇った空の元、ただ冷めた生活を送っている民。

 そんな民の元に太陽が降り注げば。その熱がまるで冷たい鉄に伝導するかの様に伝わっていき、その蓄積された熱はやがて人を突き動かすエネルギーとなり活気を与える。

 やがてはその太陽に近付きたいと願い、その熱に溶かされぬ様、己の温度を上げながら1歩ずつ地道に歩みを進めだす。


 その現象を引き起こす場所こそが。この流創学園なんだな。

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