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2章4‐4 これがきっかけで短いあんぱんブームが到来した。

 俺は待ち合わせ場所に指定したアイドル科中庭へと足を運んだ。

 何故、俺がこんな場所に来ているのかというと。1つのトラブルを解決する為。

 そのトラブルが明確になったのは、俺がアイドル障害物リレーに参加した時の事。

 爽快に4位(5名中)ゴールを果たした俺はどのアイドルに襷を貰うか考えていた。2度も黄谷から襷を貰う訳にもいかんからな。

 そんな時、赤宮がこちらにアイコンタクトを送ってきた。誰からも求められずひもじい想いをしていたんだろうと思い、仕方なく貰ってやることにした俺は赤宮の元へ向かうと、笑顔の表情を崩さずにこう呟いた。

 『みつなとやずるの仕事が消えた……あと私も。多分、高咲のせい』と。俺はそれに対し『やっぱりな』と無意識の内に口にしていた。

 最初から胡散臭さかったからな。急に同じタイミングで大きな仕事が舞い込むだなんて。

 で、何故高咲が怪しいか。労いライブの会場はリレーの順位で決まる。高咲は3年のアイドルに肩入れしていることから、一番広いホールでやらせたいとだろうからな。来場するスポンサーも殆ど3年に集中するからな。

 ならばどうするか。簡単だ。盤外戦術でリレーに勝てばいい。

 だからその為にまず緑沢達に仕事を用意した。だが別にこれは緑沢達を脅す為ではない。全ては青松たった1人を潰す為の作戦なのだ。

 青松は友人、特に同学年の仲間のことを大切にしている。それを高咲は利用した。

 まず仲間のアイドルが喜びそうな大きな仕事を作った。そして体育祭当日にその仕事を白紙にした。

 それから青松にこう伝えた。『お前が走りで手を抜けばあいつらの仕事を復活させてやる』と。それを直接口ではなく、なんらかの手段で伝えた。自分の手を汚したくはないだろうからな。

 そう伝えられれば青松は友人の為、手を抜かざるを得なくなる。という実に陰湿な手だ。

 元々仕事そのものがブラフという線もあれば楽だったのだが、その割には現実的な仕事内容だったことからその可能性は低い。

 前から想定していた事だが、やはり起きてしまったか。

 ……だが1つ前提として、あたかも高咲が悪事を働いてるような口だが、そんな事はないだろう。

 この件を傍から見れば、ただリレーの1位を譲るだけで2年のアイドル達は大きな仕事を得ることができるのだから。

 所詮リレーでの報酬なんて会場の大きさが変わるだけのもので大したものではない。寧ろたったそんな小さな代償で仕事を得ることができるなんて、大きなアドバンテージといえる。


 ――それに対し、これからそんなアドバンテージを壊そうとする俺。悪がどちらかと聞かれれば、それは俺の方になるだろう。


 後方から足音が。どうやら呼び寄せた奴が来たようだな。


「よう文空。どうしたんだよ? 急にこんなとこ呼び出して」


「どうしたんだじゃねぇだろ……」


 俺は開口早々苛立ちをぶつける。


「なっ、なんだよ!? 大事な用件があるっていうから来てやったのに」


「あれは嘘だ。そうなら何故呼び出したかくらい分かるだろ」


「……オレがふて腐れて、応援合戦の空気壊したことか?」


「もっと根本の部分だ。高咲にリレーをわざと負けるように促されたんだろ」


「っ!? な、なんで知ってるんだよ」


「やはりそうか。で、さっき挫いた足は大丈夫なのか?」


 リレーに支障が出ると困るから確認を取る。


「……まだ少し痛てぇけど……まぁ、今となっちゃもうどうでもいいんだけどな」


「どうでもいいか……。つまり、わざと負けることにしたんだな」


「……仕方ねーだろ。3年に1位を譲ればあいつらの仕事が戻って来るかもしれねーんだからよ」


「ほう……で、お前は悔しくないのか? この日の為に相当入れ込んでたんだろ」


「悔しくねぇ訳ねぇだろっ! ふざけんな!」


 怒りの琴線に触れたのかそう叫び、コンクリートの壁に拳を打ち付ける青松。壁に当たるだなんて、感情の整理ができない猿かよ。


「汚ねぇんだよ。高咲の奴。オレだけの仕事を残しやがったんだ。それでもし1位を取ろうもんならオレだけ抜け駆けした事になるんだぜ」


 聞いてない情報まで吐き出す。きっと誰にも相談ができず溜め込んでいたんだろうな。もし周りがその事を知っていればきっと仕事なんて取らずに青松の味方をするだろうからな。

 ……それにしても、成程な。思ってた以上に陰湿だったな。もう少し高咲の手口について触れたいとこだが、それは後だ。

 悔しそうに歯を食いしばる青松に切り込む。


「ならどうして抵抗しなかったんだ?」


「だから仲間の仕事が――」


「だから、抵抗してどうにかすればいいだろうって言ってんだ」


「はぁ? 何言ってんだよ」


「簡単だ。お前が高咲を上回る手を考え出せば済む話だろう?」


「なもん無理に決まってるだろ。オレはただでさえバカなんだからよ……」


「馬鹿だとか関係ないだろ。思い浮かばないなら思い付くまで考えればいいだけの事。自分の力じゃ無理ならそれができる奴に頼ればいい。それができないから負けた。敗因はもう明白だろう」


「だからそれができないから……」


「できない、じゃないだろ。最初から戦う事すらしなかった。違うか?」


「……それは」


「なら何故怒る? 自ら戦わずに敗北へと向かったんだろ。なら何故割り切らない?」


「腹立つ事があったらキレんに決まってんじゃねーか! 自分のことならまだしも、仲間が巻き込まれてるんだぞ」


「ふっ、仲間の為ねぇ……。本当にそうか?」


「自分の事しか考えてねぇって言いてぇのかよ?」


 青松が今にも飛び掛かって来そうな剣幕で俺を睨みつける。だが俺は構わずに続ける。


「その通りだ。お前の言ってる事は矛盾してるんだよ」


「なんだと……?」


「さっきの醜態はなんだ? 別に失敗するのはいいとして、露骨に不貞腐れていたよな」


「別にそんなのどうでもいいだろうが」


「よくねぇだろ。本当に仲間やファンの事を考えてるんなら、怒りを表に出さない。そのせいで仲間に余計な心配を掛けてる自覚はないのか? ファンにだってそうだ。今頃お前が心配で体育祭を楽しめてないかもしれないぞ?」


「そ、それは……」


「黄谷の退学が賭かっていた時だってそうだよな。活動を止めたせいで、ファンは楽しみが減ったろうし、そんな事しても退学を止めることへのなんの抑止力にもならなりはしないのに」


「違うそんなつもりじゃ――」


「違くねぇだろうが。結局お前はただ自分が気に入らないからキレてるだ。他人に迷惑が掛かろうが関係ない。お前の言う仲間は所詮、醜い自分を綺麗に見せる為のものでしかないんだからな」


「そんな訳ねぇだろっ!! 仲間だって、ファンだって心から大切に思ってる」


「そんな訳があるんだよ。だからその仲間と言ってる奴に迷惑が掛かろうと、そんなのに目もくれず自分の事ばかりだろ」


「違う。本当にそうならリレーで手抜いたりなんかしねえだろ」


「それもただの自己防衛だ。あくまでお前は醜い感情に支配されてる人間ではなく、自分を仲間想いの人間と認識しているだけ。その証拠がさっき言った矛盾だ」


「違う……違う……」


 必死に言い訳を考えているのか頭を抱えだした。今にも崩れ出しそうだが俺は追撃を止めない。


「仕事失ったばっかの奴らは上手くやっていたよな。楽しみだった仕事を失ってさぞショックだったろうに」


「……なんなんだよさっきから。オレがそんなに憎いかよ」


「だろうな。俺もお前のせいで迷惑を被ってる人間の内の1人なんだがらな」


 そう。俺はこいつに苛ついている。別にこれからする事において、別にこいつを罵倒する過程を踏む必要なんてないからな。

 それでも俺がこうする理由は3つある。まずその1つがこいつへの苛つきだ。


「黄谷が今日という日に込めていた想いをお前は知っているか? 黄谷がふて腐れるお前を見てどんな気持になっていたか教えてやろうか。

 ……それをなんでお前の身勝手のせいで壊されなきゃならない?」


「ッ!?」


「何も返せないよな? 当然だ。お前は黄谷と俺よりも長く近くにいるのに。言われなきゃ気付かない程に自分しか見えていないんだからな」


 明確な決め手。この言葉が効いたからか、青松は膝から崩れ落ち、蹲り、


「……う、うぅ………………」


 泣きだした。初めて直面する己の醜さ。今までその認識から逃げていたからこそ、いざ直面した時のショックは大きいだろう。

 このまま泣かせておいてやりたいとこだが、生憎俺にそんな暇はない。


「おい、泣いてて状況が動くと思うのか?」


「……もう、放っておいてくれよ……」


「俺がお前を憂さ晴らしの為だけに呼び付けたと思うのか?」


「……じゃあなんでなんだよ」


「簡潔に言う。今回は俺がどうにかしてやる。だから今回は本気で勝ちにいけ」


「なっ!? 大丈夫なのかよ。高咲に喧嘩なんて売ったらどうなるか分かってるだろ」


「問題ない。上手い事やるさ」


「……で、でもあいつらの仕事はどうなるんだよ?」


「あれは元よりあぶく銭だ。お前の分を返上すればなんのマイナスもないだろ。それよりも優先すべきものがある、分かるだろ?」


「……正直理解してたんだ。かこむの想いも。でも気付かない振りをしていたんだ。オレが勝ちたかったからって、あいつの頑張りを止めなかったんだ……」


「お前が何を思おうがどうだっていい。だが黄谷の想いを踏みにじる事は絶対に許さない。手間を掛けさせたからには絶対に1位を取れ。分かったな?」


「……ああ。分かった……本当に……ありがとう…………」


 礼を言うとまた青松は泣き出した。そんな青松を見て俺は一言。


「……お前は本当に弱いな」


 そう告げて俺はこの場を後にした。よし、これで後は仕上げを1つ残すのみか。


 道中にて思う。これから青松は本来の自分に直面する。その時、向き合って前に進むか。それとも前みたく抜け道を探し都合のいい認識にしがみ付くか。そのどちらかを選択する時が来る。

 もし前に進む道を選んだのであれば。あいつには大きな目標ができるだろう。

 ――そして、いつか挫折する。あいつはその器じゃない。現実を理解し、そうして大人になっていく。

 

 身の程を理解し、どうかこれからは俺達の邪魔にならない様に生きてくれ。


 それが2つ目の理由だ。

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