2章4‐1 体育祭といえば銀紙に包まれたおにぎりと緑茶が鉄板。
いよいよやってきた体育祭当日。
雲1つない晴天と、天候にも恵まれ絶好の体育祭日和となってしまった。……はぁ、どうせなら曇ってくれよ。暑いだけじゃねぇか。ちなみに雨が降ると、体育祭は先へ繰り越されるが、労いライブだけは決行されるそうだ。労いとは。
そして現在、面倒な開会式を終え、教室からグラウンドへ持ち出した椅子に座りながら、これから行われる面倒なプログラムを眺めていた。
~体育祭プログラム~
・開会式
①アイドル100m走(全一般生徒)
②アイドル200m走(各クラス選抜)
③アイドル400m走(各クラス選抜)
④アイドル1500mリレー(各クラス選抜)
⑤アイドル障害物リレー(各クラス選抜)
⑥部活動対抗リレー(各部活動選抜)
⑦大縄跳び(全一般生徒)
⑧アイドル大縄跳び(全アイドル)
~昼食~
⑨アイドル応援合戦(全アイドル)
⑩クラス対抗リレー(全学年)
⑪学年対抗アイドルリレー(全アイドル)
・閉会式……からの~~~アイドルからの『お疲れさま』労いライブ!
こんな感じで馬鹿げた内容となっている。
走る種目ばかりなのは、事前練習を殆どしないからだ。テスト直後に開催されるからだろう。唯一練習したのは大縄跳びを体育の授業中にしたくらいか。この学園が体育祭という行事に力を入れてないことがよく分かる。午後の種目がスカスカなのは労いライブがあるからだ。
だがこの体育祭。力を入れてないとはいうものの、ただ生徒へのファンサービスで済ます程この学園は浅くない。
まず前置きとして、とあるの人達を除き保護者含め来客の一切の立ち入り禁止となっている。アイドル目当ての不審者を入れない為だろう。厳重な警備体制が引かれている。
そして、このとある人達が更なる目的へと繋がる。
その正体とは企業の人間だ。そうこの体育祭は企業へのアイドルアピールの場となっているのだ。
企業とアイドルは表裏一体。アイドル活動の裏には大体企業が絡むもの。それは互いにリターンがあるからこそで、企業にとって流創アイドルは一種の大きなリターンになり得る存在。
4月に3年の流創アイドルが世間へとアピールされ、その全貌を知るいい機会となっているのだ。
もっぱら労いライブも企業へのアピールタイムであり、故に3年の出し物はとても手の込んでいるものとなっている。
いつもの流創学園らしい隅々まで采配の行き届いた無駄のないイベントとなっている。
そんな訳で現在は、全生徒参加の100m走が行われている。現在は1年の番で、もう半数くらいの生徒は走り終えているので、そろそろ2年が呼ばれるのだろう。
いつもなら面倒と感じるであろう競技。だが、今回に至っては柄にもなく緊張していた。
毎回徒競走なんて下から数えた方が早い順位の俺だが、今回は黄谷に巻き沿いをくらい共にトレーニングをしたが故、その成果を期待してしまうからだ。
そして、とうとう2年生徒に召集が掛かり定位置へと並ぶ。
走る順番は出席番号順となっているので、『か』で始まる俺は最初の方に走ることとなる。
ちなみに種目名にアイドルと付いている理由は、走り終わった後にアイドルから襷を掛けてもらえるサービスがあるからだ。先着順で1名のアイドルを指名することができ、1度選ばれたアイドルは指名ができなくなる。この体育祭の唯一の実力主義要素だろう。
それから間もなくして直ぐに俺の番が来る。ここに来て更に緊張が増す。まだ走ってもいないのに心拍数が増しているのを感じる。
結果を期待するのと同時に、もう一つ黄谷に襷を貰いにいくと約束をしてしまったからな。あまりダサいところを見せる訳にもいくまい。
……だが、正直あまり自信がない。
トレーニングである程度タイムは縮まったものの、日頃からスポーツをしているような奴にはまず勝てないだろう。
1度で走るのは各クラスから1人ずつ。つまりライバルは4人。
隣のクラスの奴らに視線を移す。1人運動神経良さそうなのがいたが、残りはそうでもなさそうだな。問題があるとすれば、そのそうでもなさそうな奴らの中に電子工作部の奴が1人いるということだ。
まずいな……。あの部の奴らは総じて黄谷のファンだし、何より前の件で俺個人が嫌っている奴だ。一体どの面下げてファンを続けてるんだか。そんな訳でこいつだけには絶対に負けたくない。
因縁の炎を燃やしていると、教師が『位置に付いて』の掛け声と共にピストルを上に向けていることに気付く。
一息付き気持ちを切り替え片足を下げる。一時の間、破裂音が響くと同時に全力で駆け抜ける。
まず序盤は予想通り、運動神経良さそうな奴が先陣を切るが、続いて俺が2位をキープしたまま中間まで到達する。
この順位のまま走り切りたいが、後方からの足音もかなり近く不安に駆られながらラストスパートへ。
そんな善戦空しく最後の最後で1人に抜かされてしまうが、幸いにも抜かされたのは電子工作部の奴ではなかった。
そんな訳で3位でゴール。先者の2人が襷を貰いにいくが、その2人は藍坂とダイダロスに貰いにいったので、俺はそのまま黄谷の元へと向かった。
「やったっ! やったぞ! 3位だ」
俺は柄にもなくはしゃいでしまう。傍から見れば3位なんてはしゃぐような結果ではないのだろうが、今までずっとドベだった俺からすれば、3位という結果は大変喜ばしいものであって、また拮抗した走りができたことがその喜びの増す要因となった。
「おめでとうひょも~! 特訓の成果が出ましたね!」
「おう。本当によかった……」
ざまぁみやがれ電子工作部の野朗め。特訓をしていなければ、あいつに負けていたかもしれないと思うと本当に特訓していてよかったとしみじみ思う。きっと、あいつが黄谷から襷を貰っていたら、一生根に持っていたかもしれない。
「……私も負けていられませんね」
その言葉は決意と見て取れるが、同時に一抹の不安の表れとも感じ取れた。これからのアイドル対抗リレーにプレッシャーを感じているのだろう。
「大丈夫さ。あれだけ練習したんだ。自信を持っていけ!」
「そうですね……。私、精一杯走るんで応援してくださいね!」
「勿論だ。だから、その暁にはコンサートホールでどっぷり労ってくれよ」
「はい!」
今日は色々と疲れそうだからな。
勝利のウィニングランを決め込んだ俺は、席に戻って勝利の余韻に浸りながらぼーっとしていた。
体育祭中は私物の持ち込み禁止で暇だからだ。スマホは本当に偉大なんだな~と気付かされる。
この後の種目は、②~⑤の種目の中で必ず1つ参加しなければならないので俺は障害物リレーに参加することになっている。で、その後の大縄跳びで午前の部は終わりだ。
☆
午前の部を終えて昼休みへと突入した。
昼休みは外でお弁当……なんてことはなく、いつも通り食堂で昼食を取ることになっている。だが、その代わりにメニューがいつもと異なっており、特製サンドイッチや数人で分け合う揚げ物のオードブルなどなど、美味そうなメニューが立ち並ぶ体育祭限定の特別仕様となっていて、是非とも食したいところなのだが……俺はそんな食堂へと向かわずに、設営テントの1つを借りて作業に勤しんでいた。
「お疲れ様です、文空君!」
「うおっ、黄谷か。どうした、何かあったか?」
黄谷はここに来る予定はなかった筈だが。
「いえ、私も少しは力になりたいと思いまして、差し入れを持ってきました!」
「差し入れか。コンビニで適当に済ますつもりだったから助かる」
「それは良かったです。中にはおにぎりと唐揚げが入っていまして、ささっと食べれるようになってます」
「それは有り難い……んだが、毎回俺なんかに気使わないでいいんだからな」
助けになる為にしているのに、逆に手間をかけさせてしまっては意味がない。
「別におにぎりなんてすぐ作れますし、唐揚げは食堂から持ってきたものですから、手間なんて掛かってので気にしないでください」
「そういう問題じゃなくてな……まぁ、サンキューな。後で頂くとするよ」
黄谷に気を使うな、という方が無理あるわな。他人の助けになることは、黄谷にとって幸福なのだから。
「はい……で、なんですけど……今日の朝から、みつなちゃんと――」
「おっと、済まないが、ちょっとここにコップを並べて貰えないか」
「えっ、あ、はい」
黄谷が伝えようとする事をあえて遮る。
「さてさて、男共相手にスムージーなんて売れるのかねぇ……」
「売れますよ! 男女問わず、美味しいものは美味しいですから!」
「だといいがな。まぁ、売れ残ったら瑛介に全部買わせよう」
「それはかわいそうですよ。でももしそうなったら私が責任を持って全部買います」
「冗談さ。企画したのは俺だし、やるからには全部売り切って見せる。計250杯な」
「うぅ……そんなに沢山売れますかね」
「どっちだよ……てか、そろそろ飯食い終わった奴らが来る頃だから、アイドル科へ戻ってくれ。まだ飯も食ってないだろう」
「そうですね……。それじゃあ、差し入れはここに置いておきますね」
「おう。それじゃあこの後の種目、頑張れよ」
「はい! それでは、ご武運をお祈りします」
「おう」
そんな訳で現在仕込んでいるのは、黄谷考案の特製ひょもひょもバナナスムージーだ。
それをプラスチックカップに移している最中だ。材料は、バナナと蜂蜜と牛乳と豆乳をミキサーにかけたシンプルなものだが、これが体育祭で疲労した身体に良い作用を齎してくれるのだそうだ。
これを黄谷と朝の内に作り、冷蔵庫で保存しておいて、昼休み突入して直ぐ台車でせっせと運んできたのだ。
スムージーをカップに入れ終えたら、後は蓋を閉めてクーラーボックスの中に入れ、仕込みは終了だ。
値段は1杯300円。50円追加でチョコレートソースを付けることができる。
しかも、カップには黄谷のサイン入り。これならスムージーが目当てじゃない生徒も欲しがるだろう。だからこその250杯という強気な用意だ。
問題は手際よく捌けるかどうかだな……。昼休み中にもう一つすべきことがあるからな。
「おまたせ~。助っ人見参!」
「おう来たか。さっそくだが、お前はレジの方頼むぜ」
流石に1人で250本を捌き切るのは困難だろうから、助っ人に瑛介を呼んでおいた。
「了解~。それで、何本売るつもりなんだい?」
「250」
「そんなに売るのかよ!?」
「余裕だろ。今回は全学年が対象だし、カップには直筆サイン入りだしな」
2年だけでも180人。全学年では540人になる訳だ。それに教師も合わされば余裕よ。
「そりゃ売れるのは必然さ。問題はそれを販売するのが僕達だけってことなんだけど……まぁ、かこむちゃんの為だし、昼休み返上でやったるか。よーし、それじゃあ気合入れてかないとね。円陣組もうか!」
「1人でやってろよ……てか、もう客来てんじゃねーか」
「あぁ……うん――はーい、らっしゃいらっしゃい!」
うむ、いい声出しだ。これからも人前に出るような役割はこいつに押し付けよう。
さてと、んじゃ、こちらもひと頑張りしますか。
――そんな訳で30分程経過した。想定通り、絶え間ない行列が出来上がり、特にアクシデントもなく順調に売り捌いていった。
失敗があったとすればチョコソースが想定以上に売れて、直ぐに売り切れとなってしまったことだろう。
そして、残り20本程となりその全てをクーラーボックスに入れたので。
「瑛介。じゃあこれで全部だから、後は頼んだ」
「はぁ? ならこっち手伝ってよ」
「すまないが用事があるんだ。だから、売上金だけ花山先生に渡しておいてくれ」
「用事ってなんだよ! あれか、アイドル科で美味しい昼食タイムってか」
「真面目な用事だ」
余分な言葉は付けず、ただ一言そう告げる。
「……まったく、しょうがないなぁ。余ったスムージーはまかないとして貰っておくからね」
「ああ、好きにしてくれ。んじゃ頼んだ」
どうやら趣は伝わったようだ。1年間連るんできた成果ってやつか。
という訳で、俺はスムージーを運んできた台車を押しながら目的地へと向かう。
もう1つの目的を遂行する為に。




