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2章3‐3 宮本武蔵見参!

「もう出てきていいよ。花山先生」


「は~い。お疲れ様でした~理事長先生」


「で、どうして、私達の会話なんて聞きたかったんだい?」


「そりゃ、私だって顧問なのに、なんで私じゃなくて理事長先生に相談するのかが癪でしたから。それにもし如何わしいことなんて考えようものなら、手遅れになる前に粛正しなきゃいけませんから」


「そういうことか。なら、とんだ時間の無駄だったんじゃないか」


「ええ。つまらない話でしたね。どうして人って歳を取ると話が長くなっちゃうんですかね~。まったく、こんなことなら早く残りの仕事片付けちゃえばよかったです。今日はかわいい女の子と合コンの約束もありますし」


「君も言葉の選び方を覚えようか。いい大人だよね?」


「それにしても、彼のこと千切れるくらい褒めてましたけど、理事長せんせー前は迂闊に生徒を褒めちゃいけないって言ってましたよね? まさかここに来て教育方針の変更ですか?」


「別に変更なんてしてないさ。彼は私の理想の真逆。教育対象外の生徒だからね」


「えぇ……理事長せんせーあるまじき発言ですね。今の録音してたら、いい値の私談金貰えましたかね」


「別に見捨ててる訳じゃないさ。彼は教育なんてせずとも勝手に成功していくからね。

 それに才能という結晶は、他者が加工していいような代物じゃないのさ」


「うーん、彼ってそんなに凄い生徒なんですかね? 確かにかしこい子だとは思いますけど、言う程ですかね~」


「いずれ分かる時がくるさ。私に間違いはない」


「うーん、でも褒めすぎるのも返ってプレッシャーになりませんかねぇ。彼まだ高校2年生ですし、早くも逆流性食道炎になっちゃいますよ」


「発想力に若さも老いも関係ないさ。前線に立つには十分といえる。

 ただ経験は地盤を固めてくれる。だから、私はささやかながら、その地固めの手助けをしてやっただけさ。少しでも確信へと近付いてもらう為にね」


「ふむふむ。半分くらい何いってるのかわかりませんが、とにかく、彼を凄い高く評価してるのは分かりました」


「うむ。3%は理解できたみたいだね」


「まぁ、そんなことはさておきまして~。理事長せんせぇ~折角の機会ですし、今夜1杯どうですかぁ?」


「……さっき、合コンがあるって言ってなかったかい?」


「せんせーとご一緒できるならぁ、合コンなんて水道にあるたわしみたいなものですよ」


「相変わらずブレないねぇ……。でも、君のように尖った生き方をしている女性は好きだよ。やはり人間、素直が1番だからね」


「えっ、今私のことが好きって言いましたよね? うわぁ~それはそれは、大変光栄なんですけど~、私達歳が結構離れてますし~、ここは娘として養子という形で鎌田一家に受け入れる、っていうのはどうでしょうか?」


「……彼にも早くそうなってもらいたいねぇ」


「ええっ! 早くそうなってほしいだなんて……。それじゃあ今すぐ養子縁組届を書いてきちゃいますね!」


「んっ!? 待ちたまえ。私が少し気を逸らしてる間に、何故そんな話が飛躍しているんだ!?」


「それじゃ、行ってきまーす!!」


「いや、だから待ちたまえって!」



          ☆



 理事長との会話を終えた俺はアイドル科の中庭のベンチに座っていた。

 まだ帰宅していないのは、今日のアイドル科食堂の晩御飯では、昼の魚介系繋がりで新鮮な魚類を使った海鮮丼や手巻き寿司が食べられるからだ。

 だが、食材が配置されるまであと30分。それでいて、待ち伏せしてると食い意地の張ってるいやしい奴と思われそうだから、後45分は粘りたいな。

 自販機で買ったミルクティーをちまちま飲みながら適当にスマホでも弄るか。しかし、45分も弄るのは流石にしんどそうだな。動画でも見るか。

 だとしたら、容量の節約でwifiに繋ぎたいし、充電もしたいから、アイドル科校舎ロビーに行かないとな。

 目的が決まり、立ち上がろうとした時だった――。首に細く冷たいものを当てられ、後方から何者かに抱え込まれ、座ったまま拘束される。


「――動くな。微動だにでもすれば、その瞬間首を貰うでござる」


 女子の声。アイドルだろうか。だが知らない声だ。2年のアイドルではないな。でもって『ござる』だと? 忍者か侍か。

 この首の冷たい感触、鉄か。ゆっくりと視線を落とし確認すると、それは刀だった。つまり侍か。ボケッとしてる内にタイムスリップでもしてしまったのだろうか。

 まぁ、そんな冗談は置いといて。これはなんかのドッキリの類だろうか。刀もレプリカだしな。企画だとしたら適当に乗っておくべきなのだろうか。


「あの……」


「誰が喋っていいと言った。お主はこれから拙者の問いにだけ答えていればいいのでござる。それ以外の私語の一切を慎むでござる」


 そうは言われても、これは言っておいた方がいいと思うので続ける。


「いや、その、頭に胸当たってるんですけど」


「だから――って、胸っ!? あっ、いぎゃあああああああああ!!」


 うるせぇ! 耳元で叫ぶな!

 拘束から開放されたので振り向いてその正体を確認すると、侍のコスプレをした女が胸を抱えてしゃがみ込んでいた。

 あの生徒は確か、今日見た1年の……名前が思い出せない。なんだっけ?


「はぁ~ふぅ~はぁ~ふぅ~」


 取り乱してしまったようで、深呼吸をして精神を整えている。小声で何か呟いているようだがよく聞き取れない。


「なんなんだお前?」


「ふぅ~。――すまぬ。取り乱してしまったな。拙者は宮本武蔵でござる」


 どうやら頭が残念な人物のようだ。


「宮元武蔵って、あの戦国武将のか?」


「そうでござる。この2刀流が目に入らぬか」


 確かに腰にもう1本刺さっているが……。宮元武蔵といえば2刀流で有名な武将だ。


「生まれ変わりってことでいいのか?」


「そんなとこでござる。目が覚めたらこの身体だったのでござる」


 武将が好きなアイドルなんだろうか。傍から見ればただのトチ狂ってる人間だが、俺の学年にもこの手の奴はいるし、この場においては正常なんだろうか。

 こんな変なキャラ作りしなきゃ個性を確立できないなんて、アイドルも大変だなぁ。


「で、俺になんの用なんだ?」


「…………」


「なんだよ?」


「えっ、ああ、すまぬ。それはだな……まず体育祭のリレーでの順番を伺うこと」


 成程。事前に順番を聞き出して、作戦を練ろうという魂胆か。


「それと、聞き出した後に鹿誠文空の首を貰い受けろとの命を受け、ここに参ったでござる」


「物騒だなおい。誰がそんな命令下したんだ?」


「我が主でござる。それ以上は言えぬ」


 主。1年を統括していると言われてる奴か。


「そうか。……だが、お前は本当に宮元武蔵なのか?」


「無論でござる。この2刀流が目に入らぬか!」


 今度は2本目も抜いてポージングを決めて強調する宮元武蔵。どうやら2刀流に強いこだわりがあるようだ。


「そうか。なら本当に宮元武蔵かどうか証明してもらおうか。己を偽る者を信用して情報を渡す訳にはいかないからな」


「なぬ!? ちゃんと証明できれば、情報を明け渡すでござるね?」


「勿論だ。約束は守る」


「――っ!! 言ったでござるからね。証明した暁には必ず吐いてもらうでござるからね!」


 なんで嬉しそうなんだよ。


「うむ。さてと、それじゃあ何をしてもらおうか」


「戦や決闘の様子などなど、なんでも申すでござるよ」


 どうやら歴史の内容に持っていきたいようだが、それではつまらない。そうだな……。


「そういえば、宮元武蔵はあまりの怪力で竹刀を一振りで割ってしまうそうだが、その怪力をここで見せてもらえないか」


「ふぁ!? ……ま、まぁ、確かに、それは事実でござるが、今この場に竹刀なんてなかろうし……」


「そうだな……じゃあこの封を開けてないミルクティー潰してみてくれ」


 これは280mlペットボトルのものだが、勿論潰せる訳もない。ただ暇だからか、こいつを困らせて遊んでみたくなってしまった。


「そ、そんなの無理に決まってるでござ――と、というかこんなおなごの貧弱な身体に以前のような筋力が備わってる筈がなかろう」


 真面目か。まさかこいつ本気で自分が宮元武蔵であると言い張るつもりなのか。


「うーむ、それもそうか……じゃあ、剣さばきを見せてみてくれよ。」


「い、いや、それもこの身体では……」


「そんなことないだろ。剣捌きは技術だ。魂に焼き付いてる筈だろ」


「いや、でも……」


「じゃあ、リレーの順番は教えられないな」


「なっ!? だ、誰がやらないなんて言ったでござるか」


「本当か。よし、じゃあさっそく見せてくれ」


「うむ。……では、いくでござるよ――えいっ! やぁ! おりゃおりゃー!!」


 掛け声と共に懸命に剣を振り回す宮元。うん。実にへんてこな素振りだ。本人は宮元武蔵のつもりなのだろうか。


「おお、見事な剣さばきじゃないか! 思わず身震いしちまったぜ」


 が、そんな本音とは裏腹におだてる。面白そうなことになりそうだから。


「そうでござろう! 紛うことなき宮元武蔵だからこそ成せる剣技でござるよ! さぁ、もういいでござろう、リレーの順番を――」


「92%だな」


「92%?」


「宮元武蔵度92%ってことだ。おしいんだよなぁ……決定打に成りうるものが足りないんだよな~」


「まだ何かさせるつもりでござるか? もういいでござろう……」


「…………おっ、それならこれはどうだ。かつての宮本武蔵は肺活量までも凄まじく、出されたお茶が口を付けた瞬間に無くなっている。なんて伝承があったそうだ」


「ふぇっ!? そんな伝承あったでござろうか……」


「ああ。宮元武蔵伝にそう載ってたぞ」


「宮元武蔵伝っ!? そんなの知ら……も、勿論事実でござるよ。確かに以前の拙者の肺活量も凄まじいものでござったよ」


「そうか。なら、このミルクティーを一気飲みして豪快な飲みっぷりを見せてくれよ」


「いや、でもこの身体では……」


「俺が見たいのは飲みっぷりだ。別に早さは気にしない。きっと飲みっぷりで俺の中での宮元武蔵かどうかが決まる」


 我ながら意味不明な理屈だ。


「……本当にいい飲みっぷりを披露すれば、順番を吐くでござるね? もう後はないでござるね?」


「男に二言はない」


「わかったでござる」


 そんな意味不明な理屈を受け入れた宮元は刀を鞘へ納め、真剣な表情でミルクティーを受け取る。そこまで意気込むことなのだろうか……。


「じゃあいくでござるよ……」


 掛け声と同時に宮元は勢いよくミルクティーを口にしグビグビと飲み始めた。

 頭を90度傾けていることから一気に飲み切るつもりなのだろう。――だが、この伝承には1つ大きな秘密が隠されている。


「まぁ、肺活量なんて話嘘なんだけどな」


「ぶふぁっ!?」


 明かされる衝撃のカミングアウトに思わず噴出す宮元。


「……ごほっ……ごほっ……」


 咽てしまったようで、咳と共にミルクティーを地面に飛散させる。

 そんな悲惨な光景を見て流石にやりすぎたか、と罪悪感が込み上げてきた。


「悪かった。まさかこんなことになるなんて……」


「……ひぐっ……うぅ……嘘……だったんですね……酷いです……でござる」


「えっ、あ、ちょ……すまなかった。これで拭いてくれ」


 泣き出してしまう宮本武蔵。俺は焦ってハンカチを差し出す。しまった……。面白くなってしまってつい……。


「私……頑張ったのに……ひぐっ……役に立ちたくて……」


「悪かったって……ほらっ、リレーの順番くらいいくらでも教えてやるから、気を取り直してくれ、な?」


「うぐっ……本当でござるか?」


「ああ、本当だ。まずトップバッターは藍坂で、そこから赤宮、橙田、緑沢、柴崎、黄谷の順で、青松がアンカーだ」


「……嘘じゃないでござるか?」


「勿論本当の順番だ。どうだ、これはお前の手柄だぞ! お前自身だけの力で挙げた手柄だ!」


 どうやら手柄に拘っているようなので、露骨にそこを褒める。


「私が挙げた手柄……。えへへ。当然でござるよ。なんたって私は宮元武蔵でござるからね!」


「よっ、流石は宮元武蔵! 天下統一も夢じゃないな!」


「いいや、天下を取るのは我が主でござる。拙者はその右腕として君臨するでござる!」


「ああ。お前なら実現できるさ!」


 ふぅ……機嫌を取り戻してくれたみたいでよかった。


「お主も本当はいい奴でござるな。仕方ないから今回は首を取らないでやるでござる」


 本当に取る気でいたのか。って、あれ、こいつ鼻からミルクティーが……。気付いてないのか?


「お、おう、それはよかった」


「それでは拙者はこれでずらかるとするでござる。このハンカチは今度洗って返すでござる」


「いや、俺が悪かったんだし気にしないで――」


「あっ。そうでしたでござる。もう1つ、主から伝言を頼まれてたで……ござる」


 急に声のトーンが落ち、神妙な面持ちになる宮元。


「ん、なんだ?」


「……それは――『鹿誠文空。近い未来、お前が積み上げてきた大切なものを壊す』との伝言を預かってきた」


「なにっ!?」


 発信主が鼻からミルクティーを垂らしているからか、今一緊迫感が沸いてこないが、これは宣戦布告。しかも言葉の文脈から読み取るに、向こうは相当本気っぽい。

 なんか後輩に恨みを買うようなことをしたっけか……身に覚えがないな。


「何か悪いことをしたなら謝っといた方がいいでござるよ」


「あ、ああ……なんか悪かったなって伝えといてくれ」


「承ったでござる。もう1度考え直すよう主に取り合ってみるでござるよ! では、さらばでござる!」


「おう……頼んだ」


 そう告げると、宮元はどこか誇らしげな背中を向けて去っていった。

 宣戦布告だなんて随分と生意気な後輩だな。撃とうととすれば、同時に撃たれるリスクも発生する訳なのだが、理解出来ているのだろうか。

 しかも、宣戦布告をするとなれば此方もそれなりの策を用意できてしまう。舐められたものだな。

 絶対に俺を潰せる余裕があるが故だろう。何を企んでいるのか。壊すものが何なのかは定かではないが、防衛では手遅れになりかねない。なので、こちらから先手を打つ必要がある訳だが……。

 だが今は後回しだ。今はとにかく3日後の体育祭を無事に終えることだけを考えなくてはな。


 まったく、どいつもこいつも面倒くさいな……。

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