2章3‐1 昼間から蟹かよ。
時は流れ、5月は下旬へと差し掛かった。
今日は2年最初の中間テスト終了日であり、一息付きたいところなのだが、そんな山場超えも束の間、これから3日間の振り替え休日を挟み土曜日にはもう体育祭が始まる。
これまで、中間テストのことに時間を吸われ、投票でのランキングに影響を与えるような活動があまりできていなかった。
今回の投票は体育祭の後に行われる。なので、そこで何か個人的にアピールできるようなことを考えておかねばならない。……というか、毎回こうなるんだろうな。
これからもイベントは多々あり、この状況は常に続くどころか、寧ろ冬から春は1番暇なシーズンであって、これからはより多忙となっていくだろう。
なので、そのイベントの中でどう異彩を放つかが効果的でかつ、理に適った活動なのかもしれないな。
無論、日々の小さな積み重ねも怠るつもりはないが。
「ふぅー、久々の部室。やっぱり放課後はここに来ないとね」
「1週間来れなかっただけだろうが」
で、現在は放課後の部活動タイムだ。今日はテストの日だったのでまだ昼前だ。
期間中は部活動停止期間なので、1週間ぶりの部室。
「毎日のように来てる場所に1週間も来なければ、そりゃ懐かしく感じるものさ。で、今回のテストどうだった?」
「言うまでもなくいつも通りだ」
とはいうものの、少しでも黄谷に入れる票は増やしたいので、テスト直前に軽く勉強はしていた。なので10~20位は硬い点が取れたろう。
「ふーん。相変わらず余裕そうで羨ましいね。僕もいつも通りの点数は取れそうだけど、進級して勉強が難しくなったせいでテスト勉強の時間は増すばかりさ。本当、学生って勉学の奴隷だよね。早く大人になって自由になりたいや」
大人になっても自由なんてやってこないと思うがな。結局は会社へ入って誰かに使われる日々が待ち受けているだけなのだから。
「だが、ここを卒業したらもうアイドル達は遠い存在になってしまうんだぞ」
「あぁ、それは嫌だね。会えなくなるのも嫌だし、世間に認知されてしまうのも嫌だ。ずっと僕達だけの存在であってほしい」
「自分勝手いうな。お前なんかの為に世に出るなとでも言うのか」
「そうだけども……まぁ、デビュー前から応援していた優越感に浸るだけで我慢するよ」
「ああ、それで我慢しとけ」
「ところでさ、部室に何か変化を感じないかい?」
「変化……?」
何も感じなかったが、はて。部室内を見回してみると……。
「……おっ、進入部員を増やしたのか」
「進入部員ってなんだよ! コーヒーメーカーだよ」
棚の上に立派なコーヒーメーカーが置いてあった。
「そりゃ見りゃ分かるが、自分で買ってきたのか?」
わざわざ部室に置く為に買うのは勿体無いと思うがな。見るからに新品で家からお古を持ってきた訳でもなさそうだし。
「いいや。これは理事長先生に買ってもらったのさ。その値段なんと15800円!」
「はっ!? お前馬鹿か。折角の機会をこんなしょうもないもんに使うなよ。もっといいもん買って貰えたろうに……」
俺と瑛介は学年末の件の詫びとして理事長になんでも好きなものを買っていいと言われていたのだ。
瑛介は約1ヶ月程アイドル新聞部の活動を停止させられ、しかもその期間を黄谷に票を入れる為に猛勉強に費やされることになったのだ。
いくら1ヶ月とはいえ高校生活での時間はとても貴重なものであって、その大切な時間を様々な苦痛で埋めさせられたのだ。その対価はかなり莫大なものとなる。
理事長は全国でも2桁クラスの順位に位置する程の億万長者だ。そんな金持ちの相対的な金額から言えば、最低でもフルオプションの新車くらいは余裕で買って貰えただろうに。なんだよコーヒーメーカーって。頭おかしいだろ。
「そんなことないさ。僕は親友を裏切った挙句、テストでも結果を残せなかったんだ。こんな役立たずに、詫びだなんてとんでもない。寧ろ僕が詫びを入れるところさ」
「いやお前は十分被害者だろうに……」
こんな心の傷まで負わされているんだからこそ、高い対価な訳なんだが。
「それに、あの期間は僕にとって色々な教訓になっているんだ。こういっちゃなんだけど、有難い出来事とすら思ってるんだ」
「ふーん。まぁ、お前がそう思うならいいんじゃね」
今度理事長に会うときに、瑛介が欲しがってたって言って、高級ソファーとクッションでも買ってもらうか。
「でも、それは文空も同じなんじゃないの? 何も買ってもらってないみたいだし」
「……俺は後に取っておいてるだけだ」
確かに俺もそんな風に思ってはいるが、同時に憤りを感じる点もある訳で、俺は遠慮するつもりなんて欠片もない。
だがそれは自分の為ではなく、黄谷の活動に役立てる物の為に役立てようと思っている。もう既にうっすらと目処も立っている。
「それに、理事長先生に借りを作っておけば後々いいことありそうだしね」
「まぁ、そんなことだろうと思ってたぜ」
「で、どう。文空も飲んでみる? 今日は特別に僕が淹れてあげるよ」
「それは助かる。だが、俺は紅茶で頼む」
「おい、そこはコーヒー飲むとこでしょ……でもいいか。今日は少しでも美味しいコーヒーを飲む為に飲料水を持参してきたからね」
高級な水と水道水の違いも分からない舌をしてる奴が生意気に。
「ここのタンクに水を入れてと……」
水を入れタンクの蓋を閉め、おぼつかない手つきでボタン操作を済ませると、ガリガリとドリップ音が響く。
そして、数十秒が経過し、今度はコポコポと音が鳴り出しコーヒーが抽出され、それと同時にコーヒーのいい香りが広がる。
「んはぁ~いい匂いだね」
「だな。俺も今日はコーヒーにしてみるか」
「おっけー……でも、まだ出来上がるまで時間掛かりそうだね」
少しづつ抽出されている為、まだ飲めそうにない。
「そういえば、もうこの次期にもなれば応援合戦の出し物も決まってるんでしょ? 教えてよ」
「済まないがそれは機密事項だ。当日を楽しみにしておけ」
「くぅ~気に入らないな~。僕以上にアイドルの秘密を知る生徒がいるだなんて」
「仕方ないだろう。“一般生徒”には教えられないんだ」
「煽ったな! このアイドル神である僕を煽るなんていい度胸してるじゃないか!」
「黙れ。そういうノリウザいから止めろ」
「……ごめん……」
「ああ」
「「…………」」
俺の塩対応に瑛介は黙り込んでしまい沈黙が流れる。
ドリップ音だけが響く部室。流石に冷たくしすぎただろうか。
仕方ないのでメンテナンスの一環として適当な話題でも振ってやるか、と思った矢先。俺のスマホからチャットの着信音が鳴った。
差出人は黄谷からだった。内容を確認すると、
『重大発表があります! 今すぐ来てください!』という内容だった。
どうやら黄谷はなにか朗報を伝えたいようだ。だが、実はそれがなんなのかはもう察しがついている。
でも『知ってた』と言ってしまえば、落胆させてしまうだろうから、驚きのリアクションの準備をしておくか。
そんな訳で、鞄を手に席を立ち上がる。
「んじゃ、呼び出されたから、これからアイドル科に行ってくる。今日はもう戻ってこんわ」
「あ~またそうやってさ、僕を蚊帳の――」
扉を閉めたのでここから先は聞き取れなかった。
☆
集合場所はアイドル科食堂だった。丁度今は昼時だからだろう。元より俺は今日ここで昼飯を済ます予定だったから丁度いい。
室内を見渡すと黄谷はまだ来ていないようなので、先に料理を取ってしまうか。なんせ今日は――。
並べられた料理を見てみると、やはり今日は魚料理がメインのようだ。
視線を滑らせメニューを見渡す。焼き魚や煮魚からソテーまでもの様々な種類の料理が並んでいたが、その中でも一際存在感を放つものに目を奪われる。
それは、大皿にこれでもかという程に山盛りに積まれている蟹の足だった。それも1つ1つがデカい。
高級食材との対面に上がるテンション。なんせ、この食堂を利用し始めてから初の豪華メニューだからな。
豪華メニューが並ぶ時は1週間程前から告知されているので、この日が待ち遠しかった訳だ。
さて、これだけ山盛りあるんだから遠慮する必要はないよな。
蟹足を3本取り、他にも鯖の味噌煮と普通盛りのご飯に、サイドメニューの粗汁を取りテーブルへ着く。
「さーて、いただきま――」
「おお文空、お前も今から飯か! 折角だし一緒に食おうぜ!」
いざ実食しようとした刹那、青松に声を掛けられてしまう。
「……別に構わないが」
「よっしゃ、1人飯なんて寂しいもんな!」
俺は1人のがいいんだけどな。じっくりと味わいたいし。
青松は俺の了承を得ると、席を確保するように抱えていたダンボールを俺の目の前に置き、
「じゃあ飯取ってくるからちょい待っててくれ」
一緒にいただきますしたい系女子ね。理解できない心理だ。俺は早く食いたいというのに……。
それにしても、今日の青松はいつもより若干テンションが高い気がする。蟹の効果だろうか。
料理を取り終えた青松は鼻を鳴らしながら席に着く。
「……蟹好きなのか?」
青松の皿に乗せられた蟹の足は5本。1本でも結構身が詰まっていて腹に溜まるだろうに。しかも、これだけならまだしも、他にも料理を取っていて終いには山盛りご飯。総量は男の俺を優に超えている。
「まぁな。蟹なんて滅多に食えねーし、食えるときにどんと食わねーと」
「やっぱり珍しいんだな」
「だな。まぁ大体3ヶ月に1度くらいのペースだからそんな珍しいモンでもねぇけどな。ちなみに肉の日には、分厚くて柔らかいステーキが出るんだぜ」
「まじか。是非ともその日には来たいものだな」
「1週間くらい前から告知されるから見落とすなよ」
「見落とさないか不安だな……」
「んじゃ、次告知されたら教えてやるよ」
「本当か、それは助かる。じゃあ連絡先を聞いてもいいか?」
「おう、いいぜ。てかまだ俺達連絡先知らなかったんだな」
「まぁ、連絡が必要になるときなんてなかったからな」
そんな訳で連絡先の交換を済ませる。アイフォンではなく自分のスマホで。
「食事中に済まなかったな。んじゃ、蟹を堪能するとしようか」
「だな」
「「いただきます!」」
さてと、まず最初は言わずもがなこの太い蟹足だ。……って、このままじゃ食えないな。
「青松――って、お前もか」
どうやらお互いに蟹ハサミを忘れていたようだ。
「俺が取ってくる」
「おうサンキュー!」
蟹ハサミを2つ取ってきて青松に渡し、ようやく蟹へ手を掛ける。
殻をハサミで切ると、うっすらと身から湯気が立った。同時に広がる蟹独特の香り。
そそられる食欲。今すぐにでも被り付きたいが、その衝動を抑え丁寧に殻を剥く。全ては一口で喰らいつくす為に。
葛藤の末に剝き出しとなった身は、殻を失っても尚重量感の低下を感じさせなかった。それだけ身が締まっている証拠。
全ての弊害は消えた。後は食すだけ。箸で身を掬い上げ勢いよく頬張る。
噛んで解れる柔らかな身。この太さ故に咀嚼時点でもう幸福感が沸く。そして、やがて直面する味。そのファーストインパクトはなんと甘みだった。繰り返す咀嚼の中で確認するが、この優しい旨味は確かに甘さだった。
一口で食べたのは正解だった。口いっぱいの幸福が止まらない。太い身だからこその食べ応え、その先にある旨味が絶え間なく続いてくれる。これが食べ放題とか――
「最高か流創学園」
「だな。家族にも食わせてやりてぇ」
どうやら青松も同じ感想を抱いていたようだ。当然か。逆にこれを不味く感じる奴なんているのだろうか。
――だが、そんな幸福も満腹になれば終わり。
「「ごちそうさまでした」」
ふぅ……食った食った。丁度9分目といったところだ。
青松は食事中話し掛けてくることなく、ゆったりと蟹を堪能することができた。俺が話し掛けにくいタイプの人間だからだろうが。
「ところで気になってたんだが、それなんなんだ?」
それとはテーブルに置かれたダンボールを指す。
「ああ、これか。腹減ってて、1度部屋に置きに戻るのも面倒だったからそのまま持ってきちまったんだ。ちょっと待ってな……」
別に中身が見たい訳じゃないんだが。青松は親切にダンボールの封を開けてくれた。
「……おもちゃか?」
「おもちゃ言うなよ。……まぁ合ってるんだけどよ……」
中に入っていたのは日曜の朝にやっていそうな特撮ヒーローの玩具だった。
だが趣味とはいえ、おもちゃといわれるのは恥ずかしい年頃なのだろう。玩具と言うべきだったな。
「すまんかったな」
「気にすんな。オレの特撮好きはいずれは周知されるんだし、外の目なんざどうだっていいぜ」
「そうか。黄谷から聞いていたが、特撮番組に出演するのが夢なんだってな」
「もうバレてたのか。その通りだ。まぁ、正確には、アクション女優になるってのが正解だがな」
「成程。お前ならその夢叶えられるんじゃないか」
青松の運動神経があればアクションも卒なくこなせてしまうだろう。
壁となるのはその仕事を取ること自体だな。アクションができるだけでテレビドラマの役を取れる程甘くはないだろうしな。
「へへっ、それなんだがよ……」
「ん、なんか進展でもあったのか?」
「いやぁ、それがよぁ。なんと、向こうの方からわざわざオレに是非やってみないかって、声が掛かってきたんだよ」
「まじか。すげーな」
成程な。上機嫌だったのは蟹ではなく、そのせいか。
「まぁ、オーディションに呼ばれただけだし、大きな役でもないみたいだがな」
例え小さな役にしろ、向こう側にポテンシャルを示せれば夢へと近付く大きなチャンスになる訳だから、身が入るのも無理はない。
「上手くいくといいな」
「おう! 例え役を取れなくても、でっけぇ爪跡残してきてやるぜ」
本当に上手くいってほしいものだがな……。果たしてそんな旨い話はあるのかな。
「あー、なんで待っててくれないんですか!」
後方からの急な叫び声に驚き背筋が伸びる。
「あ、いや。いつ来るか分からんかったし、腹が減っててな」
「もう~。私がご飯一緒に食べたい系女子なの知ってますよね?」
仕方がないだろ。蟹を目の前に食欲を抑えられなかったんじゃ。
「そ、それより、重大発表があったんじゃないか?」
「あっ、そうです! 超重大発表があるんです!」
「そうか。で、それは一体なんなんだ?」
上手く話を逸らすことに成功する。
「はい、それはですね……もう凄いことなんです! 知りたいですか?」
もう知ってるから、溜めないでさっさと言ってくれ。
「ああ。気になるから、早く教えてくれ」
「わかりました! ――なんとですね、この私が……次回のレプタイルフェスにお呼ばれしちゃいましたー! いぇーい!」
「うおっ――」
「おお! すげぇじゃねぇか!」
折角用意していたリアクションは青松の声によって掻き消されてしまった。
「ですよね! 凄いですよね! きっと私の爬虫類愛が認められたんですよ!」
「……わざわざ早起きしてまで行って正解だったな」
やっぱりそうだったか。よかったよかった……。
俺は先週の土曜日に黄谷と共に池袋で開催されている爬虫類のイベントへ足を運んだのだ。そのイベント名がレプタイルフェスだ。
向かった目的は黄谷が前に言っていた2匹目のひょもを向かえ入れる為。
そしてイベント当日。理事長が事前に手を回してくれ、入場開始の1時間前に会場に入れてもらえるよう手配してくれたのだ。そのお陰で誰よりも先に好きなひょもを選ばせてもらえたりしたのだが、更に理事長はそれだけでなく、黄谷に秘密で俺にもミッションを与えた。
それが黄谷の売り込みだ。トークショーで黄谷をゲストとして召集してもらえるように黄谷をPRする、という根暗な俺にはハードルの高い任務を与えてきたのだ。
だがまぁ、俺は別に大したプレッシャーは感じてなかったんだがな。
どうせ理事長のことだから、もう既に仕事は決まっているが、俺の修行の為にそれを伏せ、向こう側にも知らない体を通すよう裏口を合わせていただろうから、どんなに酷いプレゼンをしようが関係ないだろう、という捻くれた発想でいたからだ。
だから、当日もとりあえず形だけのプレゼンを済ませておいたが、無事仕事にありつけたようで一安心。
「ひょもしか飼ってない私が爬虫類愛を語るなんておこがましいかもしれませんが、それでも、沢山の爬虫類好きの方の前で愛を発散されられちゃうなんて、楽しみすぎて夜も眠れません!」
「まだ半年先なんだし気が早すぎるだろ」
「半年なんてすぐですよ。もう既になに喋るかも考え始めてます!」
「そうか。まぁ、嬉しそうで何よりだ」
「はぁ。楽しみすぎてお腹空いてきちゃったので、私も蟹さんを食べましょうかね」
さてと、黄谷はこれから飯だろうし、今の内にアポ取っとくか――とスマホを取り出した時だった。
「随分と盛り上がってるみたいじゃない……ふふんっ」
ご機嫌に鼻を鳴らして接触してきた緑沢。まるで『どうしたんだ?』と聞いてくれと言わんばかりの自己主張。
恐らく、黄谷の話題が終わるまで待機していたのではないだろうか。
「どうしたんだ? お前もなんかいいことでもあったのか?」
「ふふん、聞きたい?」
「まぁ、そうやな」
いいえと答えた方が面倒くさそうだし。
「仕方ないわね。なら特別に教えてあげるわ。――なんと、フリフリロックフェス2019に天才高校生シンガーとしてこの私がお呼ばれしちゃったのよー!」
「へぇ~。なんのことか分からんが、とりあえず凄いんだな」
「はぁ? まさかフリフェスのことを知らないの?」
大体の人間は知らなそうだが……。
「私もなんのことか分からないけど、おめでとうひょも~!」
「オレも知らねぇけど、やったじゃねぇか!」
ほらな。
「……ふ、ふんっ。まぁ、アンタ達じゃこのライブは崇高すぎて理解できないでしょうし、豚に真珠よね」
「ふんふん~♪ あらあら、なぁになぁに、お母さんも仲間に入れて~」
今度は橙田が鼻歌を歌いながらやってきた。またこのパターンか。
「発表したい事があったらどうぞ」
「あらま、バレちゃったみたいね。顔を見るだけで分かるようになるなんて、順調に親子の関係を築けているみたいね」
「大変光栄なので、さっさと話してください」
不本意極まりないが、鼻を守る為に適当に乗っておくのが吉だろう。
「仕方ないわね。じゃあ教えてあげる! なんと、あの繁田晴美さんが私のデザインした衣装を着てテレビCMに出てくれることになったのよ~」
「はぁ、繁田晴美って、あの女優の繁田晴美よね?」
どのだよ。
「そうよ~。チョコレートのCMみたいなんだけど、会社の人が私にやってほしいって」
へぇ、全く知らない奴だが凄いんだな。
「はぇ~、やるじゃないの」
「でしょでしょ~、もっとお母さんを称えなさい!」
「ふぇ~みんなこんな一斉に仕事が決まっちゃうなんて、偶然とは思えないひょもね。理事長先生がなんかしてくれたひょもかね?」
料理を取り戻って来た黄谷。
確かに理事長が黄谷だけでなく、他の奴にも仕事を作っていたと考えるのが自然だろう。
恐らくここの奴ら以外にも……。すると、丁度いいタイミングで赤宮が横を通り掛ったので一応確認を取ることにする。
「おい赤宮。お前なんか割と大きめな仕事とか来なかったか?」
「はぁ、なによいきなり?」
「いいから早く言え」
「……ローカルの局だけど、ニュース番組のグルメ特番でリポーターをして欲しいって」
「そうか。もう帰っていいぞ」
「なんじゃおらお前」
やはりそうか。まだ全員分は聞けてないが、もうこれだけ分かれば十分だ。
丁度よかったな。今日は理事長に会いに行くつもりだったからな。
このことも含め色々と聞くとしよう。




