1‐2 アイドルとの親睦回なんて、やりたい奴だけやっていろ。
『それでは只今より、アイドルふれあい親睦会を開始させて頂きまーす!! イエェェェイッ!!』
教頭。お前に面子ってもんは無いのか……。
引き続き教頭を司会に、親睦会の開始が告げられる。
生徒らはある決められた順番に整列し、並べられたパイプ椅子に腰を掛けていた。
宴が待ち遠しいのか、会場はまだ少しざわついている。
『今更ながら期末テストご苦労様でした。皆様方の努力は点数となり、結果として具現し、それが今、アイドル達の命運へと変わろうとしています……。その命運は、今あなた達の手に握られています。この親睦会は、その礎とも言えるでしょう』
礎とは、先程言っていた投票の事だ。
流創学園では毎回テストが終わった後にアイドルの人気投票が開催される。
普通科ではテスト結果が貼り出され、全科目の合計点による順位が全生徒に公開される。
席順は前方から、その順位に沿って座らされる。
1年は180名在籍していて、横が20席の9列で並んでいて、その両サイドのスペースに教師や関係者やらがつっ立っている。
俺の順位は20位なのでギリギリ最前列に座る事になってしまった。
『投票で使用可能な票は、各個人のアイフォンにてチェックする事ができるので、不備がないか、今一度ご確認の方よろしくお願い致します』
アイフォンとは学園専用端末のスマホの事を指す。ちなみに正式名称アイドル・フォンの略だ。
このように専用端末を用いる事により、特殊なイベントなどの円滑化を担っている。
『もうどの子に投票するかはお決まりでしょうか。常々から一貫して応援している方。今回は別の子にしてみよう。なんて方もいるでしょう。ですので、これからアイドル達と触れ合い、それを決断の材料にして頂ければ、アイドルの方々にとっても光栄と思えるでしょう。その為の場ですので』
ふん、親睦を深める。なんてよく言ったものだな。
文面だけで見れば、生徒全員がアイドル達と触れ合える愉快なイベントの様に思える。
だが、この学園はそんな生易しくはない。
この親睦会もこの学園の理念を思い知らされる機会なのだから。
それも、アイドルが好きである程にな。
『さて、もうこんなオヤジの話なんて聞きたくもないでしょう。さっそくお馴染みのアイドル達に登場して頂きましょう!! 準備はいいか!? うぉぉぉぉぉ!!』
教頭の雄叫びと共に会場の野蛮な男共の汚い歓声が広がり、会場のボルテージもマックスになる。うるせぇ!
照明が消され、ステージの方に複数のスポットライトが当たる。
同時に汚い歓声も収まり、緊迫した空気が流れ出す。
いよいよお待ちかねのアイドル達の登場という訳だ。
『私はこれから観客として楽しませて頂きます。というわけで花山先生、後の方はお願いします』
そう告げ、教頭は隣からやってきた人物にマイクを渡す。
『――は~い。それでは、これからの司会進行役は、私、花山が務めさせて頂きま~す! みんなと一緒に盛り上げて行こう思ってるので、よろしくお願いしま~す!』
教頭はステージを降り、司会進行はアイドル科の女性教師である花山先生が務めることになった。大体のアイドルのイベント進行はこの人が務めている。
アイドルに汚物を混ぜると批判が殺到するだろうから、妥当な判断だろう。
大音量のBGMが流れ出し、スポットライトがカラフルになり、ステージが華々しいものへと変わった。たかだか親睦会で大袈裟すぎる……。
高い学費はこういった設備投資に消えているのだろうな。
『毎度恒例ですが、登場の順番は前回の順位と同じになります』
当然、この学園はアイドルにも厳しい。
順位という結果と共に生徒の面前に出るのだ。順位が高ければいいが、低い人間からすれば屈辱とも取れる。
厳しくなれば教育にならないから仕方がない。
『それでは参りましょう!! 1人目は、3回連続オール1位を獲得!! 不動の王――藍坂ななみ!!』
少し恥ずかしいコールと共に、ステージの袖から一人の少女が現れる。
『――そう、私は王。女王なんかではない。性別の垣根を超えた、純粋なる王』
凛とした表情で、長髪を靡かせながらステージを歩くその様には上質な品性を感じさせ、ただ歩いてるだけで他者にはない異彩なる存在感を放っている。それは頭部で輝く金色の王冠に気付くのが遅れる程に、強く絢爛に。ライトの光で反射して見えにくくなっているだけ説もある。
1番人気故の莫大な歓声。藍坂はその歓声を受け止めるかの様に両腕を広げる。それは快感を感じているかの様に受け取れる。
やがて満足したのか目を開き、
『私は王として頂点に君臨し続ける。この椅子は誰にも渡さない。どうせ今回も私が1位。以上』
言い切ったな……。流石である。このイベントは票を貰う為のアピールの場なのだが、それを要求するような事は一切しない。
それはプライドの高さ故、決して自分からは行かない。そちらから来い。という我がままな精神。
傲慢。なのに票は後を絶たない。何故ならそれだけの有力者だから。まずこの一枚岩が陥落する事はないであろうと確信できる程には圧倒的人気を誇っている。
こうして軽い自己PRを終えたアイドルは、ステージの後方へ行き定位置へ付く事となっている。
……それにしても、やはりこういうノリは慣れないな。
アイドルとしてやっていく以上、キャラ作りをしなきゃなのは分かるが、暗闇の中を好む俺からすると、ああいった目立ちたがり屋は、輝度差が激しすぎて到底交じり合える存在ではないと痛感する。なんで俺こんなとこにいるんだろう……。
『はぁ、物凄いオーラを感じます! これぞ正に「王者の風格」ってやつですね!』
どうやらオーラは他の人にも見えているようだ。
『さて、時間が押してるのでどんどんいっちゃいますよ~!! 冷酷無情の奇才――紫崎らいな!!』
そういう事言うと後続が焦っちゃうでしょうに。まぁ次の奴はそんな事気にしないだろうが。
『……ファンなんて所詮ステータスの欠片。駆け上がる為の踏み台。私の邪魔はしないで。以上』
相変わらずなのだが、前より酷くなってるな……。
接待の根底を覆すようなセリフで登場した彼女は、紫崎らいな。
サラサラな長髪、細身の体に白い肌、それはまるで雪女を思わせるかの様。
ファンの目に塩を練り込む程の対応にも関わらず順位は2位。毎回上位はこの2人が独占している。
こんな冷酷無情な彼女が多くの票を得られている理由。それは言われている通りの奇才だからだ。
特筆すべきは年齢不相応と言えるその美声か。彼女の歌は、音楽なんぞに関心のない俺でも聞き入ってしまう程だ。一度耳に入ってしまえば最後。しばらくは頭から離れない。
自己PR?を終えた柴崎は定位置に付くなりスマホを弄りだした。なんてマイペースなんだ……。
『か、彼女は動物が好きなんですよ! ペットのフクロモモンガをすごく可愛がっていて……』
それフォローになってないから。
誤魔化しは無理だと悟ったのか、さっさとバトンを次に回す事に。
『――で、では続きまして、ディア・マイ・マザー、橙田やづる!』
仕切り直して3人目の登場。
『よい子のみんなー!! 保育園なんて退屈でしょ、お母さんが迎えにきたわよーー!!』
あーキツいの来た。
高校生の俺らを保育園児扱いする、この女は橙田やづる。
最近流行りの母性の感知、すなわち『バブみ』に便乗したような浅はかなキャラ設定かに思われるが、高校1年生とは思えない年齢不相応な大人びた雰囲気、立ち振る舞いなど、それらが合わさる事により生まれる包容力はまさしく母を連想させる様で、学業で疲れ果てている生徒のハートを鷲掴みにし、見事3位を獲得した。
余談だが、過去に彼女のライブにファンがおしゃぶりとよだれかけを付け、ペンライト代わりにガラガラを振って応援していたところ、それを見かけた教師に激怒される。という大変悲惨な事件があった。
その後、ファンの生徒らは厳重注意で済んだのだが、何の罪もない橙田本人が数週間の活動停止を言い渡された。連帯責任ってやつだ。それが馬鹿には一番効くからな。
そんな彼女の活動停止期間中、心の拠り所を失ったファンの喪失感は大きく、その様を橙田ロス……『ダイダロスの悲劇』と、この学園に神話を創った。
――という話を聞いた時は、悪いが笑ってしまった。てか、今思い出しても笑う。
『みんなの頑張り、お母さんに頂戴ね! それと……おいたは、めっ! だからねっ!』
どうやら息子達の傲慢さを気に掛けているみたいだ。
警告を終えた名工は手を振り定位置へ。
『いやぁ、やずるお母さんには大人の私でも、母性というものを感じてしまいます』
気をしっかり保ってください。
橙田は定位置に付いた後もファンに手を振り、ファンサービスを欠かさない。これが普通だ。
『さぁて、どんどんいきますよ! 今をときめくスーパーアイドル――赤宮みゆき!』
『どうも~みんなのアイドル、みゆきーでーす! え~、今日は親睦会という訳で、みんなの声援を直に頂けるという、とても有難い機会なので、みゆきーもみんなの声援に応えられるよう、頑張っちゃいま~す! という訳で、今回もベリベリよろしくお願いしま~すっ!』
普通のアイドルだ。素晴らしい!
赤宮みゆき。特筆する部分のない普通のアイドルだ。
決して貶しているわけではない。あいつは全ての基準を高水準で満たしているのだ。でもそれでは普通の域は出ないというだけだ。他の面子が濃すぎるせいでそう見えてしまう、というのも理由の一つだろうが、同時にそれが一番難しい事でもある。自我を出さずにニーズに応える。それこそがアイドルにあるべく姿だと俺は思う。
順位は4位のど真ん中。今まで順位の変動も少なくコアなファンが多いようだ。
俺もお前に票を入れてやりたいよ。なんか頑張ってるしな。まぁ、あくまで消去法だが。これからもどうかブレずに頑張ってくれ。
『これぞ正しくアイドルって感じですね! 昔の私を思い出してしまいます……』
え、今なんて?
『さぁ、残り3人となりましたが、勢いはヒートアップしていきますよぉ! 続きまして、豊潤の羽衣――緑沢みつな!』
彼女の登場により、少し気になり始めていた花山先生のカミングアウトは即吹き飛ぶ――
『この豚共ッ!! ブーブーうるさいのよッ! アンタ達なんて170℃の油の中にぶち込んで、何度もひっくり返して、豚かつにしてやるわッ!!』
物凄くテンション高いな。
とんかつアイドル、緑沢みつな。
小柄でストレートヘアという可愛らしい外見にそぐわない、鋭い眼光から放たれる威圧感が彼女の強烈なキャラを物語っている。
両親が豚かつ屋を経営している影響からか、このように言い回しによく豚かつが絡む。
平凡な高校生活を送っていると刺激が欲しくなるのか、彼女の養豚場への入豚志願者が後を絶たないとか。いや、とんかつ志願者か。
本当に大丈夫なのだろうか、この学園は……。
言いたい事を吐き出せたのか、緑沢は瞳を閉じ一呼吸置くと、先程までの強烈な雰囲気が打って変わり、
『……それと、私の両親が経営している、とんかつ『大爆散』の方も、どうかよろしくお願いします! 学割の方もやっているので是非!』
律儀なもので……。急にキャラが豹変したが、これは彼女のとんかつ店での営業モードであって、どちらが本当の彼女なのか定かではない。
ちなみにこの前、瑛介にそのとんかつ屋に連れていかれたのだが、大変美味でございました。正直また行きたいです。
『私も過去にお邪魔させて頂いたのですが、サクサクジューシーでとても絶品でした! 皆様も是非、足を運んでみてはいかがでしょうか』
朝食取ってないんで、食欲を刺激するようなコメントしないでください。
告知を終えた後、一礼し緑沢は定位置へ。最中に橙田とハイタッチをしたのだが、その時、隣の生徒が『尊い!』って呟いていた。理解のできない感性だ。
――さてそんなどうでもいい話は置いといて、これで5人か。よしよし、これでアイドルは残り1人。
『続きましては、親しみ深いアイドル――青松ゆいか!』
『よっ、お前ら! 久しぶりぃっ!』
気さくに振舞う彼女は、青松ゆいか。
ショートカットに、スラっとしたスタイルで、その陽気さも相まり、ボーイッシュという印象を真っ先に抱く。
ステージの前だけではなく、常にアイドルとファンという塀を取っ払い、まるで親しい友達かのように接する彼女は、生徒達からの人望が厚く、さながら学校の人間全員と友達といわんばかりの顔の広さを持っている。
が、何より凄いのは、そんな関わった人間一人一人に対する入れ込みだろう。
クラスの中心から壁際にいる奴まで、その全ての人間を話したエピソードも踏まえ、しっかり網羅いているのだ。とてもじゃないが、普通の人間に真似できるようなことではない。
脳の容量がテラバイトにまで達しているのだろう。
『にしてもよ~6位ってのはオレでもちょっときたぜぇ。だから今回こそはお前らの熱い票を頼むぜ!』
確かに6位っていうのは不名誉な称号かもしれない。
だが、気にすることなんて微塵もない。
龍創学園のアイドルという肩書き自体が大きな盛名であり、この6人のアイドル達はそんな学園の象徴であり、誇りともいえる大変名誉な人間なのだ。
何千人の人間から選ばれた、唯一無二の魅惑的なポテンシャルを持った6人。
順位なんて溝はあってないようなもの。もっと胸を張っていいと思うのだがな。
『今度一緒にドッジボールでもしたいですね! ゆいかちゃんを見ているとこちらまで熱を受けて体を動かしたくなってしまいます』
俺はならないが、確かにその活力は分けて欲しいものだ。
よっし! これでアイドル達の自己PRは終わりだ。今日はこんな6人と親睦を深めてく訳だ――
『さぁ、いよいよラストの7人目のアイドルの登場になります!』
あああああ、いやだあああ、やめてえええっ
『パワフル斑点アイドル――黄谷かこむ!』
ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
心の絶叫空しく、ステージにラスボスが降臨する――
『ひょっもーん☆ みんな~元気にしてたひょもか~! かこむは今日も元気いっぱいひょも~!』
ああぁぁぁ、スピーカーが音割れを起こすレベルの高音が広がる。
まるで黒板を引っかいたときのような背筋がゾワっとする不快な電流が流れ、そのせいで思わず変なポーズを取ってしまう。
俺は冷めた生活を送っているからか、こいうった常識からかけ離れているようなものへの耐性が低いのだろう。
なので、俺は黄谷の喋りを聞くだびに、この不快感に苛まれければならない。
過去にそのせいで体調を崩し、学校を早退して寝込んだことまであった。
それはさながら病原体。名称を病原体KK-Mと名付けた。
『み~んな大好き、かこむひょもよ~! 今日もい~ぱい、ひょもひょもするひょもよ~!!』
みんな大好き(毎度連続7位)。
黄谷の順位は常に最下位。このキャラは常人にはとても理解の及ぶようなものではない。
妙ななまりを持つこの喋り方も、ゾワゾワポイントだ。
語尾に付けている『ひょも』とは多分、彼女の衣装の柄にもある豹紋柄からきているのだろう。
好みなのだろうか、普段もよくこういった斑点模様のコスチュームを身に付けている。その模様もキツい。
本当になんで苦痛の後にまた苦痛を味あわなければならないのか。
『見てひょも~! このカワイイ衣装は世界に一つだけの特別な衣装なんだひょも!』
黄谷はくるっと1周回り、その衣装を見せ付ける。
全身を黄色を基調とし黒い斑点模様がある衣装で包んでおり、後方には太い尻尾のようなものが付いており、頭に被ったフードには目があることから怪獣をモチーフとしたものなのだろうか。
てか、それよりもなんでお前だけ専用衣装なんだよ。他のアイドルは制服なのにおかしいだろ。
『とても素敵な衣装ですね! 世界に一つの特別な衣装、ということはご自身でオーダーメイドなさったとか?』
『えっ……あ、あの……これは、ママに作ってもらったんだひょも!』
急に歯切れが悪くなる黄谷。
ふむ、前々から一つこいつに思ってたことがあったんだが、それがほぼ確信へと変わった。
この後それをどついてやろうか……いや、そんなことしたら『協定』を破りかねないからやめよう。
『この後の面会で、より近くで見えるから、ひょんもりと見ていって欲しいひょも! それじゃあ、この後もよろしくひょも~!』
ようやく終わったか……お前1人だけでどんだけ時間使ってんだよ。
『それではアイドル全員が出揃ったところで、皆様お待ちかね、アイドル面会の方に入らせて頂きま~す!』
当然、親睦会なのだからこんな挨拶は所詮前座。
これからこの親睦会のメインとなる面会が始まる。
面会とはそのままの意味で、生徒とアイドルが直接面と向かって会話ができる機会である。
生徒らが浮かれていたのはこれがあるからだ。
そりゃ、アイドルと直接面会できるなんて夢のような機会だろう。
だが、この面会にももちろん戦略が潜んでいる。
なんせ、この流創学園のモットーは『格差社会』なのだからな。




