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2章2‐1 新年度早々におっさんの長話は苦痛すぎる。

『えー皆様。進学おめでとうございます。海外へ留学した鎌田君を除いて、誰一人として欠けることなく、またここから同じ顔ぶれを眺めることができ心より嬉しく思っております』


 今日から2年生の学園生活が幕を開ける。

 開幕の初日はまず始業式という苦痛を乗り越え、現在はそのまま流れて学年朝会が行われている。

 毎年この時期になると、学校生活は一新される。新しい教室にクラスメイト、まだ紙が硬く独特の匂いを放つ新品の教科書。これから迎える新たなイベントに胸を躍らせる。

 人によって薔薇色か灰色かと区分されるが、新学年初日特有のこの胸をくすぐるような高揚感は、誰にでも等しく訪れるものなんじゃないだろうか。

 なんせ俺のような根暗にもそんな気持が込み上げているのだからな。


『さて、皆様は今日から2年生に進級しますが、この2年生という学年をどう捉えていますか?

 入学から環境に適応していく1年生や進路に向けて活動する3年生に比べて、特に掲げる点のない学年と思われがちですよね。ですが、そんな事はありません。実は2年生の時期が一番大切な時なんだと、私は思っています』


 まぁ、そんな初々しい気持も校長の長話と、現在行われている教頭の長話というダブルアタックによって掻き消えつつあるんだがな。

 こいつも無駄に話が長いんだよな。中身のない話をダラダラと続けて精神力を吸っていく妖怪だ。これこそが学園生活なんだと、さっそく現実に引き戻されていく。


『アーハイハイ、モーソウイウノ、イイデスカラー。

 校長じゃあるまいし、そんな退屈な話ここにいる生徒は求めてませんから。アイドル学園なんだからニーズを履き違えちゃダメですよ』


 ナイス花山先生!


『え、でも今日は親睦会でもないし、今はただの学年朝会ですよ?』


『校長ごっこしたいのは分かりますけど、もうノーチャンなんですしさっさと割り切りましょ』


 笑いが起きる会場。だが当の本人が笑えていないように見える。


『はい、それじゃあアイドル達が待ってるんだし、どいたどいたー!』


『あーはいはい。ですよね。こんなおっさんに需要なんてありませんからね。はいはい、失礼しました』


 可哀想な教頭。しかも退場を惜しむ声もなく、それどころか無情にも会場は湧き上がっていた。

 さらっと言われたが、アイドルの登場はサプライズだからな。


『えへへ~口を滑らしちゃいましたが、そうです! なんと今日はみなさんの進級を祝うべく、特別にアイドルの娘達が来てくれましたよ~!』


 いつもの朝会でアイドルが来ることはないのだが、今回は年度初めという訳で特別だ。いや、今年は5月から令和になるし年度初めはそこからなのだろうか。それとも2度年度初めが来るのか。


『という訳で、さっそく登場して頂きましょう! どうぞ~!』


 今回は親睦会のように派手な登場はせず、進級祝いの軽い挨拶をする程度のものだ。

 軽快な音楽が流れると、舞台袖からアイドル達が現れ、音楽に反し会場は派手にヒートアップする。というか煩すぎてもはや音楽が聞こえない。

 もう1年もここが居るが、相変わらずこういった空気には馴染めないものだ。周りとは1歩フェードアウトした場所にいるというか。なんでこいつらはこんなにも盛り上がれるのだろうか。


『ではでは、アイドルちゃん達から皆さんに進級祝いのメッセージを送ってもらっちゃいましょ~! トップバッターは相変わらずの1位のななみちゃんから!』


『進級祝い……なら仕方ないわね。存分に私の進級を称えることを許可するわ!』


 お前が祝われるんかい。だが、誰もツッコもうとしないどころか、盛大に祝福の声が上がる。あーおめでたおめでた。

 数十秒、やがてその歓声が止むと、藍坂は満足げに鼻を鳴らしマイクのスイッチを切った。

 続いては2位の柴崎。ここまでは不動だな。

 柴崎は相変わらず舞台の上では生気を感じられず、観客に対して無関心なのが見て取れる。

 そんな彼女が気だるげに口を開く。


『なんで目の前に沢山の椅子が並べられてるんだろう』


 どうすればそんな煽りが思いつくのだろうか。もはや関心してしまうレベルに到達している。

 それ以降口を開くことなく、次の生徒へ。ここからが異例となる。


『続きまして、次7位になったら退学という窮地に立たされていたけれど、必死の追い上げで無事3位となった、かこむちゃんどうぞ~!』


 そう黄谷が3位なのだ。その票169票。

 これは俺の99票と瑛介の20票、そして、鎌田の50票が足されたものだ。この結果を見るからに鎌田は綺麗に黄谷の票を刈り取っていたことが分かる。

 本来であれば不正を疑われかねない結果だが、俺の学年1位+いつもの黄谷の票数みたいな数字になったので、結果自然な形となった。

 にしても、黄谷と鎌田っていつ和解したんだろうか。なんかいつの間にか普通に接するようになってたんだよな……。


『――と、いいたいとこですけど……今回は3位記念という訳で、かこむちゃんには大取りとして、最後にロングトークをしてもらいたいと思いまーす!』


『えええぇぇぇぇぇーー!?』


 なんというサプライズ。予め用意していたであろう台本が一気に消し炭だ。

 残り4人分の時間があるので、その間に即興で台本を書き上げるしかなくなってしまった。

 不足の事態に弱い黄谷にとって、とても難易度の高いミッションと言える。

 まぁ頑張れ黄谷。2年になったお前ならきっと――おい、俺に視線を向けるな。俺は何もしてやれん。

 俺はその旨を伝えるよう視線を逸らし、そのまま次の緑沢に視線を向けた。


『生後2年目ね……もう豚肉としての質は落ちてるから食えたもんじゃないわね。ならせいぜい票を生み出す親豚として搾取されるくらいの意地を見せてみなさい』


 まさかの2連続罵倒。緑沢らしいセリフだが、いつもはここまで尖っていないことから、恐らく柴崎に便乗したものだと思われる。

 次はダイダロスだが、この流れに乗らなければいけないのかと困惑している。できれば断ち切ってほしいところだが、どう出るか。


『…………ねぇ、お母さんがなに言いたいかわかる?

 5位って、なにこの結果? え……私を応援していたから勉強ができなかった? そんなの言い訳でしょ。それは私を怠ける理由にしてるだけよ。

 本当に私を応援しているっていうのなら結果で示しなさい。……分かった?

 結果が出るまでは私の応援はしなくていいから…………いや、しなさいよ。いっぱいしなさい! 分かったわね。お母さんからは以上』


 なんだこいつ。普通に滑ってるぞ、と思ったが……周りでは受けてるところを見るに、やはり俺の感性がおかしいのだろうか。

 まぁ、こんなので笑ってしまうくらいなら、寧ろ今の感性のままのがいいか。

 それにしても妙にリアリティのある説教だった気がするが、前々から練習でもしてたのだろうか。

 さて、次は赤宮か。この流れに乗るのだろうか。


『あーあ、この私が6位だなんてさ~。せっかくお前らの為に気持ち悪いキャラ作ってやってんのにさ~、ほ~んと馬鹿馬鹿しくなるわ~。あーあー、あ~あ~、もーさーほんとにさぁ…………なーんちゃって! みゆきーはこれからも大好きなファンのみんなの為に、めげずに頑張るから、応援してねー!』


 この流れに扮して本音愚痴ってんじゃねーよ。日々の活動で手を抜いてるツケが回ってきただけじゃねーか、バーカ。アーホ。

 だが、そんな奴より下がいる訳で。今回の7位は……。まぁ、今回に至っては妥当な結果か。


『……悪いけどその流れには乗れねえ。オレはダチを罵倒するとか嘘でもできねぇタチでな。それに、今回はそんなこと言えた立場でもねぇしな』


 今回7位になったのは青松だった。

 黄谷が退学の危機に陥ったことによって軽いストライキとして活動を最低限にしかしていなかったからな。

 積極的に票を集めようとするアイドルと差が生じるのは当然の結果だ。

 そんな青松は姿勢を正し、


『……この度は、私の自分勝手のせいでファンの皆様の期待を裏切るような真似をしてしまい本当に申し訳ありませんでした。

 これからは、もう二度と同じ問題を起こさぬよう、より一層身を引き締めて活動していきたいと思います』


 慣れない敬語での謝罪を述べて、終わりに深い1礼をした。

 青松は意地になってしまうと、仕事と私情の区切りがつかなくなってしまう面がある。

 そのような頑固さはアイドルをやっていく上で足を引っ張りかねない。

 まだこの学園にいる内だから許されてはいるが、社会では通用しない。この学園生活で克服していきたいところだが。


『そうですね。社会に出れば我慢しなきゃいけないことが沢山ありますからね。しかも芸能界であれば尚更です。

 これからの学園生活でそういった大人の対応を覚えていきましょうね!』


『はい、頑張ります』


 そうは答えてはいるが、実際青松は反省していない。

 青松からすればアイドル活動よりも遥かに仲間が大切な訳で、自分は間違った選択は一切していないと思っているようだ。……この中で将来が1番心配なのはこいつかもな。

 ――で、黄谷。お前青松のトークに聞き入っているが、自分の方は大丈夫なのか?

 そのことが頭から抜け落ちているように見えるのだが。


『――ではでは、ちょっと湿っぽくなっちゃいましたが、大取りのかこむちゃん! どんと決めちゃって頂戴!』


『……べぁっ!?』


 やっぱりな。この様を見るに恐らく台本は白紙のままなのだろう。

 だが、今はチャンスだ。進級祝いなのに誰も祝う言葉を送っていない現状。ここで、まともに進級を祝うだけで、相対的に聖人扱いされる程の低いハードルが目の前に巡ってきているのだ。

 このチャンスをものに――だから俺を見るな。ここから何をしろっていうんだよ。

 先程同様、俺はそっぽを向く。すると、俺からは何も得れないと悟ったからか、


『……えー、みなさん進級おめでとうございますひょも!

 色々ありましたけど、今こうしてまた皆さんと学園生活を送ることができるようになって、とても嬉しいひょも!

 これからは、色々な人が支えてくれたお陰でできたこの道を、一歩一歩、感謝の気持ちを噛み締めながら歩るいてこうと思うひょも!

 でもって、私がこの道を進むことが、みんなへ1番お礼になるって信じてるひょも!

 だから、これからも共に成長していきましょうひょも!』


 うむ、いいメッセージだ。この時の為に長い時間を掛けて予めに考えていたのだろう。だが、それで済むのなら、


『短い!』


『えっ、でも……』


『でもじゃない。大取りなんだからせめて後5分は話してもらわなきゃ』


『ご、5分!? そんなに話せないひょも』


『はい、じゃあこれから5分間この場では誰も喋りませーん。だからかこむちゃんが喋らないと、ここにいるみんなの5分を無駄にしちゃうわよー』


『なんでそんな意地悪するひょも~』


『…………』


 無視。有限実行。なんというパワハラだ。

 これではまるで喋らない黄谷が悪い的な空気になってしまう。

 別に喋りたくない訳ではないのにな。今はただ急な要求のせいで頭が真っ白なだけだというのに、なんて過酷な試練を与えるのだろうか。

 だが、黄谷だってここで1年を過ごしてきた経験がある。こういった場面は初めてではない筈だ。

 自分がしてきた事は勿論、仲間のアイドル達がしていた事もしっかりと見てきたんだ。 そんな日々の観察から得たものを繋ぎ合わせれば、きっと即興でトークを作りだせる筈。

 さぁ、黄谷。今こそ――だから俺を見るな。この期に及んで俺を見るな。


『……え、えと、それじゃあ…………進級祝いということで、特別にひょもちゃんの絵描き歌を教えちゃうひょも!』



 お前は一体、今まで何を見てきたんだ?

 その後、キッチリと5分間、絵描き歌を聞かされましたとさ。

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