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4‐1 どうしてお前はいつも――

 2月中旬。私が活動をしなくなって10日が経過した朝。

 ……まだ6時か。目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまった。結局3時間くらいしか眠れなかったんだ……。

 あの日の出来事以来、ストレスによる影響によって生活リズムは滅茶苦茶になってしまっている。

 そして、目が覚めると同時に悲痛な現実が私を襲う。

 私から離れていくファンの人達。きっともう電子工作部以外の人達も――。

 どうして鎌田君はそこまでして私を退学させたいんだろう。

 あの人の迷惑になるようなことをした覚えなんてないのに……単純に私のキャラが不愉快だったから?

 でも、だからって退学させることなんて……いいや。でもあの人が動くまでもなく私が退学する結果は変わらないか……。

 更に、追撃を入れるかのように刺さる文空君の言葉……。あの人はなんで私を叱ったの。確かに言っていることは間違っていないかもしれない。けれど、あの人にそんな偉そうなことを言われる筋合いなんてない。

 なんの努力もしてないくせに……。頑張って積み上げてきたものが崩れ落ちたときの気持ちなんて知りもしないくせに。それに、私のことが嫌いだったくせに……。

 知っていた。文空君が私のことを嫌っていることを。面会のとき、黙ってる私が好きだと言われたときにすぐに察した。きっと騒がしいキャラが嫌いなのだろう。

 だから、あのときマネージャーを引受けてくれたときは驚いたな。

 では、何故そんな人をマネージャーに推薦したのか。

 まずあの人は頭が切れる。だから、私の退学を阻止してくれるかも、と思った。

 あとは、表面上だけの部分を見ただけで判断されるのは悔しいから。だから好きになってほしかった。

 そして、何よりも助けたかった。私は文空君の辛い過去を知っていたから。

 盗難を解決してくれた時。あの人の優しさに触れて、急にそんな気持ちが溢れ出してきてしまったから。

 ――でも、私が間違っていた。助けたいなんて余計なお世話だったんだ。

 あの人は助けなんて求めていない。あれが本来のあるべき姿だったんだ。それを変えようとする必要なんて無かった。

 これからも自分の為だけに生きていけばいいんだ。それがあの人が望む道なんだから。

 故にそんな人に叱られたってことが凄く腹立たしくて。その時を思い出す度に……それがなければ私はここまで苦しむことはなかった。

 今ではあんな人に関わってしまったことを強く後悔している。


 そんな出来事もあってか、私は人間不信へと陥ってしまった。

 どんな人もどこかに牙を隠し持っているように見えて、いつそれに刺されるか分からない。そんな恐怖が私の足を止める。

 このトラウマを克服できるのだろうか。もしできないなら私はまた――ううん。やめよう。

 もう起きて今日の準備を始めてしまおう。寝ていても同じことを繰り返し考えてしまうだけだ。

 本当は退学までずっと部屋に籠っていたいのだけれど、単位習得の為に授業にだけは参加しなくてはならない。

 重い体を起こし、身支度を始める。



          ☆



 朝食を取る為に食堂へ。

 中に入ると、もう同学年のみんながいた。……タイミングが悪かったな。そういえばこの時間は丁度みんなが朝食を取る時間だった。

 今までみんなとの接触は極力避けていたのに不覚だな。

 ビュッフェ形式の朝食。でもこんな状態で食欲なんて湧く訳がないので、なるべくエネルギー効率がよくて、流し込みやすい、卵焼き2切れとプリンを1つ取った。

 席はみんなとは離れたとこに座ろう。誰とも話したくないから。

 みんなは固まっているので、その対角に位置する席に座る。こうすれば話掛けないでほしいって察してくれるはず……。

 けれど――


「なぁ、かこむ。一緒に食べようぜ」


 1人でいたいのに……。察してはいるのだけれど放っておけないのだろう。

 きっと自分なら私を元気付けられるって思っているんだ。そんな訳ないのに。なんて烏滸がましいんだろうか。

 そして、それを皮切りに、


「お母さんも一緒するわね」


「わ、私もかこむと食べようかしら……」

 

「……私もかこむと食べる」


「じゃあ、アタシも」


 結局、ななみちゃん以外の全員が私の元へと揃ってしまった。

 私なんかに近寄ると不幸が移っちゃうよ。みんなは恵まれてるんだからさ……いいよね、みんなは。才能豊かで何でもできてさ。

 私なんて、なんの取り得もなくて、アイドルとしての才能も皆無なのに、どうしてこんな私がこの学園に入学できたんだろうか……。

 そんな子達の周りに私がいるなんて、もはや生け殺し状態と言っても過言ではない。

 だから、そんなみんなが羨ましい――いや、今に至っては憎らしい。考えるだけで気が荒ぶって、口元に力が籠る。

 どうすればそんなに恵まれたものを貰えるの? 私も恵まれたものが欲しい、だなんて贅沢は言わない。でもどうして当たり前すら貰えないの?

 才能だけじゃない。恵まれた境遇、運命力もあって、それらが確約された成功への道を作り出している。

 それに対して私はどんなに頑張って道を進もうとしても、それを阻まれる。それも勝手に頑張ることすらも許されず、引きずり降ろされる。

 ――本当にこの世界は不平等だ。

 発する言葉の内容なんて関係ない。持って生まれた人間が、持たざる人間に何を言おうが、それは哀れみにしか捉えられない。

 だから、話掛けられても苛立ちを感じちゃうんだろうな……。

 せめて今は関わらないでほしい。このどんよりが晴れるまでは。

 でも、そんなこと言えないし、分かってもらえる訳もなく、


「……なぁ、なんでそんだけしか食べないんだよ。いつもはもっと食べてたろ? 言ってたじゃんか。朝ご飯は朝昼挽の中で大切だって。食欲出ないのは分かるけどよ、今は大切な時なんだし、頑張って無理してでも食べようぜ。な?」


「……うん……」


 うるさい。


「……かこむ、今度私と一緒にライブで歌わない? 一緒だと楽しいよ」


「……うん……」


 うるさい。


「そ、そういえば私も豚かつの売り子探してるのよね」


「……うん……」


 うるさい……うるさいってば……。


「何かあったらお母さんに相談してくれてもいいのよ?」


「…………」


 だから、黙っててよ……どうして放っておいてくれないの……。

 気遣いなんて要らないの。どうせもう何をしたって退学は免れないんだから。

 ああ……もう耐えられそうにない。拳を握って感情を抑えるも、今にも溢れ出してしまいそうだ。もし次刺激されてしまったら――


「大丈夫よ、か――」


 みゆきちゃんが喋り掛けようとしたときだった。


「いい加減にしないさいっ!!」


 食事を終えたななみちゃんがみんなを怒鳴りつけてくれた。私の気持ちを察してくれたのかな。


「私達は仲間であれど、それは競い合い高め合う為の関係性なの。そんな仲間に手を借すなんてこの学園の理念に背くつもりなの?」


「け、けどよ――」


「言い訳無用っ! 1人の力で這い上がれないなら、所詮はその程度の存在だったってこと。元よりこの学園には不要な存在ってだけ。それが、競争社会なの。戦いの土俵に立つ以上、その現実から目を逸らすのは相手の為にもならなければ、己を滅ぼすことにも繋がりかねないの」


 重く厳しい言葉だけど、今はそう言ってもらえるのが有難い。

 そうだ。ななみちゃんの言う通りだ。私には元からここにいる資質なんてなかった。それが表に出ただけのこと。

 そんな叱咤を受けみんなは黙り込む。

 他人の力を借りずに己の力を磨き続け、常に結果を出しているななみちゃんが言うのだからこそ莫大な説得力が生まれる。だから、誰も言い返せない。

 私はその隙にご飯を流し込み、食堂を立ち去った。



          ☆



 みんなは心配して言ってくれてたのに……私ってこんな性格悪かったんだ……。

 あれから気分転換をする為に中庭を歩いていた。

 ここなら誰にも見つからないし、授業が始まるギリギリまでここに居よう。

 けれど、そう思った矢先。ぽつりと水滴が頬に当たる……雨か。

 お天道様にまで嫌われちゃってるなんて。みんなに悪いことをしたからバチが当たったのかな。

 やがてその雨は、本当に怒っているかのように大粒へと変わっていく。

 外に出て間もなく振り出すなんて、本当に持っていないな私は。

 ――でも丁度いいや。このままずぶ濡れになってしまおう。自分を粗末にしたい。そんな気分だ。

 じんわりと髪に染み渡っていく雨水が頬を伝って流れていく。この感覚が心地いい。

 気構えて防いだりせず、割り切って受け止めるっていいものだな……。背負っていたものまでも流してくれて、身軽になっていくような感覚だ。


 そんな雨水を堪能している時だった。

 何か変な音がする……何度もリピートされている。……これは、鳴き声だ。鳥かな……この高い声は――。

 辺りを見渡すと、その鳴き声の発生元はすぐに分かった。

 その正体は小さな子猫だった。まだ生後1ヶ月にも満たないであろう程の小さな子だ。体が震えている。雨によって体が冷えてしまっているからか。

 子猫は助けを呼ぶように鳴き続けているが、親猫が現れる様子はなかった。親に捨てられてしまったのだろうか。

 このままじゃ不味い。このまま雨を浴び続ければ、体温が下がって衰弱死してしまう。

 助けないと。私は急いでその子猫の元へ向かう。

 すると、驚いたのか私を威嚇しだす。いきなり近付かれても怖いよね。けど、今はそんなこと言っている場合ではない。

 構わずにその子猫を抱え上げる。逃げないでくれてよかった。

 すぐさま雨の当たらない軒下へと移動し、ブレザーを脱ぎ捨て、まだ浸水していなかったカーディガンで濡れた体を拭き、まだ濡れていないもう半分の部分で体を包み込む。

 ようやく落ち着いたのか、強張った体からは力が抜け、呼吸も緩やかになる。どうやら身を委ねてくれたようだ。

 とりあえずこれで一安心……。けど、この後どうしよう。寮に持っていって一時的に保護するしかないか……。

 それにしてもよかった。私が中庭を通らなければこの子は今頃――。

 そんな子猫を眺めていると、ある感情が沸いていることに気付く。


「そっか……そうだったね。ありがとう、猫ちゃん。君のお陰で大切なことを思い出せたよ」


 ――そうだ。私はこの気持ちを捨てることなんてできなかったんだ。



          ☆



 二月下旬。黄谷は未だに活動停止したままだった。

 あいつは今どうしているのだろうか……。日数を重ねる毎に増す不安。もう何度時を戻したいと思ったことか。

 因果応報に俺の生活にも変化が訪れた。

 鎌田にデマの記事を作られて以来、俺は周りの生徒から陰口を叩かれるようになった。

 しかも、現実だけでなくSNSにまでそのデマ情報は広まってしまっていて、そっちでまで悪評を書かれてしまっている始末だ。

 そのせいか教室での居心地が悪くなり、長時間の休み時間の時は図書室などに避難しなくてはならなくなった。

 直接干渉される程ではないのが救いか。

 まぁ、そこまでする程黄谷が好きな生徒は、あの記事がデマではないと気付いているだろうからな。

 鎌田に免罪を擦りつけられた時に疑問に感じていた筈だ。何故そこまでして黄谷から票を奪いたいのかと。

 そして、あの記事を見て合点が合っただろう。全ては黄谷を退学させる為と。


『――続きましては、校長先生のお話になります』


 現在、全校朝会まっ最中だ。いつもは月初めの第一月曜に行われるが、今回はテスト期間と重なってしまう為、予定より1週間早く執り行われている。

 そんでもって、いつもの校長による拷問が始まろうとしている。

 はぁ……こんなときに憂鬱だ。また立ちながら寝れないものか……。まともに睡眠も取れてないので滅茶苦茶眠い。もうこの朝会だけで、10回は欠伸をしただろう。


『皆さんはテストが来週からだと思っていませんか? いえ、それは違います。テストはもう既に始まっているのです。体調管理を怠っていませんか? 体調管理もまたテストの一環なのです。万全な状態で迎えてこそ、ポテンシャル如何なく発揮できるというもの。ですので、常に緩みのない生活を心掛けていきましょう』


 まーた、どうでもいい話を。さて、今日は何について考えるか。


『――という訳で今回のお話はこれにて終わりにさせて頂きます』


 まじでっ!? テストがあるからか? とにかくラッキーだ。こんなことあるんだな。


『本当はまだまだお話したいことが山程あるのですが、今回はなんと、サプライズゲストがいらっしゃっております!』


 なんだ。そういうことかよ。

 サプライズゲストだなんて、一体誰なんだろうか。しかも、こんな時期に。


『その方はもう既に舞台袖にて待機している状態です。もう皆の前に早く出たいとうずうずしているご様子でして、そんな方をいつまでも待たせる訳にもいかないのでね、さっそく登場して頂きましょう!』


 どこからか現れた教師らが演台を舞台袖まで運んでいき、校長も舞台を降りる。

 すると照明が消え、舞台にスポットライトが当たる。


『それでは、どうぞ――』


『――どうも、みなさんおはようございます! 1年アイドル科の黄谷かこむと申します』


 黄谷だとっ!? そんな馬鹿な……どうして。

 本来、全校生徒が集まる前にはアイドルは姿を現せない筈。自分と同じ学年のアイドルを応援させる為だ。

 なのにどうしてこんなタイミングで……だが、何にせよ元気を取り戻してくれたみたいでよかった。

 そんな黄谷を見て、無意識に口角が上がっていた自分に気付く。まったく……柄じゃないな。


『え~本来は全校生徒の方々がいる前に立つのは禁止されているですが、今回は特別に許可を頂くことができました』


 許可となると理事長が手を回してくれたんだろうな。鎌田のデマ情報の件についての借りはこれで返済ということか。


『1年生の方々は知っていると思いますが、実は私、2月の初めから今まで活動を休止していたんです。それは何故かと言いますと、以前、私のマネージャーを務めてくれていた鹿誠君という方がいまして、その鹿誠君に私が嘘の情報を広めさせて、不正に票を要求させるようなことをさせていたんです。ですが、そんな不正が学校側にバレてしまって、活動停止とまでは至らなかったのですが、私自身がその行いを許すことができず、自ら活動を自粛することに決めたんです』


 何言ってんだよ!? それは鎌田が作りだしたデマだろ?

 なのにそれを自分が指示しただなんて……まさか、鎌田に脅されて……。

 ――いや、違うか。こいつは自ら罪を被って俺を庇ったのか。

 どんだけ馬鹿なんだこいつは……。俺みたいな屑を庇ってどうするんだよ。そんなことすれば自分の印象を悪くするだけなのに。しかも退学が掛かっている状況で。

 ……そうか。もう黄谷は退学する前提でいるんだ。退学するから、印象なんてどうでもいいからって、自分を犠牲にして。

 ふざけんなよ……どうしてお前はいつもそうやって――。


『応援してくださっている方々の期待を裏切る形になってしまい、本当に申し訳ない気持ちで一杯です。今後は二度と同じ過ちを繰り返さぬよう、懸命に活動をしていきたいと思います。本当にすみませんでした』


 やめろよ。お前が頭を下げる必要なんてない。後で黄谷が俺を庇う為にやったと自白して――


『――はい、と言う訳でいつもの私に戻るひょも~! で、折角この場をお借りさせて頂いた訳ですし、1曲歌わせてもらおうと思うひょも~!』


 はい? 急にキャラを切り替える黄谷。シリアスな空気が急に一変する。

 本当に何を考えているんだ!? 謝罪後にすぐにライブをするなんて、反省していないように思われるだけ。

 まるで今の謝罪は、ただライブをする為に仕方なく消化したかのような印象を持たれるだけ。返って悪印象を与えかねない。

 だがもし、これも黄谷の描いたシナリオ通りなのであれば。このライブにも何か意味があるということなのだろうか


『この活動停止期間を無駄にしてはいけないと思い、2年生になったら貰える自分の曲を早い段階で描いて頂きまして、この期間を利用して一生懸命練習しました。なので、今回はここで、そんな曲を初披露したいと思います!』


 急な流れに戸惑うも、アイドルのライブでしかも新曲が聞けるということもあり、会場のボルテージが上がる。


『それでは聞いてください~メモリーズ・バイ・サラウンド~』



          ☆



 大波乱の朝会が終わり、教室に戻る道中。

 ライブは大盛り上がりで大成功で幕を閉じた。黄谷は自分に与えられた曲を完璧に歌い、振り付けまでもしっかりこなしていた。

 そんな黄谷が。また活気を取り戻して活動しているというのに……。

 なのに――どうして吐き気がするんだ。眩暈がするんだ……。

 黄谷を見て元気になるどころか、今までで一番酷い症状が出ている。

 ふざけんなよ。俺はこの期に及んでまだ黄谷を病原体扱いしてるのかよ。

 あいつは自分の印象を犠牲にしてまで俺を庇ってくれたんだぞ。なのにどうして。

 歩くことすらもしんどいので、壁にもたれ掛かる。

 すると、ポケットのスマホからチャットの着信音が鳴った。

 まさか、黄谷から――。俺は不本意にも期待を抱きながらスマホを開く。すると、本当に送信者は黄谷だった。内容は、

 『別に私はあなたを許したつもりはありません』という心に刺さるメッセージだった。

 ……まぁ、当然だよな。俺はまだ黄谷の為に何もしていないのだから。いや、俺が退学を阻止しようが、許してもらえないだろうがな。

 あくまで退学の阻止は償いだ。別に黄谷にどう思われようが関係ない。俺はたださっさとこの借り、もとい悔いを払拭して快適な睡眠を取り戻したいんだ。

 軽い休憩が済んだので、再び身体に喝を入れ歩き出そうとすると、


「あ、あの鹿誠さんですよね。ななみ様があなたをお呼びです。1年の下駄箱にて待つとのことです」


 こいつは確か……そう、前にカツアゲされてた森田だ。

 珍しいな。藍坂が自分から人を呼び出すなんて。まぁ、他人を使っての伝言なのだが。


「……分かった」


 呼び出す理由は分かりきっているが、断れもしまい。



          ☆



「…………」


「…………」


 自分から呼び出してもそれかい。


「……なんの用っすか」


 気だるげに話掛ける。具合が悪くさっさと教室に戻りたいので、手短に済ませてほしいな。

 藍坂はこちらを見つめ口を開く。


「あなたはどうするつもりなの?」


「どうするって?」


「かこむのことよ。退学を止める算段はあるの?」


「……さぁ……」


「はっきり答えなさい。0.1%でも失敗する可能性があるなら、できないと答えなさい」


「……仲間の心配だなんてらしくないな。自分の力で生き残れないなら、所詮そこまでの人間とでも言って切り捨てると思ってたが」


 そんな俺の軽口をものともせずに、


「私はこの学園の理念に背くつもりはないわ。けれど、それとこれとは別。あなたはあの校則について聞いたとき、何も疑問に感じなかったの?」


 疑問か……確かに破綻している校則だとは思ったな。


「……今となってはどうでもいいことだな」


「それはつまり、かこむのことは見捨てたと捉えていいのかしら?」


「逆だ。下手に動かれると逆に困るから下手に動かれると困る」


 この言葉が気に触ったのか、藍坂の目付きが鋭くなる。不味いな。


「……そ、それじゃあ、教室に戻りますね~」


 今にも殴り掛かって来そうなので、逃げるようにその場を後にする。

 だが、そんな俺の背中に釘刺すように、


「かこむがあの曲を練習した期間はたったの3日間よ」


 罵倒が飛んでくるかと思えば、飛んできたのは予想外の言葉だった。

 練習期間が3日……あのクオリティを3日間の練習でこなすなんて、一体どんな練習を……。

 だが何故、藍坂は俺にそんなことを伝えたのだろうか。


 ――まぁ、なんにせよ、今は自分のすべきことをしなくてはな。次は俺の番だ。

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