2‐4 ギャップは極限にまで達するとブラックホールが発生する。
「ここは行き止まりじゃ……」
校舎の隅に到達したが、目の前にあるのは非常口だけだ。
まさか、非常口から寮へ向かうのだろうか。
「非常口とでも勘違いしましたか? この先にアイドル科の寮があるんですよ」
「そうですかい」
言われてみれば、扉の上にある非常口の表記もないし、扉の横にはアイフォンをかざすパネルが付いている。
「また、ここにかざすのか?」
「はい。文空君も通れるようになってると思いますので、試してみてもらえますか?」
「了解……よし、大丈夫そうだな」
先程と同様にランプが緑に点滅し、ロックの解除音が聞こえた。
「大丈夫そうですね。では私も……」
黄谷もアイフォンをかざし認証する。
「では、行きましょうか」
黄谷が扉を開けると、そこは一本道の通路で、その奥にまた扉があった。なんか、隠し部屋の通路っぽくて少しワクワクするな……。
通路を進み奥の扉の開けると――
「おお……」
そこに広る景色は寮というより、高級ホテルといった感じだった。
床や壁のタイルが派手に光沢を放っていながらも、天井や各所に設置されている照明や観葉植物により、結果、落ち着いた空間として演出されている。
先程までの校舎の風景とは打って変わり、とてもここが学校内の一部だとは思えない。
ガラス張りの柵に手を掛け、フロントを見下ろす。
「なんか店があるぞ?」
「はい。フロントには様々な施設があるんですよ。シアタールームに大浴場からカラオケまで」
「すげえな……どんだけ投資してるんだよ」
初見でこんな発想を抱くのもなんだが、投資しただけのリターンはあるのだろうか。
「私も最初は遠慮しちゃって中々利用できませんでしたもん」
「そりゃそうだろうな……ちなみにだが、俺も利用できたりするのか?」
今までの流れからして出来るかもしれないと思い質問する。無論実際に利用するつもりはないが。
「えっ、あぁはい。多分できると思いますが……後で聞いておきますね」
「あ、いや。実際に利用したい訳じゃないから、もう忘れてくれ」
流れで聞いてしまったが、失敗だったか。もしかしたら大浴場に入りたがってるなんて勘違いを生んでしまったかもしれない。なんせ変態の瑛介と同じ部活の人間だからな。
これからは発言にも気を使わなくては。異性が相手となると気使うことが多くて面倒だな。
「それでは私の寮室へ案内しますね」
「おう」
アイドルの寮室か……一体どんな部屋になっているんだろうか。
通路を曲がった先に扉が並んでいた。ここが各アイドルの寮室となっているのだろう。
「私のお部屋は204号室です」
「真ん中だな……って、あれ、なんで8つ部屋があるんだ?」
最初に通りかかった扉の立て札を見てみると208号室だったのでおかしいと思い、奥から数えてみると8つ扉があった。
アイドルは7人なので1部屋余ってしまう。
「うーん、私もよく分からないんですけど、予備かなんかじゃないでしょうか。普段ここはフリーの部屋として開放されていて、そこで遊んだり、会議をしたりしてます」
「ほう……」
理由がないとなれば設計ミスだろうか。それとも当初は8人の予定だったとか。まぁ、どうでもいいな。
そして、204号室の前へ到着する。
従来通りドアにはセンサーが付いていて、黄谷がロックを解除しドアノブに手を掛け、いざ入室。しようとした時だった。
横からこちらへ近付く足音に気付き、その手を止めた。
「ちょっと、なんであんたがここにいるのよ!?」
俺達とは逆方向から来た赤宮みゆきとエンカウントした。
「わーい、みゆきちゃーん!」
そんな赤宮を見るなり黄谷はいきなり抱き付いた。
「な、なにすんのよ!?」
「うふふー、これで全員に会えたひょもー」
どうやら、全員に会わせることができて喜んでいるようだ。藍坂のをカウントに入れていいかは謎だが。
「いつも会ってるじゃない」
「文空君に会わせたかったんだひょも」
「はぁ? こんなのっぺり干物野郎に会ってどうすんのよ」
「他のアイドルと違って、サボって呑気にコーラを飲んでるような奴に干物扱いされるなんて心外だな」
赤宮は制服ではなく、半袖のTシャツに短パンという季節外れな格好をしており、手にはコーラを持っていた。
いくら暖房が効いているからとはいえ、そんな格好で出歩くのは意識が低すぎではないだろうか。
恐らく、部屋で伸びていたのだろう。で、喉が渇いたから飲み物を買いに渋々外に出たと。しかも、もう既に半分減っている。まったく、どっちが干物だか。
赤宮は癪に障ったのか、黄谷を引っぺがし言う。
「きょ、今日は体調が優れないから休んでただけよ。あんたなんかと一緒にしないで」
「その割には元気そうだがな」
「あんたみたいな根暗に、女の子のことが分かる訳ないでしょ」
「ふっ……女の子って」
自分で言うかそれを。
「なに鼻で笑ってんのよ! あーもう腹立つ。どうしてこんなタイミングよく出くわしちゃうのよ」
「まぁまぁ、落ち着くひょも」
黄谷は再び抱きつこうとするが、頭を押さえてそれを阻止する。
「ところで、お前は何かくれないのか?」
「は? なに言ってんの」
「ほら、橙田はこんなのくれたぜ」
俺はさっき貰ったハンカチをヒラヒラと見せ付ける。
「図々しい奴……そうね、ならこれあげる」
差し出されたのは飲みかけのコーラだった。
「不潔だから要らん」
「ふっ、なに間接――って、なによ不潔って!」
やはり、からかうつもりだったか。
「じゃあ、それは代わりに私が貰うひょも!」
「え、ちょ、あんた炭酸苦手なんじゃ――」
黄谷は赤宮からコーラを取り、それを勢いよく飲みだした。
「っ~~~~~!!」
ある程度飲むと、炭酸の刺激がきたのか、唸り声を上げながら手をパタパタと振っている。なにしてんだこいつ。
「ちょっと、なに馬鹿やってんのよ……」
赤宮は黄谷の背中をぽんぽんと叩く。
「……大丈――うぷっ……」
アイドルがなんて様だ……。なんとか口を閉じていたから惨事にはならなかったが。
「ふふっ……もう、なんなのよ……」
それを見た赤宮は思わず笑ってしまう。
「えへへ……いけると思ったんですけど」
なんで嬉しそうなんだよ。
「これは仕込み芸かなにかか?」
「いえ、アドリブです!」
誇らしげに言うな。
「何をどう見ればこれが仕込んでいるように見えるのよバーカ」
こいつはほんと口が悪いな。少しでも隙を見せるとこうだ。ステージの前だとあんなキャピキャピしているのにな。
まぁそういう裏表がはっきりしているとこが赤宮の面白いとこなんだが。
「あーもう、あんたのせいで余計に具合悪くなっちゃった。さっさと寝よっと。んじゃ、せいぜい頑張ってね~」
自分から仕掛けて自爆しただけだろうに。
「また晩御飯でひょも~」
そう言って赤宮はすたこら206号室に入っていった。
あの様子だと赤宮は事前にマネージャーの件を聞いていなかったのだろうか。いや、聞いていたがどうでもよかったのだろう。
「それじゃあ、入りましょうか」
「だな」
仕切り直して黄谷がドアを開ける。
さて、アイドルの部屋はどうなっているのか。ここのアイドルの寮室となればさぞ豪華なのだろう。
黄谷の後に続き、室内を覗く――すると意外。普通だ。
本当に普通の寮室って感想しか出てこない質素な部屋だ。エントランスが豪華だっただけに、どうも肩透かしをくらった気分になる。
だが、意外なのはそこではない。黄谷の部屋なのに普通以上の感想が沸かないのだ。
こいつのことだから、もっと派手なのをイメージしていたが、玄関、通路、その先の部屋に入っても、本当に必要最低限のものしか置いてなく、逆に異常さを感じてしまう。
「まだ学校を去ると決まった訳でもないし、気が早くないか?」
きっと退学がほぼ確定みたいなものだから、早い段階から片付けを初めているのだろう。
「失礼な。いつもこうですよ」
「もっとこうなんか置かないのか? 可愛らしい装飾とか」
「うーん……落ち着かなそうですし、気移りしちゃいそうなので、極力最低限のものしか置かないようにしてるんです」
「まじかぁ……」
「そんなに意外ですか? まぁ、普段の私を見ていたらそう思われてしまっても仕方ないですかね……」
超意外だよ。こいつに対する印象がどんどん崩れ去っていっている。
まさか、こいつの口から落ち着かないなんて言葉を聞くなんて思いもしなかった。
今のこの落ち着いたキャラは俺用にセーブしてくれているものだと思っていたが、裏では本当にこんな大人しい奴なのか。
「では、そこに座ってください。今飲み物を用意しますね」
指示された通り部屋の中心に置かれた小型のテーブルに腰を下ろす。
テーブルの上にはお菓子が置いてあった。事前に用意していてくれていたのだろう。
「飲み物はレモンティーとミルクティー、それかストレート。どれがいいでしょうか?」
「えっと……ミルクティーで」
紅茶オンリーかよ。他にも緑茶とかコーヒーあるだろうに。黄谷は紅茶しか飲まないのだろうか。俺としては紅茶は好みでよく飲んでいるから有り難いが。
「はい、どうぞ」
「おう、サンキュー」
コップに入ったミルクティーが俺の元へ置かれる……ほう、アイスティーの方なんだな。客人に出すと言えばホットの方をイメージしていた。冬だしな。
だが、これも個人的には有難い。俺は冬でもアイスティーの方をよく飲むからな。それに、先程から何も飲んでいなかったので、一気飲みできるのもいい。
あぁ……うめぇ。ミルクティーの甘みが全身に染み渡っていく。冬場の乾燥によってカラカラになっていた喉も潤う。
「ふふっ、喉が渇いていたんですね。今おかわり注いできますね」
「ああ、すまん……」
気を使わせてしまったな。思わず一気飲みしてしまった。ここは喉が渇いていてもセーブしておくべきだったか。
それから、間もなくして再びミルクティーが置かれる。これを飲み干してしまうと、また注ぎに行かせてしまうだろうから、一口だけで済ませて退室までちょびちょび飲んでいこう。
「お菓子も遠慮せず食べてくださいね」
テーブルに置かれたお菓子は主にせんべいやポテチのようなしょっぱい系のもので、これもまた俺の好みのものだ。
これに関しては、紅茶とは違って黄谷が好んで食べるとは思えないものだ。
そこで一つの疑問が生じる。これってまさか、俺の好みを予めリサーチしてくれたものなのか?
……直接聞くのもなんだし、少し変化球を交えて聞いてみるか。
「普段から、こんなの食べてるのか? あんま女子が好んで食べなそうなものじゃなさそうだが」
「いえ。これは町田君に予め文空君の好みを聞いておいたんです」
「俺なんかに気を使わなくていいんだぞ」
「これらのお菓子や飲み物はここでタダなんで遠慮しないでください」
「貰った?」
「ええ。正確には無料で購入ですね。下の階にコンビニがありまして、そこで自分の好きなものを好きなだけ取っていいんです」
「ほぇー」
アイドル専用のコンビニまであるのか……。一般校舎のとこにもあるが、当然有料だし、生徒がうじゃうじゃしていてあまり利用したいとは思えないから、羨ましいな。
「文空君も欲しいものがあったら言ってくださいね。私のアイフォンがあれば購入できますので」
「ああ、必要になったら頼むわ」
正直そこまでするのは気が引けるな。特に金に困ってる訳でもないし。
そもそも、気遣いのことを言っているのに、値段がどうとかは論点がずれている。
「それと、別に無料で購入できるのは、下のコンビニのものだけではありません。大袈裟に言ってしまえばなんでも購入できるんです」
「なんでも?」
リアクションの用意をしよう。先の言葉が大体読めた。
「アイドルにはこのクレジットカードが与えられて、それを自由に使うことができるんです!」
「うえぇ……まだ高校生だぞ」
クレジットカードを貰えるって。どんだけアイドルに甘いんだよ。
「このお部屋の物も、ほぼここが出してくれてるんですよ」
「……上限とかないのか?」
なんでもとは言うものの、なにかしらの制限があるはずだ。
もし本当になんでも買えるのなら、ブランドのバッグなり宝石の付いたアクセサリーなどと、やりたい放題になってしまう。
いくらアイドル科とはいえ、そんなことを許していたらアイドル自身も落ちぶれいってしまいそうだ。
「ありませんよ。ですが、私的な欲求を満たす為のものを購入したりするような子は最低でも1年生にはいません」
「どうしてだ?」
「どうしてだと思いますか?」
質問に質問で返すな。最初から答えを教えてくれてもよかろうに。
でも、そんな返答もできんし、乗るしかないか。
恐らく、アイドルの教育に関係すること、だろうな。だとすると――
「……学園側への印象を気にしている。とかそんなところか。アイドルはコネが大事とか言われてるからな。今の内から気を回せるよう、あえて制限を付けず与えたと。後は自制を身に付けさせたり、とかか」
「おお! 流石、文空君。正解です! アイドルは人への気遣いが大切ですので。それを身に付けれるよう、このカードだけでなく、他にも様々な配慮が施されているんです」
やっぱりそうか。だが、なんで黄谷はそれを知っているんだ。
もしそういった配慮を身に付けさせたいであるなら、決して結論に辿り着くようなことはしないと思うが。
結論が出てしまうと、そこで思考を止めてしまうからだ。だから、仮定で止まるようにする筈なんだが。
別にこれはアイドル科に限らず、この学園そのもののスタンスだからだ。
だが、鈍感そうな黄谷が知っているくらいだから、アイドルは違うのかもしれな……いや、そもそもがおかしい。思考させる為の配慮なのに、その教育対象の本人がケロっと結論を語っているいること自体がおかしい。仮定で止まっているなら、こんなクイズも出してこないだろう。
……あれか。事情を知っている誰かに聞いたとか、そんなとこだろうか。
そんな俺の思考を見透かしたかのように黄谷が補足する。
「あ、このことは他の子達には内緒にしておいてくださいね」
「えっ、ああ分かった」
やっぱりそうか。誰が教えたんだろうか。
「それでは、マネージャーについてのお話を――」
「……あ、その前に、一つ疑問に思ってたことがあるんだが、聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょう?」
「流創アイドルになれたのに、勉強なんてする必要あるのか?」
部屋のデスクは綺麗に整理されていたが、本棚に並んだ無数のノート、教科書からはみ出す付箋の数から見て、勉強に対する熱量が半端じゃないことが伺えた。それがさっきから気になって仕方なかった。
「私達はアイドルであると同時に高校生でもあるんですよ。勉強するのなんて当たり前です」
「でもよ、流創アイドルなんて将来が確約されているようなものだろ。そんなことに割く時間があったら、もっとアイドルとしてのスキルを伸ばした方がよくないか?」
「いいえ、そんなことないです。あくまで学生の本分は勉学にあります。いくらアイドルとはいえ、勉学を疎かにしてまで活動に勤しむなんて本末転倒です」
「お前本当に黄谷か!?」
「どういう意味ですか!」
なんてこった……。まさかこいつからこんな優等生めいた言葉が発せられるとは。
先程から凄まじいギャップを感じ続けているからか、脳内コンピューターの処理機能が追い付かず熱を帯びているのを感じる。
とりあえずミルクティーを飲んで頭を冷やそう。
「ちなみにアイドル科の偏差値基準はどんなもんなんだ?」
流石にアイドルで個別に授業を行うとかはないだろう。
「人それぞれですね。ここはアイドル個人の学力や希望に合わせて、授業のカリキュラムを練ってくれて、先生方が個別で授業を行ってくれるんです。ちなみに、私は1年生の中で2番目に頭がいいですよ! えっへん!」
するんかい。塾じゃあるまいし、個別授業なんて聞いたことねえぞ。
でも、今日はインパクトが強いことが多すぎて、そこまで驚かなくなってきたぞ。慣れって怖い。
「で、お前は勉強してそれを何に活かすんだ?」
黄谷の言う学生の本文は勉学。というのは正しいのだろう。だがそれは個人の見解にすぎない。
やはり流創アイドルの恩恵がありながら、するような事とは思えない。なにか理由があるのか。
「とりあえあず今の目標は大学受験に合格すること、ですかね」
「わざわざ大学に行く必要なんてあるのか? 将来が確約されているようなもんなんだし、アイドル業だけで案棒だろう」
「そんなことありません。いくら流創学園を卒業したからとはいえ、必ず成功できるとは限りませんし、不安定な業界ですから。後ろ盾を強固なものにしておくに越したことはありません」
特に理由は無しか。やっぱりこいつ地頭に感しては馬鹿だな。ちなみに学力に関してはどれ程なんだろうか。
「……ちなみに、志望校とか決まってるのか?」
「東京大学へ行けたらなと思っています」
「ふぁっ!? 東京大学ってあの東大だよな?」
「ええ……とは言うものの、今のままでいくと少し難しいと言われてしまいました。ですが、頑張って必ず合格して見せます!」
東大が少し難しいってこいつそんなに頭よかったの!?
それで2番目って1番の奴は東大レベルってことか?
やばい。今日1番の衝撃を受けたからか目が回ってきた。現在、頭の中でブラックホールが発生し脳内を掻き乱だされている。まずい、ミルクティーを補充せねば。と、コップを手にするが、もう空じゃねぇか。
「あっ、おかわり注いできますね」
「え、ああ済まない」
再び台所へ向かう黄谷。また気を遣わせてしまったな。でも黄谷が東大だなんて、驚くなという方が無理がある。本棚を見返してみると確かに、見たこともない科目の本が並んでいる。なんか、学力に大きな差があると分かると壁を感じてしまうな……ん、これって。
並べられた本を眺めていると、ある1冊の本が目に入る。黄谷が帰ってきたので聞いてみるか。
「なぁ、なんで栄養士の教本が置いてあるんだ?」
「なんでって、栄養師になりたいからです」
「いや待て。流石に詰め込みすぎじゃないか?」
東大行って栄養管理士って意味わかんねえよ。そもそもアイドルなんだぞ?
「流石に今勉強している訳ではありませんよ。今はただ早い内から目を通しておいた方が入り込みやすくなると思いまして、時間が空いたときに眺めているだけです。なので、まだ何もしていないのと同じです」
「そうですか」
急に黄谷が崇高な人間に見えてきた。住んでる世界が違う。本当に同じ人間なのだろうか。俺とはあまりにも真逆すぎる。
アイドル業だけでも忙しかろうに、こいつは一体どんな時間の使い方をしているのだろうか。
「ちゃんと睡眠は取れてますか?」
「ええ。1日7時間。ちゃんと寝ていますよ」
「さようでございますか」
「安心してください。勉強のせいでアイドル業を疎かにしたりはしませんし、それを言い訳にもしたくないですから!」
「分かりました。共に頑張りましょう!」
「あの……さっきからどうして敬語になってるんですか?」
「いえいえ。そのようなことはございません」
「もう~、さっきまでのように接してくださいよ! 今はただ高い目標があるってだけでまだ何も成し遂げててないんですから」
いやいや、俺からすればもうその心意気だけで十分立派だ。
今まで黄谷のことなんて、ただの阿保だと思っていた。が、今さっきを踏まえ、改めて黄谷を見つめ返してみる……実は黄谷って相当ハイスペックな人間なんじゃないだろうか。
まずアイドルに選ばれる程だから外見がいい。アイドル活動外では大人しい清楚系な人間で、学力もあって、気も利いて性格も良い文学少女。
コミュニケーションが苦手という短所もあるが、そんなの関係なく向こうから人が擦り寄ってくるだろうから、苦労はしないだろう。
反面。アイドルをすることに関しては不向きと思える。人前に出て脚光を浴びれるようなタイプではない。待っているだけではどうにもならないこともある。
なのにどうしてわざわざ不向きなアイドルという道を選んだのだろうか。大人しく勉強だけしとけばいい人生を歩めるだろうに。
「……どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。脱線してすまなかったな。それじゃあ、マネージャーの説明を始めてくれ」
だがそれは俺の感想ではない。あくまで世間体の視点によるものだ。
意外な1面を知ったところで、俺が今まで黄谷に抱いてきた嫌悪感が消える訳ではない。
そうだな、綺麗な水晶の見た目をした爆弾って表現が相応しいな。




