2‐2 何事も初めは面倒が付き物。
「朝も話しましたが、昨日の放課後、うちのクラスの町田君が引ったくりの被害を受けました。盗まれたものは――」
帰りのホームルームは嫌いだ。放課後は大好きだ。だから、帰りのホームルームが嫌いだ。
餌を前にして「待て」と指示を出されているときの犬の気持ちがよく分かる。
たった10分程度のものとはいえストレスな時間だ。まぁ、話が長引いたのは俺のせいなのだがな。我ながら凄いことをしたもんだ。反省はしてない。
「――という訳で、この件は専用端末にも送信されているので、しっかりと目を通しておくように。以上で帰りのホームルームを終わります」
ふぅ……やっと終わったか。今日も疲れた。新学期早々さっそくフルタイムで授業詰め込みやがって。
まだ席からは立ち上がらない。疲れたし、教室の扉は混み合ってるしで、今は動きたくない。
なので、アイフォンを開き先程言っていたテキストに目を通してみる。
この学園の連絡事項などは基本プリントは作成せずに、このようにアイフォンにて共有される。
さてさて、内容の方は……。ふむふむ。大方俺が指示した通りになっていたが、指定のない犯人の特徴も記載されていた。原付に乗った十代ほどの青年2人組~うむ、妙に生ヶしい設定だな。しかも、その特徴を書いたイラストまで添付されていた。
そのせいか頭の中で『取調べにおきまして「金に困ってやった」と供述しており~』――なんて、ニュースのアナウンスが流れる。
瑛介はよくやってくれていたんだなぁ――と、感心していると、噂をするとなんとやら。
「いやー、昨日はほんと酷い目に遭ったよ。こんな目に遭わせた奴をどついてやりたいね」
瑛介が嫌味を添えながら俺の元へとやってきた。
「けど、アイドルのみんなが僕を心配してくれるんだろうなぁ……次の取材が楽しみだ」
それはないだろうな。
「俺は今日は部活には行かんぞ。だからさっさと失せろ」
「冷たくも、なんとも妬ましいセリフだね……ということは、これから打ち合わせでもするのかい?」
「さぁな。とりあえず今は向こうの連絡待ちだ」
俺が座ったままなのは、黄谷の連絡待ちというのも理由の一つだ。
既に昼の内に連絡を取っていて、今日の放課後に手が空いたら連絡するとのことなので、それを待っている。
「成程ね。できれば僕も一緒したいとこだけど――」
「そういや、お前も今日黄谷に取材があるって言ってたな」
昨日の部活でそんなことを言っていたのを思い出す。
「あぁ、あれは嘘だよ。もう既にかこむちゃんが真面目な子だっていう証拠はあるからね」
涼しい顔で、サウンドレコーダーを見せ付ける瑛介。
「お前なぁ……」
昨日の賭けは予め確証があってのことだというのは知っていたが、こうもケロっとした顔で言われるとイラっとするな。殴りたい。
「まぁまぁ、お詫びにこれを聞かせてあげるからさ」
「いや、いい。というかこんな場所で流していいのか?」
こいつのことだ。どうせ黄谷が奇声を上げている音声とかそんなんだろう。
「そうだね、あまり大音量で流せないから耳元に当てて聞いてくれ」
「いいって言ってるだろ」
「大丈夫。真面目モードだよ。それに、かこむちゃんの下調べもどうせしてないんだろ?」
「いや、それは……」
「なら聞きなさい。良好な関係を築く為には、予めかこむちゃんのことを知っておくべきだろう」
確かに瑛介の言う通りかもしれない。
これから黄谷のマネージャーとしてやってく以上、最低限の人間関係は築いておかなければならない。
だから、お膳立てをする為にも黄谷のことを予習しておくべきなのだろう。
「それに、アイドルを不機嫌にしようものなら――」
「ぐっ……しゃーねぇ聞いたるわ」
俺は瑛介からレコーダーをぶん取る。
「あっ、ちょ……」
確かに瑛介の言う通り予習はしておいた方がいいだろう。なんせ俺は表面上では黄谷のファンを名乗っているからな。マネージャーを務めるアイドルのことを何も理解してないのは流石に不味い。
もしマネージャー特権目当てということがバレれればどんな罰が待っているかも分からんしな。
朝の藍坂が知らしめた、アイドルの権威の絶大さ。それにより不安は増していた。
覚悟を決めた俺は、レコーダーの再生ボタンであろうものを押した。
『――ひょっもーん!! という訳でこれからもかこむの応援よろしくひょもー☆』
「ああああああああああああああああ」
思わず椅子から転げ落ちる。なんて凶悪なトラップだ。
「おいテメェ!!」
「そっちが無理矢理取ったんじゃないか。折角聞かせたい部分まで早送りしてたのに」
「いやさ……」
確かに俺が悪いが……なんかやるせない。
「けど、もうそこなら大丈夫だよ。これからがその聞かせたいシーンさ」
「本当だな?」
「ああ。心して聞くがよい」
俺は座り直し、再び恐る恐るレコーダーを耳に当てる。
『町田君……急な質問なんですが、聞いてもらえますか?』
『うん。大丈夫だよ! 何でも聞いてくれたまえ』
「気持ち悪っ……」
「おい! 口に出てるぞ」
瑛介はアイドルの前だからか、いつもとは違うトーンで喋っていてそれがすこぶる気持ち悪い。
『ありがとうございます。それじゃあ、聞きますけど……男性視点から見た私の魅力、といいますか、長所というか……とにかく私のいいと思えるところを挙げてもらえませんか?』
ないだろ。
『……うむ。趣旨は分からないけど、かこむちゃんのいいとこだね。オッケー、そんなものいくらでもあるさ。まずはね……それはね……』
間を置くなよ。
『やっぱり他にはない強い個性を持ったそのキャラだよね。まるで――アダムとロミオがパッショネイトしているかのような、パラドクシスを感じるね』
背伸びして洒落た言い回しをしようとしてるが無茶苦茶だ。
というか、アダムとロミオってどっちも男だろうが。本当はアダムとジュリエットとでも言いたかったのだろうか。
『もっと簡素でいいんですよ……』
『えっ、ああ、うん、そうだよね……ゴホンッ』
カッコつけるつもりが、気を使わせてしまう瑛介。なんて情けないのだろう。
「お前よくこれを人に聞かせようと思ったな」
「これからがいいとこなのさ」
「もういい」
俺はレコーダーを瑛介に返す。
「えっ!? なんでよ。これからがいいとこだって言ってるじゃないか」
「要は黄谷は褒められたがり、ということを伝えたかったんだろ? ならもう目的は達成している」
「いやいや……まぁ、確かにそうなんだけどさ。これじゃあ僕が情けない奴のままで終わってしまうじゃないか。だから最後まで聞くんだ」
「知るかよ」
「聞かないと後悔するぞ! 落ち着きを取り戻した僕がカッコいいことを言って、それを聞いたかこむちゃんのリアクションもまたかわいくて、究極のベスト・オブ・メモリアルレコードになってるのに」
瑛介はどうしてもその音声を聞かせたいのか、無理矢理俺の耳元へレコーダーを突き出そうとするが、俺はそれを自慢の反射神経で横へかわす。
瑛介は諦められないのか、再びレコーダーを突き出してきたので、それをまたかわす。
それを幾度と繰り返す。傍から見たらただの変人共だ。
まったく。これから黄谷に会うという苦行が待っているというのに、こんなとこで体力は使いたくないし、レコーダーを叩き割ってやろうか――と瑛介の腕を掴もうとしたときだった。
ピコンッとチャットの着信音が響く。
これが試合終了のホイッスルになったのか、俺達の攻防は止んだ。
それは俺のスマホから鳴ったもので、瑛介もその差出人を察したのだろう。
俺は自分のスマホを開き、内容を確認する。
差出人は案の定、黄谷からだ。内容は『お待たせしてすみません』『それでは行きましょうか』というものだった。
待ったといってもホームルームが終わって5分程度しか経ってないんだが。
それに対して俺は『どこへ向かえばいい?』と返信をする。
すると『みぎ』と返ってきた。
「……は? 右?」
「ん? 右だって」
おいおい……まさか。
俺の呟きを聞いた瑛介と共に右を向くと。
扉の方から『ひょもんっ!』と黄谷がひょっこり顔を出す。
どうやら、わざわざ迎えに来てくれたようだ。
瑛介はそれを見て、豚のような声を出す。
へぇ……ブヒるってネットだけの言葉かと思ってたが、実際の人間も豚みたいに鳴くんだなぁ。
☆
瑛介の羨めしそうな視線に見送られた俺と黄谷は、アイドル科を目指し学校内の中庭を歩いていた。
というか別に瑛介だけでなく、道中の生徒らからの視線もまた痛い。
アイドルと一緒に歩くなんて、ここの生徒からすればそれは心底妬ましいものであって、俺に痛い視線を送るのも無理もない。
当の俺は鳥肌が出る程の寒気に見舞われているというのに……。無論、冬の寒さではなく、天敵である黄谷が側にいるからだ。
本当に俺はなんでこんな奴のマネージャーを引き受けたんだろうか。放課後まで考えていたが、いまいちピンと来る答えには在りつけていない。
無難にマネージャー特権。後は、黄谷を極力俺の害が及ばないようコントロールできる。そんなところだろうか。
とりあえず今回はその特権について聞き出して、メリットが小さいと感じたら辞退も視野に入れるべきだろう。言い訳なんていくらでも用意できそうだしな。
……おっと、考え込んでしまっていたが、今は黄谷と歩いていたんだったな。無言の状態が続くのは印象的にも良くない。なにか話題を切り出さねば。
だが、俺は自分からグイグイ話すようなタイプではなく、こんなときどういった話題を振れば分からない……。恐らく黄谷も同じだろう。
こんなんで俺達はやっていけるのだろうか……。
とりあえず好物でも聞いて、そこから話を広げるべきか。いや、いきなり食い物の話もおかしくないか? くそっ、どうすればいいんだ……。
だが、そんな悩める俺に救世主が現れる――
「あ、ゆいかちゃ~ん!」
黄谷はその救世主に気付き、ブンブンと手を振る。青松ゆいか。親しみ深いアイドルだ。学校の外周を走っていたようで、体操着を着ている。
黄谷の呼び掛けに気付いたようで、こちらへ向かってきた。
その最中、数人の生徒に声を掛けられるが、それに対し、名前を呼び返し手を振って応えていた。
「よっ! かこむと文空じゃねぇか!」
「よっ」
「おつひょも~、いつものランニングひょもね」
おい、なんでキャラが戻ってんだよ。
「まぁな。んで、文空がかこむのマネージャーになったんだってな」
「ああ、そうだが」
青松は立ち止まらず足踏みしながら話している。ランニング中に止まってしまうと足の筋肉が固まる、とかテレビで見たな。
「……うーむ、なぁかこむ、どうして文空をマネージャーに選んたんだ?」
どうやら、俺なんかをマネージャーに選んだことが疑問なようだ。ごもっともな意見だ。
「文空君はこう見えて凄い人なんだひょも! きっと私を導いてくれるひょも!」
こう見えては余計だ。というかなんでこいつは俺をそんな過大評価してんだ。
「そうか……ま、かこむが言うんだ。なんか凄い力を秘めているんだろうな」
「その通りひょも! 私の目に狂いはないひょも!」
節穴もいいとこだ。
すると、青松は神妙な面持ちとなり、俺を見つめる。
「--文空。俺はお前を信用している。が、もしかこむを傷つけるようなことをしてみろ、分かってるだろうな」
普段見せることのない一面に思わず身震いをしてしまう。情に厚いが故に、仲間のことに関しては敏感なのだろう。
「あ、安心してくれ……」
「大丈夫だひょも! 文空君は優しい人ですからそんなことしないひょも」
やべぇ。病原体扱いしてることがばれたらどうなるんだ俺……。
「分かった。約束だからな!」
その言葉を聞いて安心したのか、いつもの活発な雰囲気に戻る青松。
「ああ……任せてくれ」
心にもないセリフを吐く俺。それに対し青松は本気で黄谷のことを想っているのだろう。
もしここで、楽をする為に黄谷を利用しようとしている。なんて言おうものなら、血相を変えて人目関係なくぶん殴られるだろうな。
「んじゃ、かこむのことは頼んだぜ」
そう伝え、俺の肩を叩いて走り去っていった。今の行為には何か強い感情が込められていたような気がしたが……。
「さぁ、私達も行きましょうか!」
「……仲間に、想われてんだな」
「はい! ゆいかちゃんだけじゃなく、みんな仲良しなんですよ!」
アイドル科までの適当な話題ができた。
☆
「ここがアイドル科か……」
普通科とは少し離れた場所にあり、普段立ち寄ることもないので新鮮に感じる。
外装は特に普通科の校舎と変わった様子はなく、普通の4階建ての校舎に見える。
広さは一般校舎程ではないが、アイドル科の生徒は全学年含め21人。そう考えると大袈裟な広さをしているな。
強いて違った点を上げるとすれば、入り口に防犯対策からか、防犯ゲートが設置されていて、外の各地にカメラが設置されていることくらいか。
大切なアイドルがいる場所ということで警備は厳重なようだ。
「ここにアイフォンをかざしてください!」
口調が戻った黄谷が指差す方を見ると、入り口の横にパネルが付いていた。
俺は言われるまま、そこに自分のアイフォンをかざす。すると、上部のランプが緑に点滅した。
「これでいいのか?」
「はい。これをしないで入り口を通過してしまうと、警報がなってしまうので注意してくださいね」
「……肝に銘じとく」
こういうのよく忘れるタチなんだよなぁ。気を付けねば。
「昨日、文空君のデータをインプットしてもらったばかりなので、しっかりと作動したみたいでよかったです」
「まじかよ。昨日の夜決まったばかりだったろ」
なんて迅速な対応なのだろうか。同時に学校側が俺を公認してくれたということか。
「そうですね。ちょっと先生には無理を言ってしまいました」
「先生?」
「1年のアイドル科の顧問の花山先生です」
「ああ……あの親睦会の司会をしてた人か」
あの人普段見かけないなと思ったら、アイドル科の顧問やってたんだな。
「という訳で、そのお礼も兼ねて、これから花山先生に会いに行きましょう!」
「へーい」
面倒くさいがまぁ、最初はこういった面倒は付き物か。今の内に消化だ。
☆
アイドル科の職員室は1階にあるそうだ。
廊下を歩きながら見回しているが、校舎内も特に普通科と変わりは無いように思える。アイドル科のことだからもっと豪華なのを想像していたんだがな。
入口からすぐだったようで、すぐに職員室へ到着した。
職員室の扉にも入り口にあったようなアイフォンをかざすパネルが付いている。教師も生徒ら同様に認証が必要なのだろう。
入室の為、俺はもう一度アイフォンを取り出す。が、黄谷はアイフォンをかざすことなく、スタスタと入っていった。いらねーのかい!
「しつれいしまーす!」
「しやーす」
黄谷の元気な掛け声に便乗し一緒に入る。
職員室も別に変わった様子は見受けられない。男女比が普通科と比べて女性多めなことくらいか。
「……おい、センサーにかざさなくていいのか?」
一応確認を取っておく。忘れているという可能性があるからな。
「大丈夫ですよ。職員室は教師の入室記録用のものなので、生徒はかざす必要はありません」
「そうか……」
どうやら余計なお世話だったようだ。
「花山先生~連れてきたひょも~」
先生はデスクで作業をしていたが、黄谷の呼びかけに気付きそれを中断する。
「あら、かこむちゃんね……で、あなたが鹿誠文空君?」
「えぇ、まぁ……」
花山先生は眉間にしわを寄せ、顔を近付け俺を覗き込む。
それに対し思わず、後すざりしてしまう。
「……ふむ。あなたには変な下心とかは無さそうね。そもそも、女の子自体に興味が無さそう……もしかして、そっち系?」
「それはないです」
瑛介といい、どうしてそっちの発想に行き着くのか。
この先生は清楚系なイメージがあったが、実際には結構軽快に話す人なんだな。
「花山先生、今回は挨拶に来たんだひょも。だからあまり変なことは言わないでほし――」
「かこむちゃんも分かってるわね? もし“異性”の恋人なんて作ろうものなら……」
ゾワっと身の毛がよだつ。
なんか悪い方向へと向かっていってる気がする。
「大丈夫だひょも。だから――」
「私は25年間生きてきた中で1度も“異性”の恋人を作ったことなんてないのよ」
「何度も聞いたひょも。だから、お願いですから――」
「何故なら私はアイドルだったからよ。アイドルたるものファンを悲しませる行為は決してしてはならないの。だから“異性”との交友は禁止なの」
そういえば元アイドルって言ってたな。だから、その経験を生かしてここの顧問をしているのか。
「だーかーらー……ふぎゅっ――」
そんな花山先生の勢い止まらず、黄谷を抱きかかえた。
「私はかこむちゃんが大事だから言ってるのよ……なのに、こんな男連れて来て。私じゃ不満だって言うの?」
「そんな……こ……ふしゅぅ……」
「よしよし、かこむちゃんは可愛いわねぇ」
黄谷は心地よさそうに身を委ねてしまう。完全に目的を見失ってしまったようだ。
こいつらは俺を置き去りにして何してんだよ。
「あの……」
このままではいけないと思い俺は声を掛ける。すると黄谷は我に返ったのか、
「っ!? そ、そうひょも、人前で何してるひょもか先生!」
我を忘れる程に堪能してたくせに、どの口が言うのか。
「そうね……今度は人がいないとこでしましょうね」
「し、しないひょも! もう、第一印象最悪ひょも! もっと教師としての自覚を持つひょも!」
うむ。最初の清楚な印象から一転して、今じゃただの変態だ。
なにかと『異性』という言葉を強調するし、アイドルに抱き付くわで、この人こそそっち系ではないか。よく人のことを言えたものだ。
「安心して。ちゃんと持っているわ。いざという時は教師という立場を行使してでもかこむちゃんを抱くわ」
最低だこの人。
「もう、いいひょも! 失礼しましたぁ!」
結局、何しに来たんだよ。
☆
「先程はお見苦しい姿をお見せしてしまい、すみませんでした。あの先生いつもこうなんです。流石に初対面の人の前ならしっかりしてくれると思ってたんですけど……」
「まぁ、勉強になったよ」
とりあえず、あの先生には近寄らない方がよさそうだ。
「--それでは、気を取り直しまして、これから私のお部屋に招待します。そこで色々とマネージャーについての説明をしてきますね!」
「はい? もっと別の場所でいいんだぞ」
ここの学園のアイドルは校内の寮で暮らしているのだが。わざわざそんな場所でしなくても、ここには他にも打ち合わせくらいできる場所はいくらでもあるだろうに。
「お見せしたいものもありますし、できれば、来ていただけると嬉しいのですが……」
「まぁ、そういうことなら」
訳があるならしょうがない。ここのアイドルがどんな部屋に住んでいるのかは気になるし、向こうがいいと言うなら遠慮する必要もないだろう。
「1年生の寮は2階にあります」
登る階段が少ないのは助かるな。
「ちなみに、学年ごとに階が分けらていまして、2階全てが1年生の場所となってるんです」
「成程。んで、学年が上がると3階へ行くって感じか?」
「いえ。3年間2階のままです。なので、来年度の1年生は今の3年生と入れ替えで4階になりますね」
「ほう……俺達とは違うんだな」
「という訳で、道中でここの設備を紹介していきますね!」
まーた、面倒なイベントを……。部活動終了時刻までに帰れるかな。