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第九話 動き出した運命、覇道

 止めを刺したルークにリオンが小走りで駆けよってくる。


「あんなものあるなら、なんで最初から使わなかったの?」


 至極最もな疑問をぶつけた。

 その答えにルークは思い出したように身震いをした。


「だって、これ一発が俺のひと月の稼ぎより高いんだぞ? そう易々と使えるわけないだろ」


 その後も銃を手に入れるのに運び屋だの武器商人だのを口説き落とすのに一年近くかかっただの、今まで隠していて自慢できなかった分のストレスを発散させた。


 死体が転がるすぐ隣で、まして自分の殺した骸、そんなところでの談笑。

 リオンは、その光景に何も思わなかったわけではない。

 でも、押し殺した。

 彼についていこうと、そう遠い昔に誓ったのだから。


 銃自慢と周りの悲鳴が一段落したところで、ルークは今度こそ王のもとへにじり寄った。


「見ての通り、もうあなたを守るものは誰もいません。国をいただけますね?」


 王は腰を抜かしズルズルと後退するが、やがて壁に背中がつく。

 これ以上の後退は許されない。


「まっ、待て、そうだ! 共同支配という形でどうだ! ともに国を牛耳り、国民をいたぶって遊ぶのはどうだ? 女も用意するし、金も好きなだけ国民から吸い上げればいい」

 

―パァン


 乾いた音がホールにこだます。

 弾はイリアタ王の脳天に風穴があいた。

 至近距離だ。狙いを外すはずもない。


「時間がないんだ。お前たちにはなっから選択肢はない。頷けないなら死ね。次にここで偉いのはお前か?」


 ルークは次に自国の王へと銃を向ける。

 そして、冷たく低い声で詰め寄る。


「次はお前だ。どうする」


 自国の王はただ力なく答える事しかできなかった。


「……わかった、明け渡そう」

「わかりましただろ? 俺が王だぞ?」

 

 この瞬間、ルークは二つの国を手に入れた。




「され、そろそろ本当に神崎が来る頃合いかな」


 ルークは残った王族(正確にはイリアタの王妃、馬鹿王子、ホニンの王、王妃)から、各国の王族クラスでしか知りえない秘密を洗いざらい吐かせていた。

 ホニンの王は恐る恐るルークに尋ねる。


「でっ、では我々は解放?」


 ルークは笑顔を向ける。優しい優しい子供を諭すような笑みだった。


「あぁ、勿論だ」


 ホニンの王の喉元に短剣が刺さる。

 それを手早く抜くと、その刺された個所からは血飛沫が舞った。


「生からの解放だ」


 ルークは血の付いた短剣を拭くとリオンにも指示を出す。


「よく考えたら、王女様を利用するのにこいつらは邪魔だな。リオン残りも殺そう」

 

 リオンはその指示に逡巡を見せたものの、すぐに腰の抜けていた二つの国の王妃の首を裂いた。

 ルークはその様子を見て失禁をしてうずくまっていた馬鹿王子のもとに歩み寄る。


「あとは、お前だけだな。馬鹿王子」


 馬鹿王子は、その足音一歩一歩にブルブルと怯え、嗚咽を漏らす。

 許しを請う言葉を漏らすが、たどたどしく上手く音にならない。


「たっ、頼む、殺すのだ、けは、かか勘弁し、てくうぇよ。なっなぁんでもすっする」


 ルークの笑みは崩れない。

 それはもはや彼の顔に張り付いているようだった。


「いやいや、王子。馬鹿な味方ほど厄介なものはいないんでね。結構です」


 ルークは王子に向けて短剣を刺そうとした瞬間。


「うわわぁぁぁぁぁぁ‼」


 半狂乱気味になった馬鹿王子は、ルークに全身でぶつかる。

 ルークは予期せぬ反撃に、思わず尻餅をついた。


「くっ、この馬鹿王子が!」


―パリィィン


 ルークが体勢を立て直そうとする間に馬鹿王子は目の前の窓を突き破り外へ飛び降りた。


「まずい! その窓は‼」


 すぐに窓に駆け寄り、その下を覗いたルークだったが、すぐ下はテラスになっており、悶えながらも必死に逃げている馬鹿王子の姿があった。


「ちっ、悪運の強い奴だ」

「どうする? 追って始末する?」

「そうだな、頼む。だが、深追いはするな。あと、他の兵士の目の付くところでは殺すな。王族殺しは適当に奴らに擦り付けて、俺たちはおいしいところだけ貰っていたいからな」

「わかったわ」 


 そう言い残すとリオンはすぐに扉から下の階に向かっていった。




 そのすぐ入れ違いだった。

 神崎は粗方の兵士たちを鎮圧し、ルークたちのいる王族のいた広間に重い扉を開け辿り着いた。


「ルーク、今リオンが飛び出ていったけど、何かあったの? って、うっわ! その人たちは? ……まさか、ルークが?」


 神崎は疑いの眼差しをルークに向けた。


(間一髪だったな、もう少し早かったら初手から詰むところだった)


 ルークは苦し気に頭を振り、神崎に返事を返した。

 そこには先ほどまでの笑顔とは対照的な泣き声にも近い擦れた声のルークがいた。


「まさか! ここに来た時には、もうこの状態だったんだ! 俺たち以外にも祭りに乗じて、王族の首を取りに来た奴らがいたんだ! リオンと俺はそいつらと交戦したが逃げられてしまった。今、リオンが追っているが恐らく巻かれているだろう」


 ルークは神崎の表情を窺う。


「くっ、なんて奴らだ! 心あたりは?」


 ルークは内心ほくそ笑んだ。

 そして、あらかじめ考えてあった嘘を話し出す。


「多分、今巷を賑やかせている『黒狩り』という王族殺しだろう。圧政を強く国の王どもを殺して回る義賊もどきらしい」


 神崎の表情は苦々しい。

 これが神崎の人生で初めて目の当たりにする殺害による死だった。


「……いくら何でも、殺すことは」


 ルークは神崎の肩にポンと手を乗せ、慰めの言葉をかける。


「確かにそうかもしれないな。だが、礼嗣、こいつらは市民から巻き上げた金で私腹を肥やして、それによって間接的に多くの人間を死に追いやってきたんだ。その報いだよ」

「っ、でも!」

「今は為すべきことをしよう。まずは別の塔にいう王女ニアリスの救出が先だろ?」

「……そうだね」


 神崎は零れる涙を拭き覚悟を決めた表情を見せる。


(あとはホンニとイリアタを合併させ、王女ニアリスを国の象徴とすれば、俺の世界征服の第一歩が始まる)


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