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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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会議、結果 前編

「ルーク様、ラブジルでのあの発言はどういう事でしょう?」


 ニアリスは眉を曇らせる。

 ラブジルでルークが世界を手に入れると発言した。

 これは同時に世界中を敵に回すともとれる発言だ。


「そうだ! あの発言はこちらにまで回ってきているぞ! どう責任を取るつもりだ!」


 元からルークのことを疎ましく思っていた貴族代表のギルバードはニアリスの詰問に乗って罵倒する。

 ルークは額に嫌な汗を感じながらも、落ち着いて慎重に発言する。


「あっ、あれはですね。言葉のあやと言うか、我が国の発展スピードを考えれば不可能ではないと言うかですね」

「人族がこの世界の頂点に立てるはずがないだろ! 獣族に亜人族、鬼や魔王までいるんだぞ!」


 ギルバードがルークの言葉に割って入る。

 ニアリスはその言葉に強く頷く。

 元々、彼女は戦争自体良しとしなかった。

 それでも国の発展の為とルークに強く進言され、仕方なく首を縦に振るしかなかった。

 しかし、世界を相手取るとなると、今までとは比にならない量の血が流れる。

 流石にここを看過するわけにはいかない。


「別に今すぐ大戦を起こそうとしているわけではありませんよ。あくまで心構えみたいなものです」

「相手国はそんな事情を待ってくれるとは思えません。今すぐにでも襲ってくるかもしれないのですよ。直ぐに発言を大々的に否定してください」


 ニアリスはルークのあの発言を取り消すことを強く促す。

 ルークは何とも言えないペテン師顔で応じる。


「勿論、ニアリス様がそう願うのであればそうしますが、どの程度効果があるかは補償いたしかねますよ」


 直ぐ隣の席に座っていたセブンズの一人ニニは内心で『あっ、これ取り消す気ないな』と赤と青の混じる髪を指先で弄りながら思った。

 実際問題、あのルークの発言を取り消したところで大した効果は見られないだろう。

 吐いた唾は呑めない。

 宣戦布告を取り消すことは出来ないのだ。

 ましてや、ホイホイを攻撃する口実が欲しかっただけの国や組織もあるだろう。そこに対してあまりにも無意味な行為だ。寧ろ、腰が引けたかと乗り気になられる可能性もあるのだ。


 また、ラブジルでのあの発言でラブジル国民の民意を味方につけている側面もあるので、ここで発言を撤回すればラブジル側からそっぽを向かれる可能性もなくはない。

 ニアリスの提案は的外れで、後の祭りでしかなかった。


「では、これにてこの議題を終えましょうか」


 ルークはこれ以上長引かせたくない為、うやむやのまま話を切り上げようとする。

 だけれど、国王ニアリスと貴族代表のギルバード、両者が放してくれない。


「最近、軍隊の強化も過剰ではないですか? それが他国、他勢力の不安を煽っているのでは?」

「そうだ! 領地をことごとく奪い演習場だのなんだのと作り替えていきおって! 今でも自衛には充分だろう!」


 ルークもこれには手を焼く。

 ここで納得しておいてくれないと、後々厄介なことになると考えているからだ。


「……分かってくれませんか? 争いを止める為には多少の犠牲は出ますし、これがのちに真の平和につながることを約束しましょう。ここは任せて頂きたい」


 近くの席でセブンズの一人、ヨハネが力強く頷く。

 彼女はルークの滅ぼした国スタンキパで『神の溝』という宗教団体の教皇をしていた。

 しかし、その団体自体が彼女の作り上げたインチキ宗教で、信者から金を巻き上げ自堕落な暮らしをするのにも飽きたところでルークにスカウトされたのだ。

 ワインレッドの髪を編み上げ、おっとりとした目をしているもののどこか真意は読み取り辛い。

 しかし、ルークがスタンキパを落とす際、最も攻略に苦労したのが、このヨハネの組織した『神の溝』だったのだ。只者ではないのは確かだ。


 ルークの言葉にニアリスは納得できない。


「……争いを止める為の争いとは、そんなものが本当に存在すると思っているのですか?」

「します。世界は、この国はもっと豊かになる。ニアリス様の望み通りではありませんか?」


 ルークは断言する。

 そのあまりもの自信に満ちた肯定に後ろの席のセブンズが一人、ゴローがニッと口角を上げる。

 彼はルークたちが攻め入ったガルポルトで雇われの傭兵をやっていた。

 変わった男で、腕は経つが金ではなく雇い主の性格を見て仕事をする。数々の戦場を潜り抜けて来ただけあって筋肉は隆々、強面に無精髭、身体には至るところに古い傷が見えている。

 また、作戦指揮、戦況把握にも長けており、ガルポルトがルークたちの攻め落とした小国の中で最も手を焼いたのは彼の功績だろう。

 

 ルークは言葉を続けた。

 そこにニアリスも言葉を尽くす。

 表面上は互いが互いの意見を尊重している形だが、互いに絶対に譲れない領域がぶつかる。

 そして、白熱した会議は、いや二人の会話は三十分近く続いた。


 ルークが動く。


「ニアリス様、このままでは平行線です。ここは多数決、民主的に決めませんか?」

「……多数決が絶対とも思いませんが、仕方ないですね」


 ニアリスは信じていた。

 今の『大会議』に出席している者の中には、元イリアタの幹部だったものも多い、気心知れた仲の人もいる。

 彼等ならきっと私の言っていることを分かってくれるはずだと。

 ニアリスは両手を胸の前で組んだ。

 その様子をルークの右後ろの席に座っていたセブンズが一人、ムッツリが舌打ちをする。

 手が邪魔でニアリスの豊満な胸がよく見えないからだ。

 しかし、逡巡して両手が胸に押し付けられることでより胸が隆起するので、これもありだなと思い直す。

 彼はロッコモ共和国で巷を騒がせる連続下着泥棒だった。

 たまたまルークたちが火を放った民家にお気に入りの下着があり、それが燃えてしまったためルークたちの軍に反撃をしてきた。

 そこでの戦闘力の高さを買われ、女性もの下着一年分の契約で軍門に下ったのだ。


 ルークは進行のミズタマに声を掛ける。


「ミズタマ、そういうことだ。俺のやり方とニアリス様のやり方、この国の今後の方針を多数決で決めよう」


 進行のミズタマを静かに頷く。

 そして、集まった全ての者に聞こえる声で、これからの行く末を決める多数決を提案する。


「では、多数決を。ニアリス様の提案なされた軍の一部縮小、防衛時以外の戦力投入の禁止、他国との武力抜きの同盟、以上を軸になさる国の運営。ルーク様の提案なされた軍の拡大、それに伴う軍事費の増額、ニアリス国王の象徴化つまり政治不介入、貿易の拡大等の国の運営。どちらか一方に挙手をお願いします。また、どちらにも挙手しない場合、無効票とし、次回の『大会議』までに別の代理案をお願いします」


 誰もがミズタマの言葉に耳を傾けた。

 恐らくこれが最後の別れ道。

 この国の未来を左右する最後の分岐点。


「では、まずニアリス様に賛同する方は挙手を!」


 ミズタマの張り上げた声が会場に響いた。

 ニアリスは目を閉じる。


(お願い、この国を、争いのない平和を)


 彼女は願った。

 そして、ゆっくりと目を開け、その現実を焼き付ける。




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