表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/284

第七話 それぞれの初仕事、様々な思いが入り混じる

 厨房の栗が尽きたところで、四人は食堂を使い、作戦会議(ルーク以外のやる気はない)を始めた。

 ルークは、テーブルに地図を広げると、話を切り出した。


「まず、この国と隣の国を同時に落とそう」


「あんたには、郷土愛ってものがないの?」


「僕、いきなり、理由もなく国落としたくないんだけど」


「もう、本当に栗はないのか?」 


 皆の反応は冷たい。


「落ち着け! 我が右腕ども!」


 ルークは、大仰な声を出し、周りの声を遮る。


「あんたの右腕になるぐらいなら、クラーケンの右腕になった方がましよ」


「あれは、どれが右腕かわからんぞ?」


 幼馴染のリオンだけは、誤魔化されなかったようだ。

 そして、神崎の方を向き直る。


「なぁ、礼嗣。お前は知らないかもしれんが、この国には、それはそれは綺麗な王女様がいるんだ。名はニアリス」


「そうなの?」


「そうね、このあたりの国じゃ、かなり有名ね。実際に見たことはないんだけど、なんでも、一目見れば心を奪われ、二目見れば身を捧げるとか」


 リオンの捕捉に、ルークは芝居がかった口調で乗っかる。


「そう、花を愛し、動物を愛し、人を愛す、美しい心まで持っているそうだ!」


「で、その王女様が何なの?」


 その言葉を待っていましたと言わんばかりに、ルークはよろよろと崩れ落ち、ハンカチで目を覆う。


「残酷なことに、その王女様が今まさに、外交の道具にされようとしているんだ。隣国の馬鹿王子クソリスのもとに嫁がされようとしている。王女は、まだ十四歳、あまりにも酷い話だ」


 ルークは、神崎の方をハンカチの隙間からちらりと覗く。

 涙は一滴もこぼれていない。


「で、物は相談なんだが、礼嗣君。

君と俺の力を駆使すれば、兵力がすべて合わせても一万にも満たない隣のイリアタ王国なんて軽くのしちゃって、姫の涙を止めることが出来るとは思わんかね?」


 ルークはなんとか神崎を思いのままに操縦する方法を考えていた。

 で、思いついたのが、単純明快、神崎のお人好しに付け込んで戦う理由を提示してあげることだ。


「……ルーク、いくら何でも露骨すぎじゃ」


 神崎は俯いていて表情が読めない。

 ルークは苦い顔をする。

(やっぱり、魂胆が見え見えだったか?)


「……殺すのは、なしだからね」


 リオンはガクッと前のめりになった。


「えぇー」


 ルークは、内心、ほくそ笑みながら、握手を求める。


「あぁ、善処するよ」


(お前の目に着く範囲ではな)

 これは、戦争なのだ。

 だれも、死なないなんて、夢物語だ。

 だが、少なくとも神崎の前では、その夢物語を見せてあげなくては、人心掌握はできないということをルークはよくわかっていた。




 一週間程、隣国イリアタ王国のことを詳しく調べた。

 その結果、婚約を国にお披露目する為のパレードがあり、そちらに警備が割かれる今日、作戦を決行することにした。

 両国の重鎮は王女も含め、イリアタ王国に集まるので、なお都合がよかった。

 二つの国の中心都市は互いの国境に近いため、移動は二日とかからなかった。


 四人は、イリアタ王国の城の裏手に集まっていた。

 城下町の方は、今日のパレードのこともあり、活気のある声が聞こえてくる。


「いいか、最後に確認しておくぞ、礼嗣は城の正面から出来る限り目立つよう攻め入る。兵士を出来るだけ引き付けてくれ。

その間に俺とリオンが裏から侵入し、王女をさらい、国王どもに国を明け渡すことを交渉する。

ティグレは、戦闘向きのスキルを持っていないということだから、俺たちに神崎の動向を知らせる中継役をしてくれ」


 ルーク以外の三人が静かに頷く。


「それじゃ、僕は先に行くね。後は任せたよ」


 陽動の神崎は、一人、城の正面の方へ向かっていった。

 リオンは、そのタイミングを待っていたように話を切り出す。


「で、交渉なんてうまくいくと思っているの? 『お前たちの国をくれ』とでもいうつもり?」


 ルークは「ハッ」と息を吐いて笑う。


「まさか、そんなのでうまくいくわけがないだろうな。逆らったら、逆らわなくなるまで一人ずつ殺していくまでだ」


「……殺さないんじゃなかったの?」


礼嗣(あいつ)の前ではな」


 リオンは、予想通りの反応に、これといった動揺はなかった。


「でも、王族の周りには、かなりの手練れの近衛ぐらいいるわよ」


「そう、そこが今回の一番の難所だな。本当は礼嗣を連れていきたかったんだが、今言った通り何人か殺さないといけない以上、礼嗣は連れていけない。あいつが出来るだけ引き付けてくれるのを祈るばかりだな」


 城門の方で、大きな音がし出した。

 人々の叫び声がこだます。


「あと、三十分程といったところかな」




 神崎は、悩んでいた。

 ルークが色々と調べ物をしている一週間、リオンとともに自身のスキルのコントロールが出来るよう特訓をしていた。

 殺さない加減も掴んだつもりだ。

 

 だが、ただの一介の高校生だった神崎は城の攻め方がわからない。


「大抵の異世界転生主人公って、向こうから喧嘩売られるから、正当防衛的に戦闘が開始されるけど、自分から城を攻め落とすってのは、なんだかなぁ」


 城門の前に着くと、四人ほどの門番がいた。

 神崎に気が付くと、声をかけてくる。


「どうした? 道にでも迷ったか?」


 その気の抜けた敵意ゼロの声掛けに、神崎も気が抜けていく。


「はぁ、そりゃそうだよね。こんな丸腰の子供が一人で城を攻めに来たなんて思わないよね」


 色々と思うことが、この国の王が圧政や奴隷制度の推奨で民が苦しんでいるのもルークに教えられていたし、政治の駒にされている王女様を助けたい気持ちも本当だ。

 神崎は、覚悟を決め、声に力を籠める。


「すいません、この城貰います」


 それが合図だった。


 双頭(アクア・)(フレイム)を使い水の塊を大砲の要領で打ち出し、門番たちが手に持っていた武器がはるか遠くまで飛ばされる。


「これで、力量差が分かってもらえるといいんだけど」


 門番たちは慌てて、城内に入り、門を閉めようとするが、今度は火の玉を打ち出し、城門に巨大な穴をあける。


「化け物だー‼」「応援を呼べ‼」「城内に入れるな‼」「漏らした‼」


 門番たちは、口々に叫んで散っていく。

 神崎は、陽動の為、人が集まるのは都合がいいので追いかけたりはしない。


 すぐに十数人の兵士が集まってきたが、加減しながら双頭竜と滋養(マッスル)強壮(・アッパー)で制圧していく。


「ルークたちは、上手くいってるかなぁ」


 神崎の声からは欠片も緊張感はなく、それが兵士たちの恐怖を倍増させていった。




 ティグレは、神崎とルークたちの中間地点にて、双眼鏡で神崎の様子を窺いつつ、ルークたちに突入の合図を出すための特注の色付き煙玉を手の中で転がす。


「……何で私がこんなことをしなきゃいけないんだ」


 神崎の方は、予想通りの戦果で退屈になり、ルークたちが今から攻め込む城の高層部を双眼鏡で覗く。


「ん? ……あれは」


 ティグレは、そこに王族の他に気になる人物を発見する。


「……面白いことになるかもな」


 ティグレは頃合いだと思い、手に持っていた煙玉に火を付けた。


「……これ、飴玉だった」


 改めてポケットに入れておいた煙玉に火を付けた。




 ティグレからの合図を確認し、ルークたちは城の裏手から侵入を開始した。

 城門の方で暴れている神崎のおかげか、内部は閑散としていた。

 たまに見かける兵士もリオンが瞬殺していく。


「先に王女の方から行く?」


 王女だけは、別室に軟禁されているため、王族たちが溜まって居る場所とどちらから行くのかルークに確認をした。


「いや、荷物になるだろう。それに王女様には助けた後も働いてもらわないといけない。目の前で親族を殺しているところを見せるわけにもいかんだろう」


「それもそうね」


 ルークは自分と小走りで会話を交わしながらも、リオンは眼前の兵士の喉を短剣で裂くのを見て、そろそろアレットに殺されるのではないかと静かに身震いをした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作をお読みいただきありがとうございます。
出来れば1ptだけでも評価を戴けると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ