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第六話 人類の英知、それは

 ルークたちは腹が減ってきたが、一人で暮らしているルークの家にはロクなものがなく、仕方なくリオンの家へと向うことにした。

 どうやら、これが彼らの恒例のパターンらしい。


 リオンの家の前に着くと、神崎は感嘆の声を上げた。


「おっっっきな家だね、って言うか、屋敷?」


「そう?」


 二階建てのレンガ造りのその屋敷は横に広く、大きな二枚の扉の玄関がある正面だけでも百メートル近くある。玄関まで続く庭園には庭師がいて、リオンに気が付き挨拶をしてきた。

 日本ならよっぽどの田舎にでも行かなくては建たない豪邸だが、いつも暮らしているリオンや見慣れているルークには、ピンとこないようだ。

 ティグレは澄ました顔をしていて、何を考えているかわからない。

 

 屋敷の中に入ると、すでに大量の料理を給仕が食堂に運んでいるところだった。

 屋敷の玄関では一人のメイドがリオン達を出迎える。


「おかえりなさいませ、リオンお嬢様。食事の準備は終えています」


 戸惑う神崎をよそに、リオンは、さも当たり前のように、そのメイドの出迎えを受け入れる。


「ただいま、アレット。食事の準備ありがとう」


 神崎は、その様子に目を疑う。


「さっきまで、僕を殴打していた人間と同一人物とは思えないよ」


 その呟きに、ルークも深くうなずく。


「まぁ、そこは同意だ。どうやったら、この環境で、あんな粗暴な人間が育つんだ?」 


 その二人の会話を聞き逃さずに、メイドのアレットがズズズと近づいてきて、その深い真紅の目をジト目にし、睨みつけてくる。


「確実に、あなたに影響されてですよ、ルーク様」


 そのやり取りは、いつもの事なのか、ルークは顔を逸らすだけで、むやみに言い返さない。


「さっ、さぁ、早く食堂に行こうか」


「ルーク様、まだ話は終わっていませんが」


 アレットはルークの肩を掴み、恨めし気な視線を送る。


「さ、さぁ!」


 ルークは、とにかくアレットの存在を無視しいて、食堂に足を向かわせる。




 食堂には、テーブルいっぱいの食事が用意されていた。

 魚料理が多いのは海が近いせいだろう。

 リオン達はすぐにテーブルに着き、飢えた獣のように食事を始めた。

 神崎もその姿に少し圧倒されながらも、テーブルに着き、日本では見たことのない料理におっかなびっくりで手を伸ばす。

 因みにティグレは、誰よりも早く食事を始め、もう一皿平らげていた。

 



 人心地つくと、神崎が先ほどのルークの家での会話を再開した。


「それで、世界を手にとるってどういう事? 何? 世界征服でもしたいの?」


「そうだ」


 ルークの目は、真剣そのものだった。

 神崎は、少し戸惑いながらも質問を続けた。


「具体的には?」


「まずは、国を手に入れる。そこを拠点に、勢力を拡大して、戦力が整ったら魔王を討伐して、世界を俺のものとする」


「あっ、やっぱり魔王とかいるんだ」


「お前の世界にもいたのか?」


 神崎は、苦笑いをうまく隠しながらしゃべる。


「いや、いないけどね。僕の国では、ポピュラーな存在だったよ」


「「「?」」」


 それだけで、意味の伝わる者はいないだろう。

 三人は不思議そうな顔をする。


「それにしても、結構大雑把だね」


「細かいところは、日々変化していく、その時々に指示を出したほうがいいだろう」


 神崎は呆れ顔をするが、慣れているリオンや興味のないティグレは大したリアクションをとらない。


「で、因みに何で世界征服したいのか聞いてもいいかな?」


 その質問に、ルークは澄んだ瞳で答える。


「欲求に理由なんているのか? 欲しいから、欲しい」


「征服した後は?」


「嫌いな奴を殺して、気に入ったやつを周りに侍らす」


「えぇー、僕の転生パートナー、完全に悪そのものなんですけどー」


 リオンが恨みがましい視線を神崎に向け、手に持っていたフォークを向ける。


「本当に余計なことしてくれたわね」


「えっ?」


 リオンは、肺の空気を全て吐き切る勢いの長い溜息をついた。


「今までなら、町はずれのクソガキの戯言で済んだけど、あんたっていう巨大な戦力を手に入れたことで、こいつの戯言が、実行段階に入っちゃったのよ」 


「えぇー、異世界に転生させといて、ここまで歓迎されてない事ってある?」


 それを聞いていたルークは、さして気にしていない様子で神崎との会話を続けた。

 普段、ムスッとした顔の多いルークからは、想像もできないぐらいにこやかである。


「それにしても、細かく指示するとか言ってみたけど、お前の我儘(ハーレム)放題(エンド)を使えば、実質世界の半分を手に入れたようなものだし、大してやる事ないかもな」


「…………」


 その言葉に、神崎は少し閉口した。

 ルークは、その様子を訝しんだ。


「どうした?」


 神崎は、重苦しい口を開ける。


「……ルーク、そのことなんだけどね。僕は、我儘(ハーレム)放題(エンド)を使う気はないよ」


「何‼ どういうことだ‼」


 ルークは、その言葉に思わず椅子を後ろに跳ね上げて、立ち上がる。

 その様子に、神崎は落ち着いた口調で話し出した。


「いくらなんでも、このスキルだけは使えないよ。明らかに一つだけ異質だよ。僕は、人の心を操ったりしたくないよ」


 その言葉に、ルークは半笑いになる。


「はっ! お優しいことだな。世界の半分だぞ? 魔王は無理でも、魔女王にすら勝てるスキルかもしれないんだぞ?」


「……何? 魔女王って、果てしなく語呂が悪いね」 


 今、論点はそこではなかったが、神崎は気になって仕方がなかった。

 隣で見ていたリオンが答えってくれる。


「魔王がいるんだから、魔女王もいるでしょ。語呂が悪いのは認めるけどね。因みにうちの国では『魔女王、魔王城で往生』って早口言葉があるわ」


「えっ、魔王、普通に結婚してるの?」


 神崎たちが、完全に話がそれていたので、ルークは苛立ちながらも、少し低姿勢気味に話を戻す。


「とにかく、試しに使ってみろよ。少しでいいから。なっ? 先っぽだけでいいから、そこの女どもの乳も揉み放題だぞ」


「……君は、見下げ果てたクズヤローだね。お約束なら、君と世界を救ったり、魔王を倒したりするかと思ったんだけど」


 ルークは「何を言ってるんだ?」と言わんだかりに、首を傾げる。


「魔王を倒して、世界を救って、世界を貰えばいいだろ?」


「でかすぎる恩賞‼」


 リオンは、今、自分の胸を差し出されたのに、呆れた表情を作るだけだった。


「こういうやつよ、そいつは」


「えぇい、まどろっこしい! お前は、俺が召喚したんだ! 俺の言うことを聞け!」


 ルークは、見えなくなった右目を片手で抑え、指のすき間から覗く紋様を神崎に向ける。

 なんか、こうしたらスキルの効果が発動して、強制的に命令できるかなと考えたポーズだった。


「……えっ、普通に賛同できないんだけど」


「……召喚された奴は、普通スキル使用者の言うことを聞くものだと思うんだが」


(現状のレベルでは無理なのか? レベルが上がるまでは、ある程度下手に出ておくか?)

 ティグレは、追加で頼んだケーキを食べながら、興味なさそうに告げた。


「どうやら、召喚するだけのようだな。実に興味深い」


 ルークは、そんなティグレに恨めし気な視線を送る。


「全く、興味深そうには見えないんだが?」


「そんなことはない。このモンブランというケーキ、初めて食べたが、実に興味深い」


「そっちかよ‼」


 モンブラン、それは人類が生み出した英知の結晶。

 例え、どの異世界に行っても存在し続けるであろう。


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