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二人の怪物、誕生過程は違えども

 その拳はアレーニェに届いた。

 確実にアレーニェの顔面を捉えた。

 そして、彼女は後方の壊れた家屋に小さな体ごと吹き飛ばされた。


「ふぅ、やっと一発殴れたぜ」


『アレーニェ様!』『大丈夫ですか⁉』『死なないで下さい!』


 すると、先ほどの声をあげた女の子の他にも多くの隠れていた村人の声が聞こえてきた。

 ルークは勝負は決したかと、その様子を静観していた。


『ぐっ、駄目だったか』『結局あの化け物が勝つのかよ』『今度こそ死ぬかと思ったのによ』


 バレッタの勝利を惜しむ声に初めは村人かとも思ったルークだが、その野太い声は後方で地面にうずくまっている者たちの声だった。

 それはアレーニェが最初に片付けたラブジルの兵士たちだった。


「死んでなかったか」


 立ち上がることは出来そうにないが、意識は辛うじて取り戻したようだ。

 これはまた対照的な光景だなとルークは呆れた。


 アレーニェの元にバレッタが近寄る。

 止めを刺すためだ。


「結構、面白かったぜ」


 瓦礫にその姿を埋めたアレーニェに目をやる。


「大丈夫じゃ、みんな、私に任せておけ」


「――‼⁉⁉」


 距離を詰めたバレッタの身体が何かで包まれた。

 それは先ほどから散々苦しめられてきた糸だ。


 ルークは目を見開いた。

 今のは、明らかに噴射された糸、人のテクニックどうこうでバレッタの身体に一瞬で巻きつく糸を発生させることなんて出来るはずがない。


(スキルなのか? あの女のスキルは電気と物質の透明化じゃないのか?)

 自身の推測が壊れることに動揺を隠せないルーク。


【能力名】

 理想(ウラハ)政治家(・ナシ)

【LEVEL】

LEVEL7 

~次のLEVEL到達の詳細不明。

【スキル詳細】

 触れた物質に不可視化を付加することが出来る。

 ただし、付加できる物質は自身の体重と同程度までとする。

 例)

 スキル使用者が体重50キロとした場合。

 10キロの物質5つまでに透明化を付加できる。

 解除は自由。

 ただし、同じものは連続では不可視化できず、不可視化は一つ最大一日

までとする。


 ルークの推測はあっていた。

 アレーニェのスキルは電気(ラム・)(チャン)理想(ウラハ)政治家(・ナシ)、つまり電気と透明化だ。

 ならば、何故、彼女は糸を噴射できたのか?

 この世界の人間でスキルを三つ以上持つものは一人もいない。

 一つのものや一つも持たないものはいても三つ以上は絶対にありえない。

 神崎は例外にして、本当にオンリーワンなのである。


 なら何故、アレーニェは三つ目の異能を可能にしたのか?

 それは彼女の姿にあった。


 瓦礫からゆっくりと起き上がる彼女のその姿にルークは再度目を見開く。

 線が繋がる。

 いや、糸だろうか。


「そうか、そういうことか」


 そのアレーニェの姿はもはや人間ではなかった。

 ルークはごくりと息を呑む。


「お前、それ何パーセント入れたんだ?」


 右の背中の肩甲骨の辺りから一本だけ生えた新たな腕。

 黒く、細い、小さな毛がうじゃうじゃと生えた腕、いや脚かもしれない。

 そして、彼女の右目の下に描かれたタテゥーのような黒い模様がうにゃうにゃと広がっていく。


「ほう、この姿の正体を知って居ったか、博識じゃの。比率は企業秘密にしておこうかの」


 蜘蛛。

 彼女の背中から生えたそれは蜘蛛の脚の様だった。


「俺も前々から興味があってな」


 人類混合種化計画。

 それはかつて大国華中で企てられた非人道的計画だ。


 以前、ルークが神崎と強華に説明した混合種。

 これは他種族間の血が混じった種族の事を指す。

 しかし、魔族最弱の人類は他種族との間に子を作っても、そのあまりもの非力さゆえに混ざり合わず、大抵は死に絶え、生き残ったとしても人の血は残らず、もう片方の種族に属することとなる。

 混合種族事態、出来損ない、どちらの種族にも属しない半端者のレッテルを張られがちで評価は低いが、それは他種族のでの話だ。

 人間からすれば、優秀な他種族の血を取り入れれば、半端者とて従来の人間の力を遥かに凌ぐ力を得ることが出来ると考えた。


 そこで、昔から色々な魔族とパイプを持つ、華中の内部でこう考えるものが出てきた。

 人の身体に混ぜても大丈夫な量の他種族の血のパーセンテージを研究し、子として誕生させるのではなく、今生きている兵の身体を調整し、無敵の軍隊を作れないかと。


 子として、半々では人の血が負ける。

 なら、四十パーセントなら? 三十はどうだ? 二十なら?

 そうして人体実験を繰り返し続けたが、芳しい結果は得られなかった。

 大抵の兵は結局他種族の血に耐えられず、生き残った兵も力の暴走を起こして扱い切れずに殺された。

 やむなく計画は凍結され、非人道的と他国に非難され、当時の研究者たちは責任を取る形で極刑や国を追放された。

 ただし、その暴走した兵の力は強力で、未だに水面下ではその研究は続いているのではないかと、まことしやかに噂されている。

 その当時の実験にされた兵士たちは哀悼の意味も込められて可哀想(シェル)兵士(ター)と呼ばれた。

 そして、今では他種族の血を混ぜた人間の総称となった。


 アレーニェにどんなコネがあったかは知らないが、彼女は村を守るために自身を投げ出し、暴走の可能性も恐れず力を求めたのだ。

 彼女の身体の中には獣族のスパーダーと呼ばれる手足の多く、糸を吐いて住処を作る特殊な部族の血が混じっている。

 その割合にして五パーセント。

 それが彼女ほどの実力者でも扱い切れる限界の数値。


 そして、今の彼女のように姿が混じった血の種族に近づくように変化するのを、当時の華中の研究者たちはこう呼んだ。


――(だく)血化(けっか)


 他種族の特赦な力を扱えるだけでなく、身体能力まで他種族に近づく。

 人類の切り札となりえるはずだったなり損ないの計画。


「濁血化までさせたんじゃ、勝負を急がせてもらうぞ」


 濁血化は身体の機能を混ぜた血の種族よりに高めるが、暴走の可能性も高くなる。

 アレーニェの綺麗だった黄色の瞳の色は紅く濁り始めていた。


『アレーニェ様ー、頑張って‼』『応援してます‼』『負けないで‼』


 その異形の姿を見ても、村人たちの歓声が鳴りやむことはなかった。

 一人ぐらい、人質に出来ないかと、一歩足を動かしたルークだったが、すぐに電気の走る糸が足元に噴出された。


「そこを動くなよ。一歩でも動けば黒焦げにする」


 ルークは、奥の手として腰に手を回そうとしたが、やめておくことにした。

 それはまだ性急だったようだ。


「今のはなんだ? 気に入らねーなあ」


 ビシッ‼ と何かが弾ける音がすると、アレーニェの足元に転がっていたバレッタが糸の拘束から逃れ立ち上がった。


「……まだ、動けたのか。私のその糸は常人には破れん強度なんじゃがの」

「生憎、常人なんてとっくに辞めた狂人なもんでね。可哀想(シェル)兵士(ター)と戦える機会なんてそうそうないぜ、存分に殴り合わせてくれや」


『まだ生きてたのか』『いい加減死んでくれよ』『まさかとは思うが。ここから勝つんじゃないだろうな?』『いや、相手は力を制御できてる可哀想(シェル)兵士(ター)だ、流石に死ぬだろ』


 ラブジルの地に伏した負傷兵たちは口々にバレッタの死を祈る。

 彼女の暴走の終わりを祈る。

 ここで彼女が死んだ方が国が豊かになる、そう信じているのだ。


 ルークの胸には、言い知れぬ思いが湧き上がった。


「……本当に対照的な二人だ」


 神より与えられし才能と狂人的精神を持った暴風。

 彼女は何度生まれ直してもそうなるだろう。

 誰からの理解も得られず、避けられ、疎まれ、それでも己が道だけを、前だけを見て、死ぬだろう。


 周りに怪物と恐れられ忌避されてきた生まれながらの天然の化け物女。


 秀才であっても、それは与えられし才では決してない。

 スキルを取ってみても、そこそこ高位であっても最上位ではない、知識と工夫で補い強者と並んでいる。

 周りの為に、みんなを守るために、必要に迫られ、彼女はそこに堕ちた。

 人の身であることを自らの意思でやめた。


 周りに頼られ慕われ守るために怪物にならざる得なかった人工の化け物女。


 そこに優劣はない。

 どちらも等しく化け物だ。


 どうしても差をつけるならば、それはこの勝負の勝敗でしかわからない。


 化け物を見て、化け物を思い出す。


「そう言えば、あいつどうしてるかな」


 すっかり、存在感の薄くなった主人公ルークはホイホイにいるあいつを思った。




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