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選択、それは誰しもが毎日行う事

「さぁ、僕の上げたギアについてこれるかな?」


 獣族の重役、四老獣の一人、トライはそう言って手首をぽきぽきと鳴らした。

 声を掛けられた神崎は、壊れた門の残骸の中に埋まっていた。


 まずいな。

 今のスピードは完全には反応しきれないぞ。

 神崎は初めて目にする自身を凌駕するスピードに焦りを感じていた。

 起き上がれば、また戦闘が始まる。

 まだ、何の戦略も練れていないこの状況でそれは避けたい。


「待たないよ。暇じゃないんでね」


 真上に昇る太陽がトライに遮られ影を作る。

 神崎の頭上からトライの飛び蹴りが降り注ぐ。

 神崎はこれを僅かに体を回転させ回避するが、神崎の元いた場所は粉塵が上がり衝撃音が鳴り響く。

 そこは地面が抉れ小さなクレーターが出来ていた。


 パワーも高いな。


 距離を取って戦おうと、双頭(アクア・)(フレイム)で滝のような水流を生み出し、トライに発射する。


「おそい、おそい」


 これを軽々とかわし、神崎との距離を詰め、目にも止まらぬ速さで神崎の腹に蹴りを入れる。

 

―ベキッッッ‼

 

 鈍い音が咄嗟にガードの為に挟んだ神崎の腕から発せられた。


「ぐっ、ああああああああああ‼‼」


 堪らず悲鳴を上げる神崎。

 左手の骨が折れた。

 それは初めて受ける圧倒的ダメージ。

 今までは滋養(マッスル)強壮(・アッパー)によって身体能力を高めていたため、まともなダメージを負うことはなかった。

 避けられるし、被弾しても強化された肉体は、筋肉は簡単にはダメージを負わなかった。

 しかし、トライはその筋肉の鎧もあっさりと突破し、骨までダメージを染み込ませた。


 元いた世界では負ったことのなかった痛み。

 只の一介の高校生には無縁の痛み。

 その痛みにのたうつ神崎をトライは見下ろす。


「おいおい、戦闘中に骨が折れることぐらい普通にあるだろ? 今更時間のない君が時間稼ぎか?」


 歯を食いしばり、痛みで呼吸も乱れつつも神崎は顔だけを上げてトライを睨みつける。

 そして、左手を抑えていた右手をトライの方にかざす。


 双頭(アクア・)(フレイム)、超至近距離から炎の渦がトライを襲う。


「だから、それ遅いんだって」


 トライはそれを体を右方に少しだけずらし、回避する。

 トライのスピードは圧倒的であった。

 見てから動いても間に合う回避スピード。

 つまり、どんな攻撃も当たらない。

 それは何よりも凄い脅威だ。


 例えるなら、トライは野球で投手がどんな変化球を投げようと、捕手の元にボールが届き、捕手がミットを閉じようとした瞬間にバットを出してもホームランに出来るぐらい速い。

 これでは、何を投げても一緒だ。


 双頭(アクア・)(フレイム)‼ 炎の渦。

 双頭(アクア・)(フレイム)‼ 水の噴射。

 双頭(アクア・)(フレイム)‼ 水の渦。


 闇雲に放つ神崎の攻撃もトライはさらりと躱していく。

 舞い上がった水飛沫がトライの髪を僅かに濡らす。


「もう、そんなことしたって僕が少し濡れるだけだって」


 どうやったら、攻撃が当たるんだ?


 偽物(ノーパクリ)技巧師(・オマージュデス)握力()超過()

 神崎はバレッタのスキルをコピーすると、足元の石を砕き、トライの目に向けて浴びせる。


「目潰しか、悪くないね」


 すぐさま背後を取りにかかる為に地面を踏み出した神崎だったが、背後を取られたのは自分になった。


「まぁ、それも見てから避けるには十分な時間があったけどね」


 背中を思い切り押し出すように蹴られる神崎。


「っ!」


 またも、彼は地面に転がった。

 トライは地面に転がる神崎を虫けらでも見るような目で見下した。


「もういいや、死ぬしかないね」


 神崎は息が切れ疲労の色も濃くなり始めたが、目はまだ死んでいなかった。


「はぁ、はぁ、僕はまだ戦える。そして、君を倒して街の人もみんな救う」


 トライは鼻で笑った。


「それだよ、それ、さっきも言おうと思ったんだけど、倒す? 殺すじゃなくて? 戦う? 一方的に殺戮するのではなく? みんな? 誰一人犠牲は出さないの?」


 それは、言葉にして覚悟したはずだった神崎の決意の裏切り。

 戦において、虫のいい話はない。

 ルークに相手を殺すことを許容した。

 最小限の犠牲は仕方ないと。

 戦闘中に相手の生死について余裕を持てるほどの圧倒的力を持つものなど、少ないだろう。

 でも、今目の前にいる敵は最小限とか、出来るだけとか甘い事を言って勝てる相手ではなかった。


 神崎は元の世界でも、この世界でも人を殺めたことはない。

 この世界では何度か戦争をしたが、いずれも圧倒的力で可及的速やかに制圧した。

 

 握る拳の力が抜けていくのを感じる。

 神崎は目の前トライの言葉を無視して、絞るような声で泣いた。

 嗚咽だ。

 只の高校生が絶対に遭遇しえない選択を突きつけられているのだ。


「ちくしょう、僕はチート主人公じゃないのかよ。絶対的力でこの世界の住人全てに圧勝して、やり過ぎちゃった? とかムカつく顔でおちゃらけて世界を救ったりできるんじゃないのかよ」


 チートは周りが狡いと感じるぐらいの存在。

 圧倒的な力。

 でも、それは絶対的ではない。


 選択の時だ。

 神崎は喉を枯らす勢いで叫ぶ。

 

「くっそ‼‼ くっそー‼‼ くっそくらいだ‼‼」


 神崎が右手の拳で地面を叩く。

 その地面は抉れ、クレーターができる。傍にいたトライは反射的に飛び、下がって距離を置いた。


 言葉なんて軽いものは信用に値しない。

 言葉に意味なんてない。

 意味があるのは、信用に値するには、行動した人間だけだ。


 行動に勝るものなし。


「……トライ、僕は今から君を殺す」


 神崎の瞳に落ち着きが戻っていた。

 いや、戻ると言うより、より深く。

 初めて誰かを殺すと口にした。

 言葉にした。

 そして、今から行動に移す。


 彼はそれを選択した。


「いいね、その言葉が聞きたかった」


 トライ程の実力者なら、もうわかっている。

 ギアを上げることが出来るのは、トライだけではなかった。

 殺す覚悟、それは意識的に、そしてどこか無意識にしていた神崎のストッパーを外し、ギアを上げるには十分すぎる要素。


 神崎の足元にできたクレーターは先ほどトライが飛び蹴りで作ったクレーターよりも大きく、深かった。



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