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第五話 チート、それはお約束

 神崎は一時間ほどして、ルークの家の寝室のベットで目を覚ました。


「―いつっ、つっ」


 起き上がり、節々の痛みを確認する。

 ルークは、その様子を、いい気味だと笑いたい気持ち半分、右目失ってまで召喚したのにと悲しみ半分の複雑な気持ちで見ていた。


「よう、目が覚めたか?」


「酷い目にあったよ」


「まぁ、リオンは、この町でもトップクラスの実力者だよ。次、女だからとか言ってると、命が危ないぞ」


「この世界じゃ、男女の筋力差とか無いの?」


 その疑問に、ルークは遠い目をする。

 在りし日のあれやこれやを思い出している。


「……いや、普通にあるが、あいつみたいな例外はどこにでもいる」


 つられて、神崎も。


「……そっかー」


 だが、すぐにルークは真顔になる。


「だが、筋力差はあっても、男だから強いってわけではないぞ」 


「どういうこと?」


「そっちでは、どうか知らんが、こっちにはスキルという個人ごとに違った特殊な能力がある」


 神崎は、向こうの世界のサブカルに当てはめ、すぐに理解する。


「なるほど、そっち系かー、そのスキルは誰でも、持っているものなの?」


「普通は、生まれたときに一つ、自身で習得できるものが一つ、の計二つ持つことができる。お前を呼び出したスキルが後から俺が習得したスキルだな」


「後から習得したスキルはルークみたいに右目を失ったり、何かしらの代償がある感じ?」


「いや、難易度によるな」


 神崎は顎に手をやり、何かを考えている。


「随分理解が早いんだな」


「まぁ、向こうの世界に似たような文化があったからね」


「そうか、なら話が早い、早速、お前のスキルを確かめてみないか?」


 神崎は、顔を上げる。


「丁度、それを考えてたんだよ。この世界で生まれていない僕は、最初はスキル無しなのか、お約束のチートスキルを持っているのか。それはすぐに確認できるものなの?」


 ルークは、何のお約束だと、心の中で突っ込んで続けた。


「コツはいるが、この場でも出来るな」


 神崎は、年相応の無邪気な顔をし、ベットから乗り出した。


「そうそう、そう来なくっちゃ、せっかく、異世界まで来たんだから。どうやるの?」


「まぁ、見てろ」


 ルークは、そう言って、その場で立ったまま、目を閉じた。

 数秒すると、ルークの体が薄っすらと発光し始めた。

 ルークが、両手を前に伸ばすと、そこにはA6サイズ、つまり文庫本ぐらいの黒い箱が現れた。


「これが、個人のスキルの詳細が書いてあるカードが収まった箱だ」


「箱って名前なの?」


 ルークは、興味なさげに箱を開けながら、答える。


「さぁ、正式名称があったような気がするが、俺は箱って呼んでるな」


 箱の中には、ガラスで出来たような透明の遊戯を究めてそうカードが二枚収まっていた。

 それについて、ルークは説明する。


「この上に書いてあるのが、能力名。中段に書いてあるのが能力のレベル。下段が能力の詳細だな」


 神崎が、ふと感じた疑問を口にする。


「こっちのカードにだけ押されているDって判は?」


 ルークは一瞬口をつぐんで、言いにくそうに答えた。


「……能力鑑定士にAからEまであるランクを、自分のはどのランクかを鑑定してもらって、鑑定書をもらったら市役所に持って行って、カードに判を押してもらえるんだ。バイトや就活の時、武器になる」


 神崎は、急に現実に引き戻されたみたいな顔をした。


「あっ、こっちの世界も就活とかあるんだ」


「仕事しないと生きていけんだろうが」


 だから、つい最近習得した召喚スキルには、判が押されてなかったのかと神崎は納得した。


「で、異世界から召喚スキルの方は分かってるけど、もう一つの最初から持っていた能力は何なの?」


 ルークは渋そうな顔をして話したがらない。

 神崎は埒が明かないと思い、箱から、先天性スキルの書かれたカードの方を取り上げた。


「あっ、こら!」


 幸い、異世界の文字が読めないとかクソ使用ではなく、神崎にもカードの文字が読めた。


【能力名】

 時間外(オーバー)労働(タイム) 

【LEVEL】

LEVEL5  

~次のLEVELまで、魔物討伐残り342体。

【スキル詳細】

 触れた相手(同時になら複数可)を、使用者の匙加減で疲労させることができる。

 ただし、死ぬほどの過労は不可。

 同時に、自分も同程度の疲労を追う。

 複数回使用の場合は、全快を百とした時、一度目に相手を二十疲労させると自分は八十、二度目に別の相手を二十疲労させると、自分は残り六十となる。



「……ノーコメントで」


「俺がいつコメントを求めた? これでも随分マシになったんだよ」


 最初の頃は、一日一度しか使用できず、それも、匙加減も選べず、若干怠くするだけという穀潰しスキルだった。


「何というか、パッと見でゴミスキルに見えないところが、尚たちが悪いよね。上手く使えば強いんじゃね? って勘違いする人もいそうな具合だよね」


「コメント控えてたくせに、結構的確なこと言ってくれるじゃねぇーか」


 単体の戦闘に向かない。

 超至近距離でなければ、発動できない。

 決め手に欠ける。

 かと言って、複数人を相手にすると詰む。


 普通にクソ能力だった。


 気まずくなったので、カードを戻し、もう一枚の方を取り出す。


【能力名】

 異世界(ナ・)転生(ロウ)

【LEVEL】

 LEVEL1

 ~次のLEVELまで?

【スキル詳細】

 ????????????????


 神崎は、一枚目とのあまりもの違いに驚きの声を上げる。


「えっ、何これ? 何もわからないじゃん」


「そうだな、お前が寝ている間に俺も確認したが、スキル詳細すらないのは初めて見たよ」


「次のレベルのところも? になってるよ」


「それは、割と上位のレベルになればあることだ、1から2になるのにすら、どうやったらレベルを上げていいのかわからんとは思わなかったがな。

ってか、これレベル上がったら、何ができるんだよ。お前呼んで終わってるんじゃないのか? お前を強化したりできるのか?」


ルークの疑問は尽きない様で、ブツブツと考察を漏らした。

 因みに、1から2に上げるぐらいなら『三十回能力を使用する』とか、スマホ―ゲームのチュートリアルぐらい、面倒だが、簡単だったりする。

 神崎は、何となく能力について理解し始める。


「へー、そんなものなのか。で、僕は何をしたら、その箱をだせるの?」


 ルークは、どう説明したものかと頭を悩ませる。


「こう、目を閉じたら、全身の血の流れを両手に集めるイメージで、後は頭の中に箱をイメージしろ、上手くいけば、それで出てくるはずだ」


「随分、大雑把だな~」


 神崎は呆れつつ、ベットから降りて、取り敢えず言われたとおりにやってみる。


―ポンッ


「あっ、出来た」


 神崎の手元にはB5の少年ジャ◯プぐらいの大きさの白い箱が出てきた。

 上手くいったのにも拘らず、ルークは憮然とした態度をとる。

 そこに、リオンが寝室へ入ってきた。


「えっ、もう出せたの? ルークなんてどんだけ説明しても十歳位まで出せなかったのに」


 リオンは幼馴染ゆえの恥ずかしエピソードを、悪びれずに吐露する。


「うっ、うるさい!」


 大抵の子は四、五歳で出来る事である。


「ってか、箱大きくない?」


 そう、別にルークの箱が小さかったわけではない。

 ルークの箱が普通の規格だ。

 そして、神崎の箱が規格外だ。

 ルークもそれが気になり、神崎に箱を開けるように促す。


「じゃあ、開けるね」


 ルークとリオンは驚くしかなかった。


 最初に説明した通り、一人に持てるスキル数は二つだ。

 先天的にスキルを二つ持っている人や、最初は一つもスキルを持たずに後から二つ覚える者もいるが、絶対に二つである。


 だが、神崎の箱の中にはカードが五枚入っていた。


【能力名】

我儘(ハーレム)放題(エンド)

【LEVEL】

 LEVEL9(Max)

【スキル詳細】

 スキルを発動した瞬間、世界中の異性に好かれる。



【能力名】

 偽物(ノーパクリ)技巧師(・オマージュデス)

【LEVEL】

 LEVEL9(Max)

【スキル詳細】

 発動時、特定の人物のスキルを出力二百パーセントでコピーできる。

 使用回数制限なし。



【能力名】

 現実(スキャン)虚構(サー)

【LEVEL】

 LEVEL9(Max)

【スキル詳細】

 発動時、半径一キロメートルでスキルの使用は出来ない。

 持続時間一時間。

 インターバル一時間。



【能力名】

 双頭(アクア・)(フレイム)

【LEVEL】

 LEVEL9(Max)

【スキル詳細】

 無から火と水を自由自在に生み出し、操ることが可能。

 射程距離は目視可能範囲まで。

威力999



【能力名】

 滋養(マッスル)強壮(・アッパー)

【LEVEL】

LEVEL9(Max)

【スキル詳細】

 身体能力の大幅強化。

 発動時間一時間。

 インターバル一時間。


 一枚、一枚読み上げていったリオンの手が震える。


「なによ、これ。能力鑑定士に見せるまでもなく、Aランク確定じゃない。いや、下手するとSランクなんてこともあるかも」


 神崎は、少し読めていた展開とは言え、やり過ぎ感を拭えずに気まずそうな顔をする。


「いやー、まさかここまでとはねー(棒読み)」


 リオンは、誰よりも才能を毛嫌いしていたルークを心配そうに見つめた。

 しかし、ルークの反応は少し予想とは違った。


「フハハハッ、ハハッ、ハハハハハハッ‼」


 ルークは堰を切ったように笑い出した。


「そう、それでいい。そうでなくっちゃ、右目を失ってまで手に入れた意味がないだろう」

 

 そして、神崎へと手を差し伸べた。


「さぁ、礼嗣! 俺と世界をとるぞ!」


 その答えに、神崎は熱く、高ぶった気持ちを、


「え? なんで?」


 ぶつけたりはせず、妙な温度差が生まれるのだった。


 部屋に入るタイミングを逃し、一部始終をドアの前で聞いていたティグレは、一つ大きな疑問を持った。

(いくら、大きな代償を払ったとは言え、見返りがデカすぎないか?)

 しかし、この疑問をルークたちに言うつもりは毛頭無いようで、もう少し様子を見ようと決めたのだった。


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