神崎礼嗣、彼は知る 前編
街の外に兵士たちが集まり始めたが、今年は例年とは魔物の量も質も違った。
いつもは森側に作られた南側の門での戦いが主だったが、今年は四方全ての門に魔物が集まり街の中に侵入しようとしている。
北側の門には、体二、三十メートルはある手足の生えた木の魔物が大群となり押し寄せていた。
木になっているスイカほどの大きさの実の部分には深い皺の入った老人の様な顔が踊っており、複数の顔を持つため、死角からの攻撃が通用しない。
火力系スキルの持ち主を集めているが、次から次にやってきて終わりが見えない。
「くそ、どうなってるんだ今年は」「魔物もデカいのが多くないか?」「お前ら、口を動かしてる暇があるなら手を動かせ!」
北側を守っていた兵士たちの悲痛な叫びが聞こえる。
自分の背後には街に入る門がある。
自分たちが倒れたら、目の前にいる化け物たちの侵入を許すことになるだろう。
街の中に家族がいるものもいる。
死ぬのが怖くないわけではないが、皆、死力を尽くして戦っていた。
「もう駄目だ、突破される」
しかし、死力を尽くそうが勝てない相手はいる。
諦めの声も聞こえ始めたその時、援軍が間に合った。
双頭竜
その援軍のかざした右手から信じられない勢いでうねりを上げた炎が飛び出した。
今までの兵士たちが攻撃で放っていた火がろうそくの火のように感じられるほどの火力だ。
その炎は木の魔物たちを包み込み焼き上げていく。
「大丈夫ですか?」
炎を放った援軍の一人が兵士たちに声をかける。
そして、その声かけをきっかけに百人近い兵士たちの間で歓声が上がる。
「神崎様だ!」「すげぇ援軍が来てくださったぞ!」「もう、これで北門は安心だ!」「見て見ろよ、木林の(ト)長老の奴らが一瞬で半焼したぞ!」
最初の一撃で神崎が全て持っていってしまい、居心地が悪そうな援軍たちも仕事が少ないに越したことはないので「相変わらず凄いな」と苦笑いを浮かべるだけだ。
しかし、ストレートに不満を言うものもいた。
「セブンズの一人であるニニちゃんも来てるのになぁ」
髪の上半分が赤く、下半分の青い奇抜な髪色の少女の様な見た目の人物が残念そうにつぶやいた。
セブンズはそれぞれの門に三人、三人、そして防衛団長のアシュバルが一人、残りのセブンズのニニと神崎の四組に分かれて援軍にくる形となった。
ニニの服装はニットのセーターに萌え袖をして、長いセーターなので太ももの辺りまで隠れており、はいてないように見える。
そんな衣服の彼女は戦いの前線では違和感でしかなかった。
「ニニ、出番を奪っちゃってごめんよ」
「まぁ、謝るなら許してあげるんだぁい」
そう言うと、彼女は燃えカスとなった木林の(ト)長老と呼ばれた木の魔物を片手で持ち上げた。
体長にして二、三十メートルはくだらない化け物だ、それを細腕のニニが軽々持ち上げている映像はこれまた違和感しかない。
「ゴミは有効利用だぁい」
彼女は持ち上げた燃えカスの木林の(ト)長老を神崎を見て動きを止めた生き残りの方に投げつけた。
木林の(ト)長老の生き残りは、二体、三体とドミノ倒しのように倒れていく。
「ほら、ニニちゃんが動きを止めててあげるから、火力系のスキル持ちは今の内に燃やしてね。街に飛び火しないように気をつけなきゃ駄目だぞぉ」
そう兵に指示を与えると、自分は次々と倒れた木林の(ト)長老を生き残りに投げつけた。
「ここは神崎ちゃんがいるからイージーモードだねぇい。他はどうかなぁ」
「僕もニニのおかげで楽させてもらってるよ、早くここを片付けて他に向かおう」
三十体近くいた木林の(ト)長老は次々と二人の猛者によって薙ぎ払われていった。
『そうは問屋のおろし金』
謎の声の後に、目の前の土が盛り上がっていく。
神崎やニニはすぐさま回避をするが、逃げ遅れた兵士たちがそのまま地面の裂け目の飲み込まれていった。
土の中から現れたのは、全身に鱗のある蛇の様な魔物。
そして、水かきの見える鋭い爪を持った手が無数についている。
体長にして五十メートルぐらいはある。
ぎょろぎょろと動く瞳が不気味で、睨まれたものの動きを止めるであろう。
「おっ、おい、あれって」「な、なんでだよ、こんなとこにいる魔物じゃないだろ」「あぁ、これ死んだわ」
神崎は事態が把握できずに、隣のニニに目をやった。
彼女も先ほどまでの余裕を失っており、歯噛みしている。
「……蟲大蛇、あれは人間が手に負えるレベルじゃないねぇい」




