双丘、目の前に見えるもの
前日に酒を浴びるように飲まされたせいか、ルークはその日の朝は起きるのが辛かった。
昼からは、例のトリニティが大量に採掘される村とやらにバレッタと出向かなくてはならないので、早く身体から酒を抜かなくてはいけない。
ゆっくりと頭痛のする頭を起こすと、そこはルークたちに一人ずつ割り当てられた来客用の個室だった。
ルークは成人でも五人ぐらいなら優に寝られそうな広い天蓋付きのベッドに寝ていた。
昨日、ラブジルの王に絡まれ、アホみたいに酒につき合わされたところまでは憶えているが、その先が思い出せない。
思い出そうと頭を使うと、ズキリと痛む。
「水が欲しいな」
ルークは独り言を呟き、ベッドから降りようとした。
「はい、水」
「あぁ、ありがとう……ん?」
ルークは一人であるはずの個室で自然に水の入ったコップを差し出され、違和感を感じる。
それも、ベッドの布団の中からだ。
バッと布団をめくると、そこには全裸の強華がいた。
艶やかな金髪はところどころ跳ねまわり、大きな胸はゆったりとし重力に負けずに戦っている。腰骨から足のラインまでは芸術品そのもので白いを通り越して、透明感すらあった。
あまり見つめていると、ルークの身体に悪そうだ。
「おはよう、ルーク」
「何故、こんなところにいるんだ」
「ルーク、無防備、無自覚、ワタシが護衛する必要がある。それがワタシの役目」
「いや、だから何でベッドの中なんだ」
「出来るだけ至近距離にいた方がいい」
「全裸については説明は?」
「それはない」
「ないのかよ!」
「強いて言うなら、ワタシが最も寝やすい恰好」
「……見張りが寝ちゃ駄目だろ」
これ以上の問答は無駄と判断し、ルークは強華から水の入ったコップを受け取る。
これもどこから出て来たか不明だが、気にしたら負けだと思った。
強華がルークに尋ねる。
「今日の予定は?」
「例のトリニティが大量に取れるって村に行って、村長と交渉ごとをしに行く、バレッタの話だと、その村の代わりにもっと大きくて立地も都に近いところに衣食住揃えて用意してるらしい、移動が面倒だが、そこまで大変な仕事じゃない」
「そう、二人で行くの?」
「ラブジル王はそうさせたいみたいだな。新婚旅行の予行演習とでも思ってやがる。正確には移動の際の運転手と二十ぐらいの兵士は連れていくみたいだが、全体で三十人ぐらいの女子供の村だ。これでも多すぎるぐらいだ」
「油断は駄目」
「あぁ、分かってるよ」
水を飲んで多少すっきりした頭でルークは、顔を洗いに部屋を出た。
トリニティ、それさえ確保してしまえば、銃器の大量生産の目途もついてくる。
全体は無理でも、自分の身辺の兵だけでも武装できるのは大きいだろう。
食堂に顔を出すと、先にティグレとバレッタが来ていた。
リールとジャッカルは背筋を正し、バレッタの少し後ろに立っていた。
「おはようさん、マイダーリン」
相変わらず真っ赤な服装のバレッタは、朝はタンクトップだった。
それなりに大きいバレッタの胸にルークは若干目のやり場に困る。
ティグレは昨日と服装が変わっていない事から、いつものものぐささを感じる。
ルークと強華もテーブルにつくと、給仕が朝食を運んでくる。
「シグレさんとラブジル王は?」
「二人とも二日酔いだ」
ティグレが呆れたように答える。
ルークは昨日の二人の飲酒量を思い出し、仕方ないかと納得する。
「昼前には出るぜ、少し遠いからな」
「あぁ」
ルークは目の前に出された食事に手を付けると、これからの方針を考えなくてはと、思案する。
現在防衛に回しているセブンズを、どのタイミングで攻めに回すか。
今回の件でラブジルと完全に手を組んだことで、人族の今までトップに君臨してきたメアリカ、華中、アシロと四すくみ状態にまで持って行けた、ならば次にこの三つのうちどこから攻略すべきか。
他の魔族との戦い方、交渉方法。
魔王の正確な力量の調査。
これらを可能にする軍の強化。
やることは山積みだが、山程度に収まりだしたことにルークは喜びを感じていた。
只の田舎の小僧が世界を手に入れたいと願望を抱いたのだ。
それは空の上の夢想、それが今地上にまで降りてきて山で収まっている。
にやけずにはいられない。
バレッタは不思議そうにルークの顔を見た。
「何笑ってんだ?」
「いや、何でもない」
ルークはにやける顔を正して、バレッタに昼までの時間の相談をした。
「そうだ、出来ればこの都を見て回りたいんだが、案内してもらえないか?」
「私が? 別にいいぜ」
その言葉を聞いて、ティグレが少し表情を変え、ジャッカルが割って入った。
「ルーク様、観光案内なら私が」
「おい、ジャッカル、私たちの間に横入りとは感心しないな。お前、男が好きだったのか?」
「……いえ、バレッタ様がよろしいのなら、構わないのですが」
ジャッカルの含みのある反応が気になったが、ルークの前に食べかけの赤いサラダの入った皿が移動してきて、そちらに意識が移ってしまった。
「ルーク、これ辛い」
「強華、またか、これぐらい我慢しろ」
「無理」
「あぁ、もう仕方ないな」
「うちの国は夜が冷えるからな、全体的に味付けが辛めなんだよ」
バレッタが強華をフォローした。
こうして少し不審に思いつつも、午前中はバレッタと都を観光することになった。




