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第四話 ラッキースケベ、再び

 しばらくすると、二人が帰ってきたのか、玄関の方で物音がした。


「ただいまー」


 リオンは両手いっぱいの紙袋を持った神崎を引き連れて帰ってきた。


「それ、全部服か?」


「そうよ、何かと入用でしょ?」


 しれっと言ってのけるリオンの隣には、既に町で買った服に着替え、げっそりとしていた神崎がいた。


「……着せ替え人形になった気分だよ」


 その神崎をリオンが睨みつける。


「は? 何? なんか文句あるの、パイ揉み男」


「……ありません」


 その様子に、ルークは少し違和感を覚えた。


「随分、仲良くなったんだな」


 リオンと神崎は、その言葉に同時に噛みつく。


「「どこが‼」」


 傍目には、息ぴったりである。

 ルークは、そんな事は些末なことかと思い、神崎に対する他に気になっていることを片付けることにした。


「それより、神崎……」


「礼嗣でいいよ」


「なら、礼嗣、買い物疲れしてるとこ悪いんだが、早速お前の実力を見せてくれないか?」


 ルークは自分の光の失った片目を抑えた。

 自分の片目を失ってまで、呼んだ男の実力が早く知りたいのは至極当然だ。


「オッケー、ここでいいの?」


「いや、庭に出よう」


 ルークが促し、四人は庭に出ていった。


 


 庭とは言うものの、ようはルークの家の外で、特に敷居などがしてるわけでもない原っぱだ。

 町はずれのルークの家の周りには他に家がなく、そこを庭と呼んでいるだけだった。


「礼嗣、因みに、お前向こうの世界じゃ、どの位強かったんだ?」


 茶道部(半幽霊部員)だった神崎は、急に強さとか言われても、みたいな顔をした。


「うーん、学校の体力測定だと、男子百人中四十位だったよ」


 ルークは、この世界の学校基準(ある程度、選ばれたスキル持ちか、金のある貴族の子供が入るところ)で考え、答え合わせのように聞き返した。


「それだと、木々を四、五本素手で薙ぎ倒せる程度か? 召喚してまで手に入れる力でもないな」


 慌てて、神崎は両手を一杯に振って否定する。


「いやいや、そんな事できないから」


「おいおい、それ以下ってのは、戦力としても怪しいぞ? 向こうの世界では、どのクラスの魔物を狩っていたんだ?」


「いやいや、向こうの世界に魔物なんていないから」


「生き物は、人間だけなのか?」


「いや、動物がいっぱいいるけどね」


「例えば?」


「鼻の長い象とか」


「あぁ、ガネーシャか、奴らは武器を使う知能もあるし、腕も四本あるから、複数で囲まないときついよな」


「いや、そんな神様みたいな名前の奴じゃないんだけどね。あっ、キリンとかは知ってる?」


「知っているぞ、麒麟だろ? 空を駆けて、俺みたいに遠距離の攻撃方法がない奴にとっては天敵だ」


「うん、もういいや」


「なんだ、結構、そっちの世界にも魔物がいるじゃないか」


 分かり合うのは、無理そうだった。


「まぁ、いいか。取り敢えず、体術がどの程度か見たいから、リオンと組み手をやってみてくれないか?」


 リオンは少し面倒臭そうな顔をする。


「ルークが自分でやればいいじゃない?」


「俺は、右目を失ったばかりで、距離感がまだ掴めん。それに体術ならお前の方が上だろ」


 リオンは、ルークの右目を見て、得心がいく。


「あっ、そっか」


 リオンは一歩前に出て、神崎を呼ぶ。


「取り敢えず、異世界から来た実力を見せて貰うよ」


 神崎は、少し困り顔をしながら、ブツブツと呟く。


「……ここは、お約束の身体能力強化だよな? いや、されてないパターンも結構あるし、されてなかったらヤバいかも」


 リオンは特に開始の合図も告げずに駆けだす。


「なに、ごちゃごちゃ言ってんの!」


 一瞬で、距離を詰め、右拳を神崎の頭にめがけて振り下ろした。


「うわ、やばいって」


 神崎は、必死にそれをバックステップで躱す。

 その動作に、ルークとティグレは目を細める。


「ほう」


 リオンは、続けざまに右肘打ち、左フック、左ローキックと繰り出すが、神崎はそれを紙一重で躱す。


「へぇー、結構やるじゃない」


「身体能力強化されてる系転生みたいで、助かったよ」


「そろそろ、攻撃してきてもいいのよ」


「生憎、女の子を攻撃する拳を持ち合わせていなくてね」


 これは、神崎のはったりだった。

 単純に、身体能力は強化されていたが、別に武術の心得があるわけではなく、喧嘩もろくにしたことがない神崎は攻撃の種類を大して知らないのだ。

 下手な素人パンチやキックが、逆に利用され、格好のカウンターチャンスに変えられてしまうことぐらい、リオンの動きを見ていればわかった。

 だが、そのはったりが悪手だった。


「ふーん、私を女の子扱いとか、余裕じゃない」


 リオンの纏う雰囲気が、一段階重いものになる。

 リオンが攻撃を再開する。


「―せいっ!」


 神崎は、リオンのスピードが増したように感じた。

 正確には、スピードが増したというよりも、フェイントや細かいステップを入れることで、視界に捉えにくくしているのだが、神崎にはそこまでは分からない。

 流石に、本気のリオンを交わし続けることは難しくなり、手や足でガードする場面が多くなってくる。

 ルークは、そろそろ止めた方がいいかと思い、声を掛ける。


「おい、リオン、そろそろ……」


 熱くなったリオンは、ルークの言葉が耳に入ってこない様で、最早、女性らしさを失った咆哮を上げながら、殺意のこもった一撃を食らわせまくる。


「どらぁぁぁぁ‼」


 基本的に彼女は脳筋だった。

 ルークはどうしたものかなと、頭を描く。

 神崎は、何とか、その攻撃に耐えながら、隙を探していた。


(なんとか、関節技で、無効化しないと)


 関節技など、大して知らないが、必死で体育の授業で習った柔道を思い出しだしているところだった。


(―今だ!)


 神崎は、リオンの拳の引き際を狙って、距離を詰める。

 神崎は、両手を伸ばし、リオンの両肩を掴みにかかる。


―プニッ


 リオンの洗練された双丘を掴んでしまった。

 ラッキースケベ。

 堪らずリオンはゼロ距離で渾身のアッパーを神崎の顎にめり込ませた。


「何すんのよ‼」

 

 その一撃は、神崎の意識を刈り取るには十分な一撃だった


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