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モテモテ、それは同性の嫉妬 後編

 やはりと言うか、初めに動いたのはナナキ。

 早く勝負を決めようと待ち切れずといった具合だ。


 しかし、実力者であることに違いはなく、こんな時に大振りになったりせず、小さく回転の速い一撃を繰り出していく。


 バルコスは避けるまでの技術を持たず、なんとか木刀で防ぐので精一杯だ。


 しかし、その様子を見て神崎は感心をする。

 神崎もよく修練場に足を運ぶため、いつも修練場にいるバルコスの大体の実力は理解しているつもりだった。

 新兵の中では動ける方、その程度の認識だった。


 そのイメージや少し前の訓練風景を見ていれば、今のナナキの攻撃もいくらか被弾していてもおかしくはなかった。

 それをなんとか防ぎきっていることに感心したのだ。


「へえ、バルコスくん、僕に挑んでくるだけあって腕を上げたようだね」

「恐れ入ります」


 そのことはナナキも感じたようで、上から目線の賞賛を送る。

 神崎が一番にバルコスの成長部分として感じたのは動きだ。

 以前より身軽でしなやかさが見て取れる。

 ナナキの細かく速い攻撃を完全に避けることは出来なくとも、受けきった後にすぐさま自分の攻撃につなげようとする修敏性がある。


 ナナキも攻撃し辛そうにし始めた。


 ナナキはその動きを封じようと、足元に攻撃の中心を移した。


 木刀による連撃で動きを止め、足を使いローキックを繰り出す。

 バルコスはこれを避けずに足で受けるも僅かにバランスを崩した。

 それをナナキは見逃さずに木刀を肩にめがけて振るう。


「ぐっ」


 バルコスの鈍い声が上がる。

 この勝負で初めてまともに入った攻撃だ。

 ナナキは次々と追撃を加える。


 ナナキはその上で自分に挑んだバルコスに言葉を加える。


「確かに君のスキルによる緩急をつけた動きの読みにくい剣術は素晴らしい。スピードに波があり、コンマ何秒の世界ではそれが命取りだ。しかし、悲しいんかな手札を知っている身内では何の意味も持たない」


 そう、ナナキはまだ使用していないが、バルコスはすでにスキルを使いながら戦っていた。


【能力名】

 変幻(チェンジ)自在(アップ)

【LEVEL】

 LEVEL4

 ~次のLEVELまで、対人戦闘時間、百時間が必要。

【スキル詳細】

 自身又は自身の触れている対象の一つの速度を変化させる。

 元の速度の1・2倍もしくは0・8倍に変化可能。

 ただし、連続の使用は体にかかる負荷も変化させた倍率になる。

(例)

 木刀を一回振るのに体への負荷が十必要とすると、使用時は十二になる。


 バルコスは、このスキルを自身の武器に使用するスタイルを磨いてきた。

 それは一対一の敵に対してかなり有効ではあるものの、ある程度の実力者なら種さえ分かってしまえば、多少の苦戦はするものの、どうってことのないものになってしまう。

 ナナキも直ぐに対応をし、今に至る。


「まっ、まだです」


 バルコスは体に痣を作りながらも、立ち上がる。

 ナナキは優越感に浸りながら述べた。


「やめておいた方がいい。一兵卒とルークさんに選ばれた僕たちセブンズじゃ実力差があって当然だ」


 バルコスは顔を伏せたままらしくない含みのある笑みを作る。


 ルーク様に選ばれた?

 それが自分たちだけだとでも?


 次の瞬間のバルコスの動きにかろうじて目で終えたものは神崎のみだった。


 バルコスはナナキの背後を取り、木刀を振り下ろす。


 これに辛うじて反応するナナキ。


 さっきまでと動きが変わった?

 ナナキは状況を分析する。


 恐らく、バルコスは武器へのスキル使用から自身の体への使用に切り替えたのだろう。

 それはナナキでも分かった。

 しかし、元のスピードがあってのバルコスのスキルだ。

 今のスピードはそれを遥かに凌ぐ。


「舐めるなよ!」


 防戦一方になり始めたナナキは、バルコス相手に使うまでないと思っていたスキルを発動させる。


 ナナキがバルコスの木刀を木刀で受け止めた時、バルコスは違和感を覚える。


「捕まえた」


 ナナキはバルコスの頬に手加減のない拳をフック気味にめり込ませる。

 そのまま木刀を手放しバルコスは後方に倒れる。


 そして、その手放した木刀はナナキの手の中にあった。

 ナナキの手にしていた木刀と刃の部分が重なる形でだ。


【能力名】

 溶接(ヒョウリュウ)加工(サッカ)

【LEVEL】

 LEVEL7

 ~次のLEVELまで、千十二着の衣服の裁縫が必要。

【スキル詳細】

 目視範囲内で無機物二点を継ぎ目なく元からそうであったように接合する。

 効果は使用後も永続的に反映される。

 解除は本人の意思により自由。

 ただし、使用時は目を閉じなければならない。


「何をしたのかはよく分からなかったが、大したものだ。危うく僕の顔に傷がつくところだったよ」


 種は分からないが、最早バルコスのスピードはナナキの目で追うのは難しくなった。

 しかし、ナナキのスキルを駆使すればバルコスの動きを封じることも、今やったように武器を取り上げるのも難しくない。


「君のこの通りだ。負けを認めてくれるね?」


 ナナキは手に持った自身の木刀とクロスするように接着したバルコスの木刀を見せつける。


「まだ、この拳があります」


 バルコスはナナキの言葉を受け入れず、ナナキに向かっていく。


「ここまで聞き分けのない奴だったかな」


 ナナキはため息をつき、木刀に使用したスキルを解除。

 二刀流の構えでバルコスを迎え撃つ。


 ナナキは足元を見ていた。

 そして、目を閉じた。


 次の瞬間に目の前に現れたのは、靴と修練場の床が貼り付けられ身動きの取れなくなったバルコスだ。


「終わりだ」


 ナナキが動けないバルコスにやや大きく木刀を振りかぶる。


―ベリベリ


 その音を聞いた時には、目の前からバルコスは消えていた。

 

 ただ、破れた靴底だけを残して。


 ナナキが慌てて天井を見ると、目を剥きナナキに拳を重力任せで突き立てるバルコス。


 ナナキはここで初めて敗北を予感した。


「そこまでだぁい」


 二人の間に割って入る者がいた。

 バルコスの拳を掴み、そのまま空中に浮かせる。


「……ニニ」

「ナナキん、ルークさんに貰った称号に泥を付けるなら今すぐ返上してほしいんだぁ」


 割って入ったのは、セブンズが一人、ニニ。

 髪の上部は赤く、下部は青い妙な髪色をしていて歩くだけで目立つ女だ。

 ススイ国を滅ぼした際、最高幹部の一人だった彼女をルークが引き抜いた形でセブンズに就任した。


 ニニは空中で遊ばせたバルコスを地面に下し、勝負を仕切る。


「この勝負、セブンズが一人ニニちゃんが預かるんだぁ」


 神崎はあっけに取られてしばらく声が出なかったが、ここでようやく落ち着き、止めに入ったニニに礼を言う。


「ニニ、助かったよ。僕も止めに入ろうかと思ってたんだけど、タイミングを逃しちゃって」

「いいのだ、いいのだ。神崎ちゃんも面倒に巻き込まれて災難ちゃんだったぁね」


 ニニは笑顔で神崎の礼に応じる。


「ナナキん、今日はもう帰った方がいいんじゃなぁい? なんか、今日は体調が悪そうだよ?」

「え? あぁ」

「私が送ったげるよぉ」


 ニニは、そのままナナキを連れて修練場を後にしてしまった。


 神崎は放心状態のバルコスに声を掛ける。


「バルコス、驚いたよ。強くなったんだね」

「……いえ、ナナキ様も手加減為されてましたから。実践ならナナキ様は、もう一つのスキルを使われたでしょうし。今回は殺傷性が高いため回避したんでしょうね」

「ナナキ君は、ああ見えてセブンズの中では常識がある方だからね」


 神崎はバルコスの急激な成長に驚きながらも、ナナキとの戦いを回避できたことに胸を撫で下ろしていた。


「ん? このビー玉みたいなのは何だろう?」


 神崎は修練場の床に落ちた透明なガラス球を見つけた。

 それを拾ってみてもやっぱりただのガラス玉であった。


「ニニのかな」


 先ほどまで目に入らなかったものなので、神崎はそう推測した。

 こんな遊び道具を持ち歩いているのかと、苦笑する。

 そして、非常識なメンバーの集まりであるセブンズを思い浮かべさらに苦笑いを深くした。




 ナナキを連れてニニは修練場から城に続く長い屋外廊下を歩いていた。


「ナナキんさぁ、いい加減にしなよぉ。神崎ちゃんは仕方ないとしても一兵卒に不覚を取るんなら、今後は君の席はないかもよぉ」


 ニニはナナキの脇腹に拳をぐりぐりと捻りながら沈ませる。


「お前がどこから見ていたか知らないが、奴はどう考えても一兵卒の戦闘能力を上回っていただろ」

「そうかなぁ」

「あぁ、お前が止めなければ、俺は反射的に殺しにかかっていた」

「おぉ、怖ぁい。ナナキんの毒は、惨いからねぇ」


 二人は城の中に入ると、一階にある会議室の前にきた。

 

「なんかぁ、そろそろやばい時期みたいだから、張り切っていこお」

「ふん、偉そうにしないでくれ」


 そして、二人は会議室の中に消えていった。




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