モテモテ、それは同性の嫉妬 前編
ルークの突然の結婚宣言に腹を立てたリオンと一緒にいては殺されると判断した神崎は城のはずれにある修練場に向かっていた。
勿論、鬼仮面をしてだ。
「あっ、神崎様、こんにちは」
「やあ、シエル」
城内にいた髪をサイドに一つに束ねたメイドに挨拶をされる神崎。
「今日もマスクが素敵ですね」
「ありがとう、シエルもそのメイド服可愛いね」
「あっ、気が付きました? 実はフリルは特別製なんです」
シエルと呼ばれたメイドは嬉しそうにターンする。
すると、そこに別の人影がやってきて、
「あっ、神崎様だ!」「神崎様、一緒にお茶しませんか?」「いえ、わたくしと」「メイドたちは仕事をしなさい、神崎様とは私がお茶します」
鬼の仮面をした不審者は今日もモテモテだ。
普通に考えて、そんな不審者はいくら身内と分かっていても気味悪がられる。
現に城内の男性兵士や執事には神崎がいくらフレンドリーに話し掛けても、距離を置かれている。
当然、我儘放題の効果である。
発動せずとも、副作用的に漏れ出る効果で、神崎が女性に嫌悪を抱かれることはまずない。
ルークはそれを見かけるたびに舌打ちをしている。
「おやおや、神崎さん、今日もモテモテですね」
そして、舌打ちをしているのは、ルークだけではなかった。
「……ナナキ君」
彼の名前はナナキ。
ホイホイ防衛部隊の要、セブンズの一人だ。
そもそも、ホイホイ国内の守りは防衛団長のアシュバルと言う男が担っていた。
アシュバルは、元ホンニ、つまりルークたちの母国で騎士団長だった男だ。その称号はホンニ国の最高戦力を意味する。
ホイホイになる際、攻めはルークに、守りはアシュバルに全権を置く形になった。
まぁ、ニアリスを傀儡にしているルークたちにここでの上下はあまり意味をなさないが。
ホイホイが大国になるにつれて、守りの強化にとルークがアシュバルに提案したのが、セブンズだ。
セブンズは文字通り七人の人間で構成されている。
しかし、その七人は只の七人ではない。
ルークたちが小国を潰して回った『快心連戦』の際にスカウトしてきた各小国のエースたちだ。
勿論、断ったものは殺されたが、小国と言えども、その国で一、二位を争う程の実力者たちだ。
恐ろしい戦力なのは言うまでもない。
今は防衛に回っているが、いずれ大きな戦いの際、遊撃にも駆り出されるだろう。
ナナキは色素の薄い金髪をオールバックにした風貌をしている。
細身の優男のようだが、実力はセブンス内でもピカイチだ。
そして、ナナキはいくつか理由はあるが、神崎をあまり快く思っていない。
「そんなに女性を引き連れて、これからどこに行かれるので?」
「この人達は関係ないよ。これから一人で修練場に向かう予定だったんだ」
「それはそれは、ホイホイ屈しの実力者でありながら、日々鍛錬も怠らないとは素晴らしい」
両手を広げ大袈裟に賞賛するが、ナナキの言葉は棘だらけだ。
「まぁ、ルークに兵士の鍛錬も頼まれてるしね」
「おや、現状僕が修練場の師範代も兼任しているのに、ルークさんにはあまり信用されていないようですね」
「そんなことはないと思うよ」
修練場の師範代とは、簡単に言えば、兵士を強くするために指導する教官みたいな仕事だ。
防衛の要とは言え、現状ホイホイに攻め入る国などほとんどないため、割と暇なのである。
師範代の仕事は、以前はルイが引き受けていたが、バレッタとの戦いで現場復帰が危ぶまれていて、代理としてナナキが任命された。
「まぁ、でも行き先は同じと言うことですね。ご一緒しても?」
「勿論」
セブンズの数名と防衛団長のアシュバルは、神崎の事をあまりよく思っていない。
理由は様々だが、ルークもその事には気が付いていて、出来るだけ仲良くするよう神崎に頼んでいる。
二人しばし無言で修練場まで向かうと、修練場を利用していた数名の者たちから挨拶を受ける。
「神崎様、ナナキ様、こんにちは」
最初に駆け寄ってきたのは、修練場常連のバルコスだ。
ナナキはその挨拶に顔をしかめる。
「おい、バルコスくん、君は今何故、僕よりも先に神崎さんの名を置いて呼んだんだね?」
「え? 他意はありません」
「そうか、まぁ、ならいい」
神経質のなってるなぁと神崎はナナキを見て呆れる。
ナナキは修練場に置かれていた木刀を二本持ち出すと、一本を神崎の方に向ける。
「神崎さん、どうです? 一つ手合せを」
修練場にいた数名が「またか」とざわつく。
神崎とナナキ、この二人が修練場で鉢合わせると、必ずと言っていいほどナナキが神崎に勝負を持ちかける。
今のところ戦績は神崎の八勝無敗、それも完膚なきまでの結果である。
人によって、どのような印象を受けるか分からないが、このナナキと言う男、軽そうな見た目や偉そうな言動に反して、あまり取り繕う様なプライドは持ち合わせていない。
ただ、強いから、地位があるから、実になっている力で偉そうにするのであって、持ってない以上の見栄を張ったりはしない。
今もまさにそうだが、人の目のあるこの場でセブンズ兼師範代代理のナナキが負けることは、面目を考えると、あまりよろしくない。
しかし、ナナキにとってそんなことはどうでもいいのだ。
ただ、気に食わない男が自分より強いのが許せない。
そう考えると、彼はとてもシンプルな人間なのかもしれない。
神崎は少し眉尻を下げ、念のため確認をする。
「……いいの?」
立場のあるナナキを人前で負かしても良いのか?
そう問うた。
しかし、それは受け取り方によっては傲慢でもある。
「余裕ですね、僕は構いません。スキルあり組み手でいきましょう」
無謀、ナナキとの勝負で神崎が底を見せることはないが、それにしても無謀な勝負である。
神崎は流石に実力差に良心を痛めた。
「あっ、あのナナキ様」
神崎がどうやって穏便に負かそうかと考えていると、その戦いに乱入する声があった。
神崎とナナキの二人が振り向くと、その声の主はバルコスだった。
「恐れながら、その組み手の相手、自分ではいけないでしょうか?」
思わぬところからの助け舟に神崎は、しめたと思い、完全に乗っかる。
「うん、バルコス、良い提案だね。僕とナナキ君はいつもやってるし、師範代代理のナナキ君がバルコスを鍛えてあげるのは自然なことだよね」
その提案に理があったからか、ナナキは舌打ちをしながらも納得する。
「……すぐに仕留めます。終わったら神崎さんお相手願いますよ」
神崎はこっそり逃げようかとも思ったが、このままでは巻き込まれたバルコスが、組み手と称してナナキに痛めつけられるのではないかと心配になって来た。
神崎は念のため、釘をさす。
「あくまで組み手だからね?」
「わかってますよ」
口でそうは言っても、ナナキの目は完全に邪魔が入ったことへの苛立ちを隠せていない。
「神崎様、開始の合図をお願いします」
万が一の時は、自分が止めればいいかと、神崎は仕方なく開始の合図と同時に腕を振り下ろす。
「始め!」




