敵はいずこへ、またいずこ
――ホイホイ城下町
「号外でーす! 号外でーす!」
元気な新聞屋が町を行きかう人たちに新聞を配る。
元奴隷だった姉妹イチとニーはそれを受け取り、まだ読み書きが覚束ない妹のニー為にイチがそれを読み上げてあげる。
「ニー、まただよ」
「またなの? やっぱりルーク様凄いねー」
「うん、ここの所、連戦連勝だね」
「イチ姉ちゃん、戦いに勝ったらこの国もどんどん豊かになるんだよね」
「多分、そうだと思うよ」
「ルーク様も頑張ってるみたいだし、ニーたちも頑張ろうね」
「そうだね」
『我が国、最強ルーク軍、また勝利! イタ国に圧勝!』
その号外の見出しはそう書かれていた。
ルークは強華というカードを手に入れたことで、ここ最近はラブジルを下しても消えなかった小さな国を一つずつ丁寧に潰して回っていた。
今、イチとニーの見た号外で潰した国が最後だった。
後は反対派最大の国アシロとその傘下の小国、これを残すだけで、実質ホイホイとアシロの一騎打ち状態にまで来ていた。
そのことで、最初に掲げた無茶な宣言であった税の撤廃で底がつきかけていた財政もかなりのところまで回復した。
何せ、戦争を起こしても元手が恐ろしく安い。
ラブジルからの武器の提供に、神崎と強華による短期決戦での開城のおかげで、食料面でも一週間分もいらない(ほぼ移動時の分)上に怪我人も少なく治療面でかかるコストも最小限だ。
あとは、兵の疲労による駒不足だが、これも潰した小国から兵を無理やり徴収する形でなんとか賄えていた。
あとは勝てば、小国分から好きなだけ財を搾り取れる。
ホイホイは確実に大きな国となり、他の国からのマークも強くなってきていた。
「イチ姉ちゃん、私達もルーク様の為に何か出来ないかな?」
ニーは鼻息荒くイチに詰め寄る。
イチは困り顔でニーをなだめる。
「私達は戦闘面で優れたスキルを持ってるわけじゃないし、自分たちのお仕事を頑張るのが一番だと思うよ」
「でもー」
「ほら、お使いの途中でしょ。早く帰らなくちゃ」
「うん」
この連日の戦争をホイホイ国内では快心連戦と呼んでいた。
連戦連勝、小国を飲み込み着実に大きくなっていく新参国。
これが目につかないはずがない。
しかし、その度に見え隠れする大国ラブジルの存在。
今、人間たちの国の中では張り詰めた空気が場を支配していた。
深い森の中、霧も濃いその中で、その者たちは囁き合う。
会話を始めたのは、語尾がゆったりとした者だ。
「なんだか~、今、好き勝手やってる人間の国があるみたいですよ~」
「単体でも弱いくせに全体の団結力も弱い人間の国のことなどどうでもいい。俺たちは打倒魔王が一番の目的だろうが」
その会話に一番に加わったのが、力強く野太い声の持ち主だった。
「ま~、そうなんですけどね~、何かに利用できないかな~と思って」
呑気な声の持ち主が利己的な提案をする。
しかし、周りには嘲笑されるだけだった。
「人間同士の小競り合いなどどうでもいいでしょう。でも、もしその国に伝説のスキル保持者でもいれば話は別ですけどね」
特に眼鏡をしているわけではないが、していたらクイッとしそうな知性的な声の持ち主が声を発した。
「なんだっけ? 唯一、人間でも魔王に届きうるスキルだっけ? そんなのあるの?」
快活な声の者が天真爛漫そうに疑問を呈した。
「さぁ、私にも詳しい事は。何せ、人間の事なので、あまり興味がわかなくて」
知的声が本当に興味なさそうに言った。
「僕も暇じゃないからね、人間にはあまり興味がわかないなー」
最後に会話に加わったのは、ハスキー声の男か女かも聞き分けづらい者だった。
「そっか~、でもそんなに強い人間がいるなら会ってみたいな~」
のんびり声は思ったより話題が広がらずがっかりした様子だ。
その声森の中で反響し、どんどん小さくなっていく。
そして、声の主たちは霧の中に姿を消した。




