案件ですね、エロスと紋章
強華は城内でリオンが選んだ服を着た後、ルークの参謀室に訪れた。
ルークは、他国の魔族とでも戦える目ぼしいスキル保持者の情報を整理していて、目は資料に落としたままだった。
「ルーク、服ありがとう」
「あぁ……っ!」
ルークは興味薄く返事をした後に強華の方に目をやって驚く。
金色の髪が映えるような黒を基調とした白のフリルの散りばめられた動き易そうな丈の短いドレス。
しかし、どれだけ豪勢な服が存在してたとしても、それは彼女をたてる為の宝石の台座に過ぎないだろう。
そう思わせる美しさが強華にはあった。
彼女の為にあつらえたような美しさにルークは息を呑んだ。
「……何か変?」
「いや、似合っている」
「良かった」
間の空いたことに疑問を持ったのか、強華が首を傾げたが、ルークが素早くフォローする。
出鼻を挫かれ、調子を狂わされたルークだったが、自身が聞きたかった質問を思い出し、強華に尋ねる。
「礼嗣はどうだった?」
「強かった」
「で、お前は倒せそうなのか?」
「わからない。ワタシも全力ではなかったけど、向こうも手加減していた。本来、顔面は急所が集中しているのに神崎は全然攻撃してこなかった」
「ちっ、やっぱり変な甘さは抜けてないか」
しかし、今の話を聞くに二人にとって先ほどの戦いは両者本気ではなかったらしい。
とんでもない話だなとルークは呆れかえった。
しかし、今その二枚はルークの手札だ。
その大切な手札の従順性を確かめておかなくてはならない。
「強華、俺はお前が必要だ。俺が世界を取るまでついてきてくれるか?」
強華は思うところがあったらしく、少し沈黙し話始めた。
「……ワタシは強化型試作機。どれだけ優れていても、あくまで試作機。前にいた世界では、私が完成することで、試作段階を終えた。多分、長くは生きられなかったと思う。そこにルークがこの異世界に呼んでくれた。だから、ワタシは最後までルークについていく」
「……そうか」
強華の前の世界の詳しい事は分からない。
でも、今強華の話した世界の一端だけでも、彼女が過酷な世界にいたことが分かる。
代わりのいる存在、試作機。
ルークはその存在にどこか自身に似た香りを感じた。
ルークは少し感傷に浸るとあることを思い出した。
ルークは右側にしていた眼帯を外すと、光を失ったその右目を強華に見せた。
「そう言えば、強華、お前身体のどこかにこの右目の様な変な模様の紋章はないか?」
「?」
「どうやら、これが俺との契約の証みたいなんだが、神崎の手にもあっただろ?」
「そういえばあった。でも、ワタシの身体には見当たらない」
そう言うと強華は自分の身体をくまなく見回すが発見出来ないようだ。
ルークの方も何分まだ二人目の召喚だし、勝手が分かっていない。
契約の証とは言ったものの、それは一人目の神崎だけだったかもしれないし、そもそも契約の証であると言うのも推測でしかない。
どうやらルークを失望させたのではないかと、強華は眉尻を下げ、不安そうな顔をする。
「……ルーク、ワタシやっぱり役に立たない?」
「いや、別にないならないでも特に困らないからいいんだけどな。只の確認だ」
強華は「あっ」と言うと、ルークに背中を向けた。
ルークは何をやっているんだ? と疑問顔を作る。
「この服、背中に留め具があるから、脱がして」
「は?」
ルークの口から思わず間抜けな声が漏れた。
「ワタシ、背中の方までは見れない。だから、ルークが見て、もしかしたら背中とかお尻にその紋章が入ってるかも」
「いや、しかしだな」
成程、強華の言い分はもっともだ。
紋章が自身の目の届くところについているとは限らない。
しかし、これを男のルークに確認させるのはどうだろうか。
先ほど、神崎との組み手でびしょ濡れになった時も特に羞恥の表情は見られなかった。
もしかすると、研究の道具として扱われてきた日々でそんなものは培われなかったのかも知れない。
自分から提案しておいて、この流れになってしまうと、まるでルークが強華を罠にはめて裸を見ようといているみたいな妙な罪悪感はあったが、多少足踏みをしてしまったものの、ここで引くルークではない。
「本当にいいんだな?」
「―? 当然」
仕方なく仕方なくルークは、立ち上がり強華に近づく。
強華の服の上からでもわかる艶のある曲線美を描く背中につい生唾を呑む。
ルークとて女性経験がないわけではない。
しかし、強華は美しすぎるのだ。
恐らく国の内外までその美しさが噂になっていた元姫にして現在のホイホイの国王ニアリスにも引けを取らないだろう。
あまりに美しいものは、本当に自分が触れていいのか委縮させる。
まさにそれだった。
ゆっくりとドレスの背中の留め具に触れ、固く結ばれた留め具となっていた紐を引き、強華の腰のあたりまでドレスが開き肌が露出する。
「んっ」
強華が艶めかしい声を出す。
ルークはその声に少し動揺が混じりながら声を掛ける。
「どっ、どうした?」
「大丈夫、少しくすぐったかっただけ」
「そっ、そうか」
ルークは忘れかけていた本来の目的を思い出し、その背中をまじまじと見つめる。
しかし、そこに紋章は見当たらない。
仕方なく、仕方なく、もっとよく観察するために、強華の長く伸びた金髪を手でかき分け、その美しい背中をもっとよく観察する。
「ひゃっ」
「だっ、大丈夫か?」
「うん、ちょっとびっくりしただけ」
「そっ、そうか」
多少罪悪感が強まったものの、理性を保っているうちに早く終わらせようと、仕方なく、仕方なく、まじまじと肩甲骨や中央に入った魅惑的な背骨のラインを観察する。
しかし、見当たらない。
本当に残念ながら見当たらない。
五分ほど観察したが、ルークはその時間を無駄にした。
「ごめん、ルーク」
「いや、気にするな」
「あっ、もしかしたら、脇かも、見てみて」
「いや、そこは自分で確認できるだろ。頑張ってくれ」
ルークは脇フェチだった。
さらに言うなら、脇を開いた時に見えるチラ見えする乳にも弱かった。
つまり、そこにはルークの弱点が詰まっているといっても過言ではない。
なので、流石に理性を保つために、その名誉ある仕事だが勇気をもって辞退した。
この行い一つでも彼の精神力の高さが窺い知れる。
強華は一生懸命手を挙げて、首を曲げ、確認するが残念そうに項垂れた。
「ない、やっぱりお尻かも」
「…………」
ルークは精一杯、日頃世界征服の為に使用する頭をフル稼働させたが、どうやっても自分で自分のお尻を見る方法が見つからない。
幸いにも、ではなく不幸にもこの参謀室に鏡はない。
結論さえ辿り着いてしまえば、もうここであたふたするルークではない。
そして、何故かルークは命令口調になる。
「仕方ない、脱げ」
「はい」
そして、何故か強華も敬語である。
より罪悪感が増し、謎のSッ気が刺激されたが、同時に犯罪臭も半端ではなかった。
散々、犯罪など可愛く思える悪行を犯してきたルークに犯罪臭を感じさせ、罪悪感まで植え付ける強華もやはり只者ではない。
そして、ドレスはお尻を見せるなら、全部脱ぐ必要があった。
例外は存在するかもしれないが、このドレスはその例外にあらず。
肩に僅かにかかった布を下ろし、まるで天から天女が舞い降りてくるようにゆっくりと、そのドレスは地面に落ちていった。
そこに残るのは、白い凝った装飾の入ったパンツ一枚の強華である。
「さっきは気付なかったが、ブラはしてないんだな」
「これはしちゃ駄目なドレス。それにワタシのサイズは、城の中に置いてなかったので明日リオンと城下町に買いに行く予定だった」
「そうか」
その会話をしてしまえば、そこに視線が行き着くのは、自明の理、自然の摂理、世の法則。
その背中越しでもわかる規格外の二つの山は全ての人間の目を釘付けにしてしまうだろう。
そのせいで思考を奪われ、半分、上の空になりつつも目的を忘れない芯の強さがあるルークは、言わなくてはならなかった。
「パンツも下ろせ」
「はい」
また、何故か敬語である。
強華は腰を下ろし、その一枚の布は脚線美としか言えない二本の足をゆっくりと降りていく。
降りていくのに、昇っていると表現したくなるような美しい光景だった。
流石にその高名な画家の描いた絵画のような光景に触れるのは躊躇われ、ルークは無自覚にミスを犯してしまう。
「すまん、よく見えんから尻を突き出してくれ」
「うん」
「⁉」
いつも冷静なルークが残酷なまでの明確なミスを犯す。
ワザとではなかった。
ただ、触れずに紋章を確認するために、言った何気ない言葉だ。
だが、赤子から老人まで分かる事だが、尻は突き出した方がエロい。
ルークの理性はがりがりと削られ、ギリギリのところまで追いつめられていた。
戦闘の、世界征服の大事な手札だ。
ここで間違いを起こし、愛想を尽かされては全てが終わる。
仕事だ。
これは仕事、使命、任務だ。
ルークは一般的な男性なら辿り着けない極地に達して、その二つの真っ白な双丘を眺めた。
これを一分以内に収める離れ業をやってのけ、確認を終える。
一分、これが本能を抑えつつ、理性で使命を全うし、尚且つ名残惜しい気持ちに少しの褒美を与えることの出来る限界の時間である。
一秒でも遅れれば、待っているのは社会的死である。
「……どうやら、ないようだ」
「残念、ごめんね」
ルークは強華に服を着るよう急かすと、強華もそれに従い、神の与し純白の身体を衣服に仕舞う。
それが終わり、強華はルークに問うた。
「ワタシ、ルークの為に先ずは何をしたらいい?」
ルークは、強華を見て、深い笑みを作った。
ただし、先ほどまでの出来事があるので、全く決まらない。
「取り敢えず、手土産の準備をしなくてはな」
後日談だが、強華の紋章は長い髪に隠れていて気がつかなかったがうなじに存在した。それを一緒に入浴していたリオンが気が付いた。




