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その力、まさに強い華

 古い演習場で、丸太や古くなった武器などの資材置き場となっていた。

 ここはバルコスたち一般兵が使っている修練場とは違い日頃は利用者がほぼいない。

 そこで今四人は強華にスキルの箱を発動させるコツを説明していた。


「こう、目を閉じて両手に力を集中させる感じわかる?」


 リオンが強華に丁寧に箱の出し方を教えると、強華は一生懸命に目を瞑って「んー、んー」と唸りながらなんとか捻りだそうとしている。

 大人びた体躯を持つ彼女がそんな子供のような仕草をすると変なギャップがあり、ルークたちは思わず顔の表情が緩む。


 しかし、緩んでいたのは初めだけだった。


 三十分、一時間と経っても強華の前にスキルの詳細が入った箱は現れなない。

 三時間経過し、陽が沈みかけた時には皆なんとも言えない表情になった。


「これはルーク以来のポンコツね」


 リオンが指導疲れでかいた額の汗を拭う。

 強華はすっかり落ち込んでいる。


「ルーク、ワタシ役に立たない?」

「いや、まぁ、そんなことはないぞ?」


(この世界でスキル無しの人間なんて役に立たねぇぇぇ!)


 一応、ルークにも気遣いは出来た。

 それと自身の右目を失ってまで得たスキルから召喚した子だ。

 どこか父性のようなものも生まれ少し強華に無意識的に甘くなっている面もあった。

 因みに神崎にはモテるし、チートだし、鼻につくのでそんな感情は生まれなかった。

 駄目な子ほど可愛い理論である。


 しかし、そのスキルの授け親のティグレは辛辣だった。


「なんだ、こんな戦力にならん奴も召喚されたりするんだな。これは他の奴を召喚しても役に立つかは未知数になってきたな」


 その言葉に肩を落とす強華。


「おい、ティグレ、言い過ぎだ」

「どうしたルーク? お前らしくない」


 なんだか、教育方針でぶつかった夫婦みたいな空気が生まれた。

 二人がちょっとした口論になりそうになった時、強華が涙とともに声を絞り出した。


「あの、でもワタシ、スキルなくても強いよ。この場の人全員にも勝てる」


 強華はすらっと伸びた細い指先を丸め拳に変える。

 ルークは強華の顔を立てる為、こっそりとリオンに耳打ちする。


「軽く組み手してやって負けてやれ」

「なんで、私が」

「神崎は危ないし、消去法だ」


 リオンはため息をつきながらも強華の前に立つ。


「まぁ、軽く相手してやるわよ」

「リオン、ありがと。ワタシ頑張る」

「頑張り過ぎて怪我しないでよ」


 リオンは強華の実力を見る為に先手を譲った。

 強華がゆっくりと拳を前に突き出す。


 そして、リオンの斜め後方にあった演習場に置いてあった資材は粉々に吹き飛んだ。


「ごめんなさい、少しずれた」


「「「「は?」」」」


 思わず、間抜けな声を出す四人。

 ルークは強華におずおずと尋ねる。


「えっと、今のは何だ? お前、スキルが使えたのか?」


 強華はルークの質問の意味を正確に把握出来ず、ただ今行った事象の説明だけをする。


「今のは、拳圧。ただ、拳を速く前に突き出しただけ」


「「「「は?」」」」


 今度は四人が言葉の意味を正確に把握出来なくなる。

 その様子を受けて、強華が補足する。


「ワタシたち強化型試作機は暴徒と化した人間を鎮圧するために通常の人間の身体能力よりも高い出力が可能。ワタシは最終ナンバーである為、その中でも安定性、出力ともにトップクラス」

「……つまり、今のはただの通常攻撃の範疇と言う事か?」

「そう、ワタシは試作型の最終テストとして一つの小国を蹴りだけで攻略したこともある」


 ルークは額に汗が伝うと同時に、自然と口角が上がるのを感じた。

(また、当りだ)

 スキルは持たなかった、もしくは今はまだ使えない状態だが、それだけの身体能力はもはや強化系スキルと大差ない。

 いや、常時発動していると考えれば、それを凌ぐ。

 ルークはまた、最高のカードを手に入れた。


「礼嗣、強華と組み手をしてみてくれないか、リオンじゃあ手に余る」

「わかったよ」


 神崎も思うところがあったようで、素直に強華の前に立つ。


「神崎、次の相手?」


 強華は首を傾げながらも拳を構える。

 

 先に仕掛けたのは神崎。

 先ほどの攻撃を見ては、悠長に相手の攻撃を待つわけにもいかない。

 神崎は拳を握り、強華の懐に入ると、アッパー気味に拳を鳩尾目掛けて振るった。

 神崎は転生ボーナスで転生前より格段に身体能力はあがっている。

 あがっているのだが、


「神崎、遅い」


 しかし、その拳を楽々と強華が片手で掴む。

 そして、そのまま神崎を演習場の石壁に投げつける。

 凄い轟音とともに石壁が崩れ、砂埃が上がる。


「ルーク、これで、終わり?」

「いや、まだだ」


 ルークは神崎の化け物的力を知っている。

 この程度では終わらない。


 滋養(マッスル)強壮(・アッパー)


 神崎は己のスキルを使い、自身の身体能力を極限まで上げる。

 そして、先ほどまでとは桁違いのスピードで強華との距離を詰める。


――ボコン


 鈍い音が響く。

 それは神崎が今度こそ強華の鳩尾に一撃を入れた音。

 強華の眉尻が少し下がり、顔が鈍く歪む。

 

 そして、すぐさま強華の反撃が始まる。

 拳と拳の応酬、ルークたちでは目で追う事さえできない。

 しかし、神崎のスキルを持ってさえも徐々に強華に押され始める。

 強華はそのラッシュの中で勝負の決め所を見つけ、地面を強く蹴る。


 強華の周り半径三十メートルぐらいの地面が陥没する。


 体勢を崩した神崎の上に馬乗りになり、トドメの一撃を加えようとする強華。


 双頭(アクア・)(フレイム)


 神崎は強華を跳ね除ける為に強華の体全体を覆う様な水撃を喰らわせる。


「?」


 強華はそれに対応出来ずに、そのまま後方へ吹き飛ばされる。


「ごめん、ただの組み手のつもりだったんだけど」


 神崎は起き上がり、強華に謝罪する。


「別にいい、今のがスキル? 勉強になる」


 強華も起き上がり、神崎にお礼を言った。

 因みに強華の服装はボロ布一枚をワンピースの要領で服のように着ているだけだ。

 色々な不測の事態に皆服を貸すと言う点にまで頭が回らなかった。

 そして、今、神崎の攻撃、水を、体全体に受けた。

 つまり、スケスケである。

 物語の主人公にありがちなラッキースケベとも言い伝えられる。


「すいまっせんでした!」


 神崎は二度目の、先ほどよりも渾身の謝罪をした。


「?」


 強華は自身の状態に特に違和感がないらしく、頭を傾げている。

 リオンは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「なんか、前にもこんなことがあったわね」

「取り敢えず、服だな」


 ティグレが珍しくまともな提案をしたところで、ひとまず城に戻ることになった。



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本作をお読みいただきありがとうございます。
出来れば1ptだけでも評価を戴けると嬉しいです。
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