始めようか
自分は何をしているんだろう。
神崎礼嗣はふと我に返る。ルークを探し、殺し、この世界を平和にする。もはや自分にはそれしか使命が残っていない。
いや、その為だけにこの世界に呼ばれたのだ。
そう自分に言い聞かせ、多くの味方を鼓舞し、ニアリスの右腕となり国を率いた。そして、どこか鈍いところのある神崎でもはっきりとわかる最終局面というやつに直面している。
目の前には玉座に座り、化け物のように巨大で明らかに強者のオーラを纏った「ルー君、ルー君」と叫ぶ女を細切れにしていった新魔王でかつて手も足も出なかった鬼族の鬼々。
背後から扉を開けてやって来たのは自分が思い焦がれ宿敵とし、袂を分かったルーク。それも鬼々に強華とリオンを殺され、新たにスキル「異世界転生」で三人もの異世界人を呼びだした。彼の今の心情は正直神崎には全く読めない。
ルークの後ろにはティグレとヨハネがいるが彼女たちは放心状態でしばらく動けそうにない。とにかく空気は重苦しいばかりだ。
その中で最初に口を開いたのは新魔王鬼々だった。
「一応言っとくけど、お姉ちゃんには最初から当てるつもりがなかった。ルークは神崎と一緒にメインディッシュにするつもりだった。その赤毛だけは何故か紙一重で躱してムカつくけど」
どうやら魔王の間に開口一番に鬼々が浴びせた一撃でルークの仲間の半分を殺したことについて、それは敢えてだと言いたいようだ。
「そうかどうでもいい話をどうもありがとう」
ルークは眼光を見開いたままお礼を口にする。
幼馴染リオンと一番の側近強華を殺されたのだ。
どれだけ自分に言い聞かせてもルークの心は荒々しく波立つ。
それは神崎の知るルークで知らないルークだった。
欲しいものを求め他人を道具か、それ以下としか見ていないルーク。しかし、今のルークの怒りの中には確かにリオンと強華への思いも感じた。
神崎は先ほどまでの鬼々、シオン戦のダメージを確認しながら、これが最後の戦いであることを悟る。
この場にいるルークと鬼々を倒せば世界の大きな脅威は取り除かれる。
人族、そしてニアリスの顔に笑顔が戻るのだ。
神崎はそう信じて自分を奮い立たせる。
「始めようか」




