窓から見ていた向こう側の景色
ルークたちは急いでバレッタとオセロムが交戦している場所へ戻った。
「……これは」
音は止んでいた。
そこにはいくつかの血だまりが出来ており、バレッタの姿もオセロムの姿もなかった。しかし、現場の様子を見るにかなり激しい戦いが行われていたのは考えるまでもなく分かる事だろう。
「どっちの血かしら」
「どちらにせよかなりの深手を負っているですです」
「探すか?」
ティグレがルークに尋ねた。
ルークは逡巡し、最悪の場合を頭に思い浮かべて回答する。
「……いや、先を急ごう」
バレッタを捜索していて、既にバレッタは死んでいて軽症のオセロムと鉢合わせになりその場で戦闘が開始されるなんて展開になれば目も当てられない。
それこそバレッタが無駄死になる。
ドーピングしているとはいえ自力ではオセロムの方が上なのだ。ルークの想像した最悪の想定は可能性の低い話ではない。
「いいのね?」
リオンが念を押す。
バレッタとは長い付き合いではないが、それでもルークを心から慕い付いてきた数少ない人間だ。それをここで切り捨てるのかとリオンは念を押したのだ。
「あの女が逆の立場でもこうしたさ。あの女は俺の思想が好きなだけだ。好きと言うより思想が自分の思想と都合よくマッチしたと言うだけだな。だからこそ、どちらかが足手纏いになれば互いに容赦なく斬り捨てる。言葉は躱さずともそこは絶対の共通認識だ」
ルークはやや言葉多めに、まるで言い訳でもするように吐き捨てた。泳ぐ視線は誰と交差することもない。
また失うのだ。全てを手にするために。
ルークは死ぬなよと気休め程度にバレッタの為に祈り皆と先に進んだ。
静まり返る元戦場は夜中のハイキングのようだった。
生き物はいるのだ。見えないだけだ。でも、道を通り、動くものへ関心がないのか、関わりたくないのか、興味がないのか、もう動く気力もないのか、ルークたちは只真っ直ぐに目的地へ向かっていく。
しばらくすると分厚い丈夫で立派な門が見えてきた。
魔王城の門だ。扉は半分空いている。ルークたちの前に誰が先客がいたのか、それとも罠なのか。彼等には分からない。
ただ進めば確実な死が待っている事だけは分かる。
そこは化け物の巣なのだ。
百%死ぬだろう。
しかし、万が一、億が一、兆が一、零%が何かの拍子でひっくり返ったとしたら、それは世界が変わる瞬間なのだ。
世界が生き残った者へ祝福をもたらし、首を垂れる。
次の世界の支配者だ。
ルークは残った者たちへまるで確認でも取るように目配せを送る。
リオン、ティグレ、強華、アレーニェ、ヨハネ、あれだけいた同志、部下、手足はもうこれだけしかいない。そのたった六人で魔王城に乗り込もうと言うのだ。
まぁ、例え全人類人口全てで乗り込んだところでいくらほどの勝算があると言うのかと言う話ではあるが。
魔王所の門の周りには誰もいない。
今なら進むも引くも自由だ。誰も咎めはしない。
暫し意味のない空白が生まれる。
言葉では進むしかないと言っていたルークも現実として目の前に現れれば、こればかりは躊躇いが生じる。
「見せろよ、ルーク?」
「は?」
ティグレが一歩目を躊躇するルークに言葉をかけた。
「私の見たいものを見せろよ」
ティグレの目的がルークには分からない。
それでもルークは彼女に出会わなければここまで、この舞台まで立つ事すら出来ない片田舎のうだつの上がらない青年のままだっただろう。
ルークはいつものように意地悪そうに口角を釣り上げて笑う。
「お前の見たいものか、そんなものは知ったことではない。俺は進むだけだ」
少しだけ軽くなった足でルークは魔王城へ踏み込んでいく。




