種明かし
「あぁ、貼り付けられた地面を握り潰した」
オセロムの拘束は最早彼女には通用しない。
流石のオセロムもその言葉にはキョトンとし、事実として受け止めるまでに数舜を要した。
「うへへへ、確かにあんたのスキルは多対一でも取りこぼしなく戦える優れものだけどよ、それが一人でも通用しない奴が出てくるとかなり面倒なんじゃねーか?」
バレッタの口先が裂けそうなほど横に広がり、笑みを作る。
心から戦闘を楽しんでいるのだ。
バレッタがオセロムに掴みかかるように拳を振るう。オセロムの背中の傷が彼女の握力のヤバさを思い出させる。
回避、回避、回避。
流石に人類最強と謳われた男だ。スキル頼みのボンクラではなく戦士だ。回避も攻撃も超一流。しかし、それでも彼は回避をし、攻撃されない為に攻撃をし、必要とあれば防御も行わなければならなかった。
バレッタ、一人の為にだ。
それはルークたちのフォローまで手が回らないと言うことだ。
(頼んだぞ)
オセロムがルークたちに注意を向けない為に言葉には出さない。
だが、確かにルークはバレッタに託しトリニティ鉱山に向かった。
ルークはトリニティ鉱山に向かい走る道中リオンとアレーニェに質問に答えろと言わんばかりの圧力を感じる視線を受け取った。
「……で、あれは何なのよ?」
「そうじゃ、バレッタ自身にあそこまで規格外の力はなかったはずじゃ」
「…………はぁ」
ルークは観念し胸ポケットから残りの二つの中身の入った注射器を見せた。
「ドロクの置き土産だ。中身は別に大したものじゃない。アレーニェ、お前なら分かるはずだ」
アレーニェは一瞬キョトンとした顔をし「あぁ」と呟いた。
「可哀想な(ル)兵士、再狂士、呼び方は何でもいいが、亜人やら獣やらの血液を私らに混ぜて人を辞め強制的に力を底上げする手段か。私やバルゴスはもう既にやって居る事じゃな」
「その通りだ。そして、これは本来数週間から長ければ数カ月かけて兵士を調整して作る必要のあった再狂士を一瞬で作れるインスタント版の薬だ。これさえ大量生産出来れば
何度でも俺は最強の軍団を作れたはずだったんだけどな」
「その前に注射出来る兵士が一人もいなくなっちゃうとはね」
「ごほんごほん、あー、だがなこの注射はそれだけじゃない。今までの中でもかなり特選した奴らの血をベースにしているからな。身体に混じる濃度もかなり高くそれでもコントロールが比較的安定している最新式だからな得られる力も今までの数倍だろう」
「ほう、それは興味があるの」
「お前はもう既に既に混血しているだろ」
「ほほ、そうじゃったな」
ルークは注射器に貼り付けられたラベルを確認する。
「バレッタが盗んだのは『タイプ・アリゲタ』こいつは四老獣でもないのにそれに匹敵する幹部クラスの獣族だった。強靭な顎で何でも噛み砕き、固い皮膚で自身を守る」
「ワタシ、覚えてる。かなり強かった」
「あぁ、確かトドメは強華がさしてくれたな。そいつの血肉をベースとして使っている。時間が経てば経つほど身体に馴染み力を引き出せるはずだ。悪運の強いことにかなりバレッタのスキルとも相性が良さそうだしな」
「明らかに握力の強化のスキルの威力が上がって居ったの」
「ベースが獣族に近付いているからな。バレッタのあのスキルは肉体の能力に依存する」
「それは面白いことになりそうじゃわい」
「もしかして倒したりして」
皆はルークからバレッタの強くなったからくりを聞き出し納得の言葉と安堵の表情を作った。これであの人類最強の男オセロムの前に一人残してきても簡単に死ぬことはないだろう。そんな安堵だ。
「ふん、戦場では安易な希望的観測はやめておけよ。常に最悪を想定するもんだ」
ルークは皆の気の緩みに喝を入れ、足を止める。
そこはフェンスで区画整理された厳重そうなゾーン。
「ついたぞ」
足を止めたルーク一行は小さな山を見上げる。
「トリニティ鉱山だ」




