景色反転
―三層のある丘の上
二層の戦況を見渡せる場所にチェスマンとドラゴは移動していた。
二人は優雅に野趣あふれるハクア茶の入ったティーカップをすする。
「文字通り捨て駒だね」
「そう、ポーンはジェントルな私の好きなタイミング、もしくは死ぬと自動的に自爆するのですよ」
「慌ててやっただけあってこの国の七割はチェスマンとの契約を交わしてポーン化させてあるしね。これで大分敵も殲滅できるでしょ」
「ジェントルな私にもっと力があれば一般の兵士も民もナイトやビショップみたいな高い役職に就けて大幅強化と行きたかったんですが、あれは数に制限があります。ポーンだけは無制限なんですがね」
「仕方ないよ。尊い犠牲になってもらおう。ルークを手に入れて、ついでに亜人も人も殲滅できれば上出来でしょ」
ドラゴはバスケットに入っているクッキーをつまみ「にしても」と続けた。
「怖いよね。チェスマンの契約。オオカとライオ以外は無意識に契約させられたでしょ」
「かなり面倒ではありますけどね。今回の様にキング、あなたのような地位にいるものが味方にいればそう難しくはないですね」
「➀一緒に食事をすること②食後二十四時間経過するまで契約主と従者は一定の距離を共にすること、この時間が経過するまでは仮契約とする。だっけ、懐かしいなぁ。僕の頃より時間は短くなったんだね」
ドラゴは大きな戦の前の景気づけにと大広場に多くの国民を呼びだし飲みや食いやの大騒ぎをした一昨日のことを口にする。
「ふふ、ジェントルは常に進化するものです」
チェスマンは昔亜人族の中で稀代の天才と呼ばれあるマジックの完成に情熱を燃やした。それは三大禁忌の一つ、支配従属。
チェスマンのマジックの本質は友好だった。誰とでも仲良くなれる、誰とでも繋がれる争いとは無縁の力。
今の姿からは想像もできないだろうが彼は優しく誰からも愛される青年だったのだ。
しかし、もう一人の稀代の天才と並べられ、プレッシャーと絶対に敵わないという敗北感、屈辱から歪み、その友好は一方的な支配へと形を変えていった。
「ふふふ、この戦争も雑兵はポーン爆弾で簡単に片が付くのでしょうね。後は敵の幹部でもオオカ君とライオ君が始末すればゆっくりとルークでも待ち。最強の家族を構成したジェントルな私の魔王への道は開かれるのです」
「ここまで長かったんでしょ」
「なんのなんの今までの苦労なんて目標達成が目の前まで来れば忘れてしまいそうな程度のものですよ」
チェスマンはティーカップの中身をぐっと飲み干した。
「もはや恐れるものは何もありません! 魔王でも何でもドーンとこいですよ」
―ドーン‼‼‼
ハクアの森が形を変えるほどの衝撃。
それは空から降ってきた。
「あれは‼ なぜ‼ ここに‼」
「うわー、僕実物初めて見たかも」
ハクアの森、二層。
戦のまさに中心とも呼ぶべきその場所に降って来たものとは。
「ねぇ、チェスマン。あれってさ―」
ドラゴは無邪気に質問する。
「―魔王城だよね?」




