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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第五章 破滅と混沌の世界へようこそ
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振り絞った全て

 ドラム缶が内側から破裂したような爆音が辺り一面を支配する。

 多くの者は耳を塞ぎ目を閉じた。 

 しかし、ルークたちはその行く末を見届けなくてはならない。


 外しているはずはない。


 ヨハネの未来視は絶対だ。

 シオンにゴローの最大の一撃がヒットした。

 辺りの地面は風圧だけで爆散し、近くにいたルークたちですら立っていられなかった。砂煙の上がる中、ルークはそれでも目を見開いたままだ。


(確実だ。百パーセント当たったんだ)


 砂煙が徐々に晴れていき、人影が見えてくる。

 影は一つ。身体のサイズは大柄な男。


(ゴローだ)


 ルークが静かに喜びを噛み締め握り拳を握る。

 周りの者たちもその結果を静かに悟り初め、安堵から言葉が漏れ始める。


「流石に奴は化け物だったな」

「……アレでも我が姉だし骨ぐらいは拾ってやるわよ」

「あの化け物だったら即死じゃないだろうな。身柄を確認して止めを刺さなきゃな」


 ルークたちの間に久方ぶりの弛緩した時間が流れた。


(これであの軍勢は俺のものだ。施されたんじゃない、勝ち取ったんだ。もう一度世界を目指せる。そして、神崎たちにも復讐できる)


 ルークの腹の底でふつふつと熱く黒い感情が湧いてきた。

 シオンを倒せばシオンの作った混合種やあぶれ者たちで構成されたこの軍勢はルークの手中に収められる。

 シオンが作った軍勢なのでどの程度の統率が取れるかの不安はあるが、最悪作戦などなくホイホイ、エア、ハクア辺りのどこかの大国に突っ込ませて混戦を起こし、そのうちに大将首を狙うだけでも現状の最底辺の地点から考えればマシなカードを手に入れた方だ。


 煙は晴れ、視界が良好になる。

 そこにはゴローが立っていて、周囲は放射状に地面が抉れ、建物が破損している。


 そして、地面には真っ赤な血液と仰向けに倒れたシオン。


 確信に変わった。

 ルークたちは安堵し、周囲のシオンの軍勢からは深い溜息と嘆きが聞こえる。


「よくやったな、ゴロー」


 ルークが労いの声を掛け、ゴローの元へ駆け寄った。

 しかし、その声にゴローは振り返ることをしない。

 違和感を覚える為に与えられた時間は一瞬だった。


「逃げろ、ルークさん」


 ゴローの絞り出すような声は瞬時にかき消された。


―ボコッ、ボコッ、コポポッ


 まるでオーブンで焼いたパンプキンケーキが膨れ上がるような音がした。次の瞬間、シオンの身体が膨らみゴローはそれに飲み込まれてしまう。

 正確にはシオンの身体の一部。


「右腕から右腕は生えてる⁉」


 シオンの右腕から右腕が生え、それが無数に連なっていく。亜人族の中でも巨人と呼ばれる大型の腕、獣族の毛に覆われた腕、人族の腕、魔物の腕、乱雑、法則性の見えない無数の右腕がシオン本人の身体さえ覆ってしまう程の量現れ、それは一本のとぐろとなりそこに存在した。


「……龍だ」


 誰かが言った。

 そして、周りの者全てがその言葉に納得し心の中で同意した。


 右腕の集合体の先端部分がうねうねと盛り上がるとそこからシオンの上半身から上の部分が現れる。それはさながら龍の頭の部分に身体を据えるコックピットに乗ったパイロットのようにも見える。


「お姉ちゃん強いから死に損なっちゃった」



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