彼女の正体②
―魔王城
来客は絶望した色をしていた。
「ミーの城に来客なんて何十年被りなんだからもっと楽しそうにして欲しいものだね。そうだ、とっておきの紅茶でもだそうか?」
「…………」
「うーん、お気に召さないようだ」
魔王は首を傾げ、魔女王とアイコンタクトを交わす。
魔王は慣れない来客対応に苦戦し無造作に散らかった頭髪をぼりぼりと掻く。
「ミーは腐っても魔王なわけだし勿論君のことも知っている。君は魔王なんて地位には興味がなさそうだったけど……いやミーのことを嫌ってはいそうだったし地位を狙ってと言うより単純に殺しに来ただけかな?」
来客は淀んだ瞳でこう呟いた。
「……ン」
「へ?」
「シオン、あの女のせいだ」
魔王と魔女王はまた目を合わせる。
「全く、ここはお悩み相談室じゃないんだけどな」
魔王はやれやれと息を吐き、徐々に戦闘態勢に入っていく来客に備えた。
足音は静かなものだった。
もうルークたちに緊張は見られない。
「来たね」
数日ぶりに義手等の今できる限りの装備を整え完全な状態となったルークとその後ろにはここまで付き従ってきた者たち。
「奇襲をかけたって良かったんだよ。お姉ちゃんはそんなこときにしないからさ」
「子供の頃お前にかけた奇襲で一度でも上手く行った事があったか?」
「ふふ、確かに」
それまで雑談で時間を潰していたシオンの軍勢は固唾を呑んで彼女らを見守った。
「どうしよっか、アレットに開始の合図でもかけさせようか?」
「いや、必要ない」
「そっか、でもいいの? せめて後ろで休んでる子ぐらい起こしたら?」
シオンはのんびりとルークらの人数を確認する。誰か欠けている様子はない。
(隠れて奇襲をするわけではないのかな?)
「必要ないよ――もう始まっているからな」
シオンの背後から毛むくじゃらの獣が襲ってくる。それは混濁化し、極限まで獣の血を引き出したバルゴスだった。
やや右方向からの攻撃にシオンはそれでもあっさりと右腕でガードする。
「わお、君が一番影が薄いからお姉ちゃん忘れてた」
ルークの後ろで一人ローブを深く被り顔を俯かせている者がいた。それは勿論、ブラフ、案山子だ。
「今だ! バルゴスが右腕を使わせてるうちに!」
ルークたちは的を絞らせないように周囲に散り、シオンを包囲するような形をとる。アレーニェが糸を発射する。ワンコが剣を構える。第二の矢、リオンが突撃する。
勝負開始の合図はルークからだった。
勝負に置いてやはり彼は自分のペースで運ばないと気が済まない。




