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第二十一話 強者と弱者、最後にすがるものは

 ルイがルークに耳打ちをする。


「大将、見てのとおり私の両手はもう剣どころか塩一つまみだって持てねー。そっちはどうだい?」


「あぁ、完全に不意を突かれたからもろに食らったが、手に比べ足の指のリーチは短いからそこまで傷は深くない。が、それでも今まで通りの動きはとてもじゃないが無理だ」


 まともに手足を動かすのも一苦労の二人。

 ならばと、ルークは口を動かす。


「人が悪いな。そんな反則級のスキルがあったなんてな」


 よく見れば、ルークの鞭で初めに付けていた傷も塞がっている。

(俺の初めに付けた傷をすぐに回復させなかったことを見るに、自動回復ではなく、オンオフがはっきりしているもの。つまり、即死系なら死ぬはずだ。だが、俺たちにバレッタが気付く前に出来る即死系の攻撃手段思い当たらない。さっきの心臓への一撃は微妙にずれていたのか?)

 考えれば考えるほど残酷になっていく現実。

 例えばバレッタの頭にルークが弾丸を打ち込むとしよう。

 それは恐らく即死だ。

 しかし、弾丸を打ち込むと言う予備動作を見られれば、その間にバレッタはスキルをオンにするだろう。


(いや、極端な話、バレッタがこの戦闘の時間常時オンに出来れば、もう勝ち目はない。そもそもそうなれば人どころが魔族にだって互角以上に戦えてしまうぞ。恐らく回数だ。少しでも殺しまくって回数を減らすしかない)


「出来るぜ」


「えっ?」


 バレッタの口から出た思考を読んだような言葉に思わず、ルークの口から声が漏れる。


「どうせ、私のスキルは回数制限ありの回復系スキルだとでも思ってるんだろ? いやいや、確かに常時オンだと動きが鈍っちまうが、やろうと思えばできるんだぜ、回数制限なし、常時回復状態にな」


 ルークはゆらゆらと頼りない足取りになりバレッタに近づく。

(糸が切れたか?)

 バレッタはルークの腹を探る為挑発をする。


「常時オンにしないのは、あくまで戦闘のスリルの為さ、試してみるかい?」


 ルークは銃を構える。

 残弾二発。


—パァン


 バレッタは避けなかった。

 その弾丸はバレッタの肩を打ち抜く。

 そして、すぐに血肉が集まり、回復する。


「おいおい、せっかく無抵抗なんだから頭か心臓狙えよ」


—パァン


 今度はバレッタの要望通り頭を打ち抜いた。

 派手にバレッタの上半身は後方に飛び、体が逆くの字に曲がる。

 ルイはルークの背後で薄い可能性と知りながら、手を合わせて、このまま死んでくれと願う。


 頭蓋に開いた穴がゆっくりと塞がっていく。

 ボロボロの二人では追撃を加える間もないほどの時間、数秒で起き上がるバレッタ。


「今のは良かったなぁ、死んだかと思ったよ。で、絶望は足りたかい?」


 つまらない冗談にこの場で笑うものはいない。

 はずだった。

 ルークがぼそりと呟く。


「……時間差はある」


「あ?」


 小さな声にバレッタが苛ついたように聞き返す。


「お前の回復には部位ごとに回復の時間差があるって言ったんだ」


 ルークは最後の頼みの綱の弾丸を使い見抜いた。

 腕と頭では確かに回復の時間差があった。

 それはどこか体の部位までの距離なのか、重要な部位は時間がかかるか、ダメージの大きさか確信はないが見抜いたのだ。


 ルイはその事に頼もしさを感じ、バレッタは不快な顔をする。

(まだ、糸は切れてなかったか)

 ルイはルークの元に怪しい足取りながら近づき声を掛ける。


「すげーじゃねーか。私はてっきり自棄(やけ)になったのかと思ったぜ」


「自棄にはなってないが、自棄にでもならなきゃやってられないぞ。今ので弾は全部使い切った。俺たちにまともな攻撃手段はもうない」


 ルイは静かに青ざめた。

 そう、敵の能力について前進はした。

 しかし、それは死への前進でもある。


(恐らく最初に遭遇した時より動きは鈍い、スキルの発動中だったせいかとも考えたが、俺との戦闘での時間外(オーバー)労働(タイム)が効いているんだ。あの回復スキルは外部の損傷は直せても疲労は無理だったと言う事だ。それなら、殺すことは無理でも俺が後二回触れスキルを発動させれば、疲労で動けなくさせることは可能だ。そして、あと一つ気になってる事がある。どのみち次が最後だ。それが失敗したら俺たちはお陀仏だ)


 ルークはルイに調律師(ハーモニー)を使うようサインを出し、二人は話し始める。


「発動条件がある」


「あの女の回復スキルにか?」


「あぁ、そうだ。あれだけ大きな力に発動条件がないわけがない」


「見当はついてるのか?」


「……仮説や願望の類だが、一応な。だが、その前にどのみち俺のスキルを使って奴を極限まで疲労させないと話にならないぞ」


「まぁ、どうせこのままじゃ死ぬんだ。やることやるだけだろ」


「なら、作戦を伝える――」


 二人の会話が終わった。

 二人の目には覚悟が窺えた。


「あれ、こりゃダメな目かな」


 バレッタは二人を面白そうに笑う。

 何せ、負ける理由がない。

 

 この場で最初に動き出したのは一番重症のルイだった。

 バレッタの方へ力なく駆けていくルイ。


「また、その子を先頭にして不意打ちかい?」


 バレッタは構えるが、ルイの両手の骨はすでに砕け、まともに動かせない。

 距離を詰めると、ローキックを入れようとするルイ。

 しかし、足技で攻めてくることは想定内のバレッタには当たらない。

 ルイは数ある足技の内ローキックだけを愚直に繰り出す。


(何がしたい?)


 バレッタは攻撃に加わってないルークに目をやる。

 鞭を構え、なにかを窺っている。


 そして、バレッタがルイのローキックに慣れ、視線が下がり始めた時だった。

 ルイは腕を上げる。

 

(使えない両手で何を繰り出す? 肘か? 肩か?)


 正解は体、全て。


 ルイは腕と足を絡め、バレッタに抱き着く。


「ったく、作戦なんて上等なもんじゃねーな」


 その上からルークは鞭で二人纏めて巻き付けた。

 勿論、バレッタの握力()超過()なら、すぐに剥される。


 だから、そのすぐの間にルークもバレッタの背中に二人の上から覆いかぶさるように抱き着いていく。


「女二人に抱き着けるなんて、まるでハーレムだな」


 そこから、発動する。

 時間外(オーバー)労働(タイム)


(残り二回なんて悠長なことは言ってられない。ここで二回分、二十パーセントを奪い取る!)


 自分の疲労も貯まっていくルーク。

 流石に腕の感覚が無くなり始める。

 暴れるバレッタ。

 抑え込むルイ。


 十パーセント減。


 あと、十パーセント。

 しかし、ここまでの戦闘の疲労も重なり、意識すら怪しくなるルーク。


「離れろや!」


 バレッタが鞭を千切り、拘束力が弱まる。

 あとは、両手の使えないルイと意識の飛びそうなルークが抑えるのみ。

 

 十五、バレッタがルイの足を掴む。

 十六、もう握りつぶす余裕もないバレッタがルイを引き剥がし投げ飛ばす。

 十七、その反動で一瞬、ルークも剥されるがすぐに背中に張り付き直す。

 十八、バレッタがルークの左肩を右手で掴み、体勢の悪さから投げるより、肩の骨を砕く選択をする。


 十九、左肩の骨が砕け、抱き着く力が半減したルークが地面に転がる。


「惜しかったなぁ。本当に惜しかった」


 呟くように弱々しい声を鳴らすバレッタ。


 十九パーセント減。


 二人の決死の特攻もそこまで減らすのが限界だった。

 勿論、バレッタもそこまで減らされたのだ。

 立っているのがやっとだ。

 しかし、ルークとルイは立つことさえ出来ない。


「惜しかった、そして、殺すのが惜しくなったぜ」


 バレッタは二人を賞賛する。


「ここまで、追い詰められたのは久し振りだ。いや、相手が同じ人間だと考えると始めてかもしれねーな」


 バレッタは足元のルークの元に膝をつき、右手をルークの頭に重ねる。

 砕き、殺すために。


「最後だ。何か言い残すことはねーか?」


 ルークは微かな声量でぼそぼそと口を動かす。


「あっ? 何だよ。最後の言葉ぐらいしっかり言えよ」


 ルークは地べたに転がりながらも、必死に口角を上げた。


「お前の負けだ」


 バレッタが背後の気配に気が付いたのは早かった。

 すぐに後ろを振り返る。


「言いたいことも聞きたいことも沢山あるけど、取りあえず今は君たちを助ける事が最優先みたいだね、ルーク」


 そこにいたのは、神崎礼嗣。

 ルークの予定よりも十分早く、この場に間に合った本当の化け物。

 そして、彼は今最初に出るときに付けていた鬼の面を外していた。


「何だ? てめぇ、援軍か? ひょろひょろしてんなぁ」


 バレッタは分かってない。

 その言葉が俗に言う噛ませ犬の言葉だと。



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