善の在処
「……見苦しいよ」
彼の言葉が静かに王室に響いた。
「……礼嗣様」
「ニアリスがいいと言っているんだ。これ以上の追及は不必要だ。そうだろ、ウーノ」
「はいはいはい」
ウーノも自分の旗色が悪いと思ったのかあっさりと引き下がる。
神崎は基本的に国の方針に口を出すことはなかった。だが、ニアリスでも収拾がつかないと判断したときのみ口を出す。
彼の進む道はニアリスと共にある。だから、ニアリスの望んだ道が彼の望む道だ。そして、同時にルークを止める事。
その二つを並行して成すことが彼女たちの望む道。
誰もが幸せな国を作り、それを脅かす可能性の最も高いルークを排除する。
もう神崎とニアリスの見えている景色はそれだけだ。
だが、どの世界に生まれようとも聖人君子と種別される二人が明確に排除思想を描いた初めてのことでもある。
神崎の浅く握る拳にはうっすらと汗が溜まる。
どれだけ悩んでも戸惑いはある。
自身から積極的に誰かを排除する。
それも自分をこの世界に呼んだ張本人ルークをだ。
今更躊躇うことはしないが、身体と心のちぐはぐさがもどかしい。
「ステニーを捕獲すると同意に別動隊を組んで引き続きルークたちの捜索もよろしく頼むよ。彼等はいま手負いだ。下手に回復されるより前に叩きたい」
「へぇへぇへぇ、神崎殿は容赦のないお人であらせられる」
「そんな! 礼嗣様は決してそんな人ではありません!」
「そうなんですか? なにせ私はまだ付き合いが短いもので、別にやり方自体に反対はありませんよ。私もそうすべきだと思っています」
「なら、いちいち口を挟むなよ」
ニアリスが不安げに神崎の顔を覗きこむ。
神崎は笑顔を作り「大丈夫だよ」と返す。
そうウーノたち神崎をよく知らない者たちにとって彼はもうそんな風に映ってしまっている。
(僕は一体いつまで善性を保ったままでいられるだろうか。もしそれが剥げ落ちてしまった時、ニアリスともに作る理想郷に居場所はあるのだろうか)
他者を害すとはそういうことである。
まだ、彼は悩めるだけの理性は残していた。




