あまねく愛
そこにいる誰かが言った。
「時は来た」と。
弾む声はそこにいる皆が振り向く間も与えず続けざまにこう言った。
「お姉ちゃんはね、待っていたの」
スッとアレットは膝をつく。
「ルー君が頑張って、頑張って、うーんと頑張って積み上げたものが授受するならそれもよし、でもルー君は弱いからきっとどこかで限界が来ちゃう。ただ手を差し伸べるだけじゃ駄目。その限界の限界で誰でもいいから助けて欲しいって心の底から臨んだ時におねちゃんは手を差し伸べようと思ったわけです」
それなりの実力者たちの集まるこの部屋に誰一人気付かれることなく現れたピンク短髪のその女はお姉ちゃんアピールが凄かった。
「お姉ちゃんは弟の欲しいものならなんでも用意してあげるの。たとえそれが世界だってね」
へらへらとした笑みに眼の中にたった一人だけを写し、終始ハートマークを浮かべている。アレットはリオンに謝罪する。
「リオン様、すみません。私は貴方の教育係であると同時にシオン様が家を出られる前まではバティスティ家の姉妹の教育係でした。そして、その役職は不変なのです」
「アレット、あなたはここにいたのは偶然じゃないのね」
「はい、シオン様の右腕としての活動もしておりました」
シオンはパンパンと手を叩く。
「リオン、アレットを責めちゃ駄目だめよ。彼女は本当に優秀なメイドさんよ。例え彼女がどれほどルー君の事が嫌いでも私がお願いすればルー君の動向を逐一探りって教えてくれてたんだから」
「はい、それはもう泥水をジョッキで一気に飲みし続けるような辛い日々でした」
「俺のこと嫌い過ぎない? 報告するだけだよな?」
シオンは困惑するルークに我慢できずに抱き着く。
「もう拗ねなくたっていいじゃない。その代わりお姉ちゃんが億倍、兆倍愛してあげるんだから!」
そのアクションはルーク大好き組(リオン、ヨハネ、バレッタ、強華は意識不明中)の空気をピリつかせ明らかに不穏なものへと変化していった。
「馬鹿姉貴、確かにあんたは強いわ。さっきの戦闘でもまたわけのわからない力を身に着けていてほとほと呆れたわよ。でもね、もうあんた一人ぐらいでひっくり返る戦況じゃないの」
「ですです。あなたの力を借りるくらいなら私ぃが『神の溝』を復活させて戦力を整えた方がよっぽど建設的ですです」
「まぁ、そういうことだな」
シオンは三人の反論にも余裕の表情だ。
「あらあら、リオンちゃんはともかく、ルー君ったら知らないうちに(勿論知ってるけど)随分人望が厚くなったのね。お姉ちゃん、妬けちゃうな」
シオンはパッと両手を拡げた。
「二人は私の一つ目のスキルは知ってるよね?」
ルーク、リオンはゴクリを息を飲む。それは肯定と同義だった。
「お姉ちゃんもね、積み上げてきたんだよ。別に強さとか、世界とかどうでもいいんだけどね」
シオンの目がハートマークに変わる。
「それがルー君の望みだもんね」
―ドドドドドドドド
宿の外から地鳴りが響いた。




