彼を嵌めるには 前編
「先ほどキングが言っていた通り、ジェントルな我々が狙うのは世界です。最早、亜人族とか人族なんて小さな征服に執着しなくて良いのです」
「……具体的な最終目標をご教示願いたいのですが」
チャスマンとドラゴは顔を見合わせ口角を上げる。
「ジェントルな私が魔王に、そしてここにいるジェントルな私の最高傑作三代目キングことドラゴが世界征服する獣族の王になるのです」
魔王、その言葉に空気が張り詰める。新たに魔王になるということはつまり歴代再狂とも謳われる現魔王を殺すと言うことだ。
「……出来るのですか?」
「オオカ、誰に言ってるんだい?」
ドラゴは目を薄くし、部下を睨む。
「出来ますとも、ジェントルな私と愛しのキング、そして最後のピースを手に居れればね」
「最後のピース?」
その言葉はドラゴも初耳のようにチェスマンに尋ねた。
「そう、貴方のお兄さんのようなものです。強欲の塊、自己優先の具現化」
ボロクソに言われているその最後のピースとは、
「ルーク、ジェントルな私の秘蔵っ子。これを手に入れる事で世界はより確実にジェントルな私達のものへとなります」
チェスマンが自分以外を褒めたからか、ドラゴは面白くなさそうな口調になる。
「ふーん、で、そいつはどこの誰?」
「ふふふ、人間界を追放された人間族です」
「は? よりにもよってあの最底辺種族の人間? なに、もしかして凄いスキルでも持ってるとか?」
「いえ、特には」
チェスマンはまだ自分と別れた後にルークが手に入れた異世界転生の事を知らない。
「それじゃあ、なんでそいつが必要なの?」
「見ればわかります。しかし問題は今ここにいないと言う事です。本当はここに来るまでに捕まえてくる予定だったのですが、少々邪魔が入りましてね」
チェスマンは忌々しそうにシオンの顔を思い浮かべる。
「彼が今どこにいるのか分からないのです」
「じゃあ、駄目じゃん。どうするの?」
「誘き出しましょう」
「誘き出す?」
「利に眼が眩みやすい子です。彼もまた世界を欲する者。隙あらばジェントルな私たちの首をも狙っています。なので、ジェントルな私たち自身を囮にして誘き出すのです。適度にこの獣族の国ハクアがピンチになり、もしかすれば自分たちにも手に入れるチャンスがあるのではないかと思わせるのです」
チェスマンの作戦は実にルークの性格を読んだ、対ルーク向けに効果的なものだった。
「ルークの手持ちは今疲弊しているので、それなりに大きな隙じゃないといけませんね」
「じゃあ、大量の兵を亜人族か人族の国へ出撃させて漁夫の利を狙わせる?」
「悪くない手です。しかし、今の彼等は本当に弱いのです。二国の大戦に割って入る戦力もない」
「そっか、どうしよう」
チェスマンは一度ドラゴに考えさせてから自分の提案を口にする。




