未開の地への来訪者 前編
―中立地帯(国家名なし、領土なし、統治者なし)
この世界を大きく括れば反映している種族として亜人族、獣族、人族がいる(その他の種族は単純に個体数、統率力の影響で決まった領土を持たない)
そして、その領土に囲まれる様に中立地帯と言うものが存在する。
中立なんて言えば聞こえがいいが、要は誰も治めるもののいない無法地帯だ。
全ての種族が跋扈し、時に争い、時に国を追われたお尋ね者が身を隠す。勿論、ルークたち一行は後者だ。
「ははあー、やっぱり中立地帯は混合種族が多いですですね」
「当然だ。ここは要は居場所のないものたちの掃き溜めとも言える。日夜亜人族と獣族でこのエリアを手中に収めようと躍起になっているが、掃き溜めを守らんとする掃き溜めたちの妨害も多く、また当主のような自治する者もいないことから単純な戦闘での勝利のみでは手に入らない地帯だ」
「説明どうもですです、ワンコロ」
「誰がワンコロだ!」
中立地帯に入ると、ルークたちは宿を取り、怪我をしている者は療養に手の空いた者たちは街の散策に出掛けた。
とにかく雑多の場所だ。
つぎはぎ、増築、改造だらけの今にも倒れそうな建物が絶妙なバランスで立ち並び、そうかと思えば、物凄い戦闘の後なのか、街中に急にぽっかりと空いた空き地もある。
だが、そららに一切の興味も驚きも見せずに多くの者たちが暮らしているようだ。
パッと見で多いのはどこにも属しにくい種族の血が混じった半端者である混合種族。それらが半数。残りの半数が亜人族と獣族、見た目では分かり辛いが変態族もいるのだろう。ここにいる亜人族や獣族は問題行動の多いもしくは変わり者のエア、ハクアを追われた者たちなので、人族を見ただけで敵対することはないが、物珍しそうな視線は感じる。
「やはり目立つか。先ずは人数分の衣服だな。パッと見で人族と分かり辛いものがいい」
「わーい、キングとお買い物なのですです!」
「なんか、ヨハネのセンスは信用ならないわね」
「私は動きやすい恰好ならなんでもいいわい」
「私は真っ赤な色ってのは譲れないぜ、ダーリン」
「目立つなって言ってんでしょうが‼」
先ほど実の姉シオンと会って気が立っているのかリオンのツッコミがいつもより鋭くなっていた。
そんなリオンと視線を合わし、ルークも難しい顔をする。
「いつかは避けられないだろうなとは思っていたが、まさかこのタイミングでとはな」
「あの馬鹿姉貴のことだから狙ってやったんでしょ」
「ふっ、それぐらいはやりそうだ」
その賑やかしい様子を見ていた露店の店主がルーク一行に声を掛けてくる。
「お兄さんたちどこかのお尋ね者かい?」
「いや、そんなんじゃない」
「いいって、いいって隠さなくても。この辺じゃ珍しくもなんともねーよ。それよりその目立つなりを隠すローブが欲しいんじゃないかい? 安くしとくぜ」
店主は話の分かるタイプの様でルークたちの深い事情などは一切聞かずに売り物の衣服を見繕始めた。衣服を扱う店と言うよりは衣服も扱っている雑貨屋のような商品のラインナップだった。
「じゃあ、私はその赤いローブで」
「いい加減にしろ、バカ」
「ちぇっ、私の赤は誇り高き赤なんだぜ」
「全て終わったら好きなだけ真っ赤に染まれ」
「いいや、全てが終わってからじゃ遅いだろ……全てが始まったらだ」
バレッタはルークをニヤリと笑顔と共に睨みつける。彼女の瞳は語り掛けていた。まだ、始まってもいないのだろうと、これからまだお前は大きな花火を打ち上げてくれるのだろうと。
「腐っても一度は婚約した関係だ。それなりの甲斐性は見せてやるよ」
「流石ダーリン」
「あっ、少しいつものキングらしい悪い顔になってきたですです」
「……そっちの方があんたらしいわよ」
最後にリオンもその姿を見て少し落ち着いたのか、最初の刺々しさが柔化し、口から溢すようにルークに皮肉を言った。
「そうですね。流石、バティスティ家の超才女のシオン様、リオン様ご姉妹を垂らしこんだだけのことはあります」
ルークたち四人の誰にも悟られず背後を取り、感心したと感想を述べるものがいた。その場の全員が警戒態勢になり、後ろを振り向いた。




