どこもかしこも動き出す
―ハクア(獣族の国、森の最深部)
深い森の中、霧も濃いその中で、その者たちは囁き合う。
そこにいるのは獣族の三人。
獣族の顔ともいうべき四老獣二人と獣族の主。トライの逃走にバサギの死亡により、四老獣も残り二人となってしまった。
「……今何と仰いましたか?」
知的な声が主に問いかける。
「仕掛けようか」
幼い声が彼ら二人に命令する。
その声は亜人族の主、王だ。
「しかし、トライの所在不明にバサギの死亡、我らの現状はあまり芳しくありません。それらを誤魔化しつつ亜人族相手に時間を稼いでいますが、ここで亜人族に仕掛けるのはいくらなんでも不利かと」
野太く力強い声の主が主へ忠告する。
しかし、返ってきたのはその心配の声をあっさりと超えるものだった。
「亜人族? あぁ、ライオ、勘違いさせちゃったかな。仕掛けるのは亜人族にじゃないよ」
「「?」」
知的な声と野太く力強い声の主が互いに顔を見合わせる。
「まさか人族ですか? 確かにトライ、バサギなきいま少しでも戦力は補強しておきたいところですが」
「違う違う本能を一般兵にまである程度普及させた僕らの戦力はそんな低いところを見ていないよ」
幼い声の王は「僕らあの相手はね」と口にし木々の隙間から見える空を見上げた。
「世界だよ」
二人は言葉にならないほど慌て、混ざり合った声で抗議する。
「あはは、二人がそんなに慌ててるところ久しぶりに見たな。でも、大丈夫。僕はちゃんと考えてるから」
幼い声の王はうっとりとした顔で空を見上げ続ける。
「時は来たんだ」
その様子を見て野太く力強い声の主ライオ、知的な声のオオカは覚悟を決めた。
「「ドラゴ様のお心のままに」」
幼い声の王ドラゴは忠実な下僕たちに視線を落とした。
「ふふ、お心のママンにだって、確かに僕のママンはとっくに死んでもう心にしかしないけどさ」
訂正すれば殺されるかもしれない。
二人はツッコミをそっと心に仕舞った。
―魔王城
「いつまで寝てるの?」
不貞腐れたように頬を膨らまし、魔女王は魔王に声を掛けた。
広い広い魔王城。
世界の果てと呼ばれるそこには彼女と彼しかいない。
魔王はぽりぽお尻を掻いた。見た目は三十代そこらだが、実際の年齢はその五倍近い。それだけの年月彼は魔王だったし、この世界を統治してきている。
「もうじき起きるさ、もうじき世界も起きるからね。ミーの出番はそこからなのさ」
魔王はベッドの上で上体を起こし窓の外を見つめた。
「早かったね。ミーにお客人だ」
真っ暗な魔王城で魔王と魔女王は世界の動きを感じていた。




