第十八話 己が力、敵の力
当然、腰には拳銃を隠し持っているが、残弾は前回から補充も出来ておらず少ない。相手のスピードやルークの腕を考えると、不意をつくか、ルークの先天的スキル、時間外労働で動きを鈍くするしかない。
見たところ相手の戦闘スタイルは素手による近接格闘。
さらにスキルで何かしら強化されており、人の頭ぐらいなら軽く握りつぶすことも可能。
本来ならルークのスキルと近接格闘は最も相性がいい。
触れれば発動できるスキルであるため、ルークが一番に持ち込みたい形は両手の指を絡めた静止状態。
しかし、それはバレッタ相手だと確実に相手を疲労困憊にする前にルークの両手が粉砕されるだろう。
本来は接近戦を望むルークがヒット&アウェイ、中距離、一度触れてまた距離を置く戦闘スタイルにしなければならない。
ルークは嫌な汗をかく。
この場をバレッタのプレッシャーが飲み込もうとしているのだ。
「お前、さっきの俺のとこの兵士をやったのはなんてスキルだ?」
それでもルークはまだ軽口を叩き、自分を落ち着かせる。
しかし、これが思わぬ収穫を得る。
「あぁ、あれ気になる? いいぜ、別にばれたとこで防げるもんでもねーしな。後天的スキル、握力超過って言ってな、自身の握力を百倍まで上げてくれるんだ。相手の頭を握りつぶす感触は癖になっちまうぞ」
【能力名】
握力超過
【LEVEL】
LEVEL8
~次のLEVELまで、同程度以上の戦闘能力を有するものとの戦闘が八十二回必要。
【スキル詳細】
自身の握力を百倍にする。
発動時、倍化の威力調節は出来ない。
持続時間なし、自身が意識を保ち握力を込めれるだけの余力がある限り発動可能。
ただし、発動時は発動していない通常時より疲労が蓄積しやすい。
ここで、まさかの相手のスキルの一つを把握する。
大体、予想はついていたとは言え、これは大きい。
(腕力自体は普通と言う事か、身体能力も自前か)
「親切にどうも」
「なんのなんの、私って結構優しいから、良い目をしてる奴には甘くなっちゃうんだよね」
「さっきから言ってるそれはなんだ」
「さぁね、聞きたかったら私を倒してからにしな!」
バレッタはその言葉を戦闘の合図にルークと一気に距離を詰める。
ルークも距離を取ろうと動き始めるが、始動が早い分相手の方が加速し一気に距離がゼロに近くなる。
「ハグしてやるよ」
バレッタが両腕を広げ、ルークに飛び掛かる。
抱き着かれれば、その両手で肉を抉り取られるだろう。
逃げきれないと判断したルークは自身も地面を蹴り、バレッタの顔面にヘッドバットを食らわせようと頭を勢いよく突き出す。
後方に逃げると予想していたバレッタはこれをもろに食らい一瞬怯み視界を奪われ腕を振り回す。
その間に距離を取ったルークだが、運悪くバレッタが腕を振り回した時に指が左肩をかすめ、その部分の衣服が剥ぎ取られ、左肩の表面がうっすらと赤くなる。
(一歩間違えば、肉を抉り取られていたな。まぁ、いつ、そうなってもおかしくはないがな)
ルークは恐るべき自分の未来を予想し寒気が走る。
すぐに視力を回復させたバレッタは不敵に笑う。
「思ったより勇気あるんだな。私の読み違いだったわ」
(思ったより視力の回復が早いな。追撃の暇がない。もう少し、目に抉り込むように当てるべきだったな)
ルークにしてみれば、援軍が来る可能性を少しでも高めたいためバレッタの会話に応じる。
「いやいや、足を滑らせただけだよ」
「指揮官だって言うから、あんまり戦えないタイプかとも思ったんだが、これは楽しめそうだっ!」
猪突猛進。
バレッタがそう言い終わるとまたルークに向け突進する。
しかし、今度は二度目、ルークは冷静に鞭を振り、バレッタの動きを牽制する。
鞭を絡めるイメージではなく、表面を払うイメージ。
弾く、弾く、弾く。
その鞭はバレッタの赤いワンピースや柔肌を剥いでいく。
バレッタは自身の血で塗れていく。
しかし、それでもややスピードは落ちただけで、ルークに向かってくるバレッタ。
堪らず攻撃をやめ、また距離をとるルーク。
「おいおい、逃げてばっかりだな。レディが抱かれたいっていってるんだから恥をかかすなよ」
「悪いが趣味じゃない」
今の攻防でどの程度の時間が経っただろう。
十分も稼げていないだろう。
あくまでルークの予測の上でしかないが、神崎の先ほどまでの殲滅ペースなら、あと三十分もかからない。
そして、神崎は当初の命令通り最前線に向かうだろう。
そこで味方の状態を見て、ルークのピンチに気が付き引き返す。
一時間。
それがルークの導き出した神崎合流までの残り時間。
あの化け物じみた移動スピードなら決して不可能ではない数字。
バレッタがどれだけ化け物じみていても神崎なら問題なく倒せる。
ルークはそれまでにバレッタの被害をこれ以上拡大させずにここで粘る事。
「……倒せれば、一番なんだがな」
ルークは小さく呟く。
それが限りなく不可能に近い事を知りながら。




