二人の王
「ニ、ニアリス。いつの間に」
ニアリスと神埼は悲痛の面持ちでルークを見つめる。
強華だけはその場でバツの悪そうな表情を作り立っている。
「ルーク様、いやルークよ。あなたが私の父や母、イリアタの王族までも皆殺しにして、この国を作り上がたと言う話は本当なのですか?」
ルークはニアリスのかつてない圧力にたじろぐ。
「本当だ、この、国の王よ。恐らく、城の、外にその生き、残りであるマグレスト、と名乗る王子がいるはずだ。そいつが全てを見ている」
「……バカァホ王子、生きていたんですね。確かにあの方の遺体だけは見つかっていませんでした」
息絶え絶えのハレルが息も我慢し、ニアリスに真実を告げた。
そのことでニアリスの圧力から一瞬解放されたルークの怒髪冠を衝く。
「貴様ぁ! 死にぞこないが‼」
ルークが今度こそ引き金を弾いた。
―パァン
しかし、その弾丸は天井に小さな穴を一つ作るだけの結果に終わる。
「……礼嗣」
「ルーク、今の話が本当なら、僕は彼を殺す君を見逃すわけにはいかない」
拳銃を持つルークのその手首は神崎により捻られ、天を向いていた。
「そこの男、よ。俺が『黒狩り』だ。そこの、クズに、名を、利用されたものだ」
「黙れ! 黙れ‼ 全てでたらめだ‼‼」
狼狽えるルークの方へニアリスが一歩前に出る。
強い意志を持つ瞳に、静かに揺れる銀髪。
そこには初めて出会った頃のお人形はいなかった。
(チッ、傀儡なりに曲がりになりにもこの国を統治してきたというわけか。こいつとの関係を悪化させてしまったのは悪手だったか?)
「ルーク、あなたの話も勿論信じます。いえ、本来ならあなたの話こそ信じるべきなのかもしれませんね。あなたはこの国の為に尽力してきた。やり方はどうであれ、それは変わりません。初めて会ったそこの方の言葉を全て鵜呑みにするのも可笑しな話です」
彼女も必死で考えていた。
あの日『大会議』にてホイホイの代表らが集まり、そしてそれらが皆ルークの息のかかった者たちで、自分の正しいと思った道が真っ向から否定されたその日から。
「じゃっ、じゃあ」
ルークは一瞬好転の気配を感じ縋るような声を出す。
「えぇ、だからこそ真実を確かにしましょう。私はもう誰かに利用されるもの、誤解したままに世界が流れていくのも真っ平です。正しきものに正しい光を。それが今から私が捧げる信念とします」
一人の本物の王の誕生した瞬間だった。
王として信念を掲げた。
彼女の持っていた答えが変わったわけではない。
しかし、それを彼女は口に出した。宣言した。
それが大事なのだ。
「そこの倒れている男の人の治療、そして城の外にいるらしいバカァホ王子の捜索、見つけ次第話を伺いましょう。そこから客観的な答えを導き出す。これで問題ないですね。ルーク」
駄目に決まっている。
バカァホ王子はあの時の光景を全て見てしまっている。
何よりもの証人だ。そんな男を連れてこられてはルークのここまで築き上げてきたものは砂上の城のように崩れ去ってしまう。
(殺さなくては、だがどうやって? 俺が直接殺せば、それは自白したも同然。しかし、バカァホ王子の顔を知っている部下も少なく、そもそも俺が今動かせる部下も殆どいない)
詰んでいる。
だが、それはニアリスに限った話だ。
(ニアリス、お前の覚悟に答えよう)
ルークは覚悟を決めた。
「……最悪割れてもいい」
捨てる覚悟を。
「?」
「生き証人さえ屠ってしまえば後はどうとでもなる。国民は騒ぐかもしれないが、俺だってお前ほどじゃないにしてもこの国の英雄、柱だ。その上、権力者の殆どは俺の息のかかった連中。世論が割れ、半分は俺の敵になっても全てを失うよりははるかにましだ」
一人の偽物の王は、それでも本物に抗う。
張りぼて塗れだが、高く積み上げていたお城、それを失いたくはないのだ。
それが彼の全てだから。
「認めるのですね?」
ルークは神崎の手を振り払い。
部屋の後方へ歩を進めた。
バルコニーを背にし、高らかに宣言した。
「あぁ、俺が殺した」




