正義の所在
ルークは拳銃を抜く。
躱されると分かっていても、相手の動きを制限、誘導するために有効に活用していく。その結果、またルーク、ハレルの距離は詰まっていく。
『伝家‼』
ルークの右肩に深い斬り込みが入る。
肩の骨までしっかりと切断され、血飛沫と血肉が舞う。
時間外労働‼
それでもルークは返す刀でスキルを繰り出す。
深く斬られれれば斬られるほど、ルークとハレルの接触時間は長くなる。ルークがハレルから削れる体力の割合も増えていく。
「チッ‼」
ハレルの口から舌打ちが漏れる。
次の瞬間にはルークの身体は発光し、全快している。
最初出会った時に神崎にも言われていたが、時間外労働は微妙なスキルだ。
大外れではないが、当りの部類でもないだろう。そんな微妙なスキル。だが時として、たった一滴のアクセントで爆発的威力を発揮する事はどこの世界であってもあり得ることだ。
それがパズルのピースが噛み合うと言うことだ。
ルークのスキル時間外労働の絶対的弱点は三つ。
一つ目は触れる事。
敵に触れれば必然的に自身に反撃を喰らう可能性が高くなる。上位の敵になればなるほど、一撃で与えてくるダメージの量も多く、それだけで致命傷になる可能性が上がっていく。
二つ目はタンクの量。
ルークが相手を疲労させるのと同時に自身も同程度疲労させなくてはならない。つまり、自身一人分の疲労感しか与えることは出来ないのだ。これは複数との戦闘の際に圧倒的に不利だ。
三つ目はスキルを使うごとに落ちていく使用者のパフォーマンス。
これが決定的に痛い。
同じ疲労度になれば経験値の差からルークの方が動けるとは言え、それはルークが相手の攻撃を全て躱して、一方的にスキルを発動させたことが前提のあまりアドバンテージになり辛い話。
総合するとやっぱり糞スキルかもしれない。
しかし、これらをたった一つのエッセンスを加えることで解決される。
回復すればいい。
ルーク自身が何らかの方法で傷、疲労を回復させられるのなら、このスキル程厄介なものはないだろう。躱し辛く、徐々に削られ、弱らせれていく。
回復さえ出来るのなら、ルークのスキルの触れるだけでいいという特性はむしろプラスに働く。
相手は圧倒的格上。
普段のルークなら絶対に勝てはしない。
だが、もしも何度も何度も斬りつけられ瀕死状態に陥っても精神を崩壊させずに前へ進み続ける精神力があるのならば、
『伝家‼』
時間外労働‼
『伝家‼』
時間外労働‼
『伝家‼』
時間外労働‼
奇跡だって起こすかもしれない。
「ハレル‼ もうやめて‼ そこまで意地にならなくてもいいじゃない‼ あの回復役の羽女を狙えばいいのよ‼」
肩で息を初め、足運びが怪しくなってきたハレルを見かねて小人のアメが声をあげた。
そう、攻略法は単純明快。
回復経路を断てば、それだけで元から天地程離れていた実力差だ、ハレルの勝利は確実になる。
当然、ルークもそれだけには注意して最高の警戒を払い戦っていた。だが、ハレルがリュミキュリテを狙う様子はなかった。
そして、これだけのピンチだと言うのに笑っていた。
「……アメ、心配してくれてありがとう。だけど、そんな事出来ない」
「なんで! ハレルの実力なら造作もないことでしょ!」
「違うんだ。力の問題じゃない。あんまりに勿体無くて出来ないんだ」
「勿体無い?」
言葉に出したのはアメだけだったが、この場にいる誰もが疑問符を浮かべた。
「そう、勿体無いだろ」
ハレルは汗で湿った黒髪をかき上げ「だって」と呟く。
「こんなクズの成敗が一回の苦痛で済んでいいはずがない。これなら何度でも何度でも擦り潰せるんだ。回復手段を潰すなんて勿体無くて出来ないよ」
アメは絶句した。
前々からこの傾向はみられていた。
しかし、今ルークと言うハレルの許容量を超えた悪と認定する者が現れてしまったせいで今までギリギリのところで塞き止めていたものが完全に崩壊している。
「クハッ」
ルークは歯を見せて笑った。
「おいおい、そんなに俺が憎いか」
完全な正義はこの世に存在しない。
ルークはいつも思っている。
正義の味方でありたい。正しくありたいと言う行為は一種の弱さ来る信仰だ。それに傾倒していけばあっという間に闇の中に放り出され、道しるべは失われる。
「……正義って何なんだろうな」
ルークは正義や悪の為には決して戦わない。
今もこれからも自分だけの為に武器を構える。




