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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第四章 人を喰らえ、人共よ
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非常識な来客への対応 前編

 人工()混合(ラエ)種族(ティ)の大量投入で時間を稼いだルークたちは地下の研究施設から地上、ホイホイ城内に出ることに成功した。

 急いで城内の兵士に指示を出し、ハレルへの迎撃に備えさせた。


 だが、そのどれもが遅い。


「三番隊半壊、五番隊全滅‼」「一番隊、二番隊、全隊員戦闘不能‼」「ルーク様、これ以上あの化け物を抑え込めません‼」


 当然と言えば当然。

 一般の兵士にハレルが止められるわけがない。


「え? 私の可愛い人工()混合(ラエ)種族(ティ)君たちはもう全滅したの?」

「地上に上がってきているところを見るとそうみたいですねぇ」

「えぇ、どんだけ化け物なんだよ」

「あれはあっしが召喚された時にちらりとみた鬼々なみかもしれやせん」

「亜人族が鬼族の長並みとはあり得るの? あの刀に秘密があるのかな」


 ステニーに至っては予想以上の実力を持つハレルに興味が湧き始めたぐらいだ。

 だが、当然ルークはそれどころではない。

 今手元にある手札をすべて出し切ったのだ。それをことごとく潰され、ここまで築き上げてきたものが消えようとしている。


「くそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそ」


(神崎、強華、セブンズ、まだなのか⁉)


 最早頼る糸はそこにしかない。

 ルークはそれまでひたすら時間を稼ぐことに集中しなくてはならない。

 そのことに脳をフル回転させていると、城の門番をしている兵士がルークの方へ近寄ってきた。


「ルーク様。ルーク様に会いたいと言っている者がいるのですが」

「この非常時が見てわからないのか‼ そんな時間は一瞬もない‼」

「―ですが」

「大体、今日、人に会う約束なんて一瞬たりとも入れた覚えはない‼ なによりこの大戦の一番忙しい時に会いに来る非常識なやつは誰だ‼」


 ルークは声の枯れそうな勢いで怒鳴りつけた。

 無理もない今は一秒、一瞬が惜しいのだ。


「それが、イチと名乗る子供とその連れ二人の様で」

「イチ? 今は相手にしている暇はない、帰ってもらえ」


 ルークの脳裡にあの元奴隷の姉妹が浮かび上がる。

 彼女らはルークがこのホイホイを作り、初めて生の声で感謝の言葉を貰った二人だ。しっかりと覚えてはいる。街でも何度か交流がある。なんなら平時に遊びに来たらお茶菓子でも振る舞ってやってもいいぐらいだ。

 だが、今はタイミングが悪い。


 一度ノイズの入った思考をまた窮地脱出の為に切り替えようとした、その時だった。城の正面門の方から兵士たちの騒がしい声が聞こえてくる。


「ルーク様‼」


 聞き覚えのある声にルークは思わずそちらを振り向く。

 そこには数人の兵士に抑えられたイチ、そして住み込みで働いているパン屋の店長にその背には意識の朦朧としたニー。


「ルーク様‼ ニーを助けてください‼ 意識が曖昧で譫言のように『パンプキンケーキ』と呟くのです‼ きっと原因はあのケーキです‼ もしかするとニーの食べたパンプキンケーキには何か悪いものが入っていたのかもしれません‼」


 否だ。

 ニーの食べた物だけではない。

 全てのパンプキンケーキには麻薬ワントが練り込まれている。

 摂取すればするほどに身体がパンプキンケーキを求める中毒性に襲われ、自身の意思だけでは抗えない廃人と化す。ニーのような子供の身体ではその麻薬が蝕むスピードはかなり速いものだろう。


 ルークはイチの言葉に彼女らの現状を即座に把握し歯噛みする。

(もう国内での流通は最低限に抑えていたはずなのに、どこで入手したんだ? くそ、考えても仕方ない。そこを考えても現状に変わりない。俺に出来る事は―)


「おい、ステニー」

「はいはい、ルーク」

「あの麻薬を抑え込む方法は本当にないのか?」

「ないない。それは事前に説明したでしょ。だからこそ威力絶大なんじゃない」


 隣で聞いていたドロクの喉がごくりとなる。

 彼は聞いている。

 ある程度であればあの麻薬ワントを抑え込む方法があることをだ。中毒の対象を摂取が容易なものへ上書きしてあげればいい。

 水や空気。そのいつでも摂取可能そうなものへ上書きすれば中毒には変わりないが、苦しみ続ける時間が格段に短くなる。

 たったそれだけのことだが、ステニー言わない。

 目の前で苦しみ続ける少女を前にしても言わない。

 彼女はとことんイカレているのだろう。


「チッ!」


 ルークが短く舌打ちをする。

 その様子に心を痛めたドロクの口から「あの、ルークさん―」と零れそうなところをステニーは右手で塞いだ。

 そのあまりもの静かな動作にドロク以外の者は注視しない。

 そして、その口を抑えられたドロクに注がれるはステニーのあまりもの冷たい視線。


(最高に面白い所なんだから黙って見てようよ)



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