清浄化
「話が聞きたい」
次の言葉を発したのは流浪の亜人族の男、ハレルだった。艶のある黒の短髪の亜人。黒髪は亜人族の中でもトップクラスに優秀な家柄の象徴だ。そして、例外なく能力的にも高い事は歴史が証明している。
彼等はほぼ例外なく亜人族の国、発展都市エアの中枢、幹部クラスの地位を持つ権力者だ。そんな人物たちが都市から外に出ている事自体かなり珍しい。
ニアリスは状況を整理すればするほど、目の前の状況が呑み込めなくなった。
「亜人族の大幹部が何故こんなところに?」
口から漏れたのは素直な感想だった。亜人族は自国への愛が強く、あまり外の世界へ目を向けることが少ないと言う。せいぜい獣族との小競り合いに顔を出す程度だ。
次にそれを説明してくれたのはハレルではなく、彼の肩に我が物顔で座る亜人族の小人アメだった。
「ははは、緊張しなくてもいいわよ、お嬢さん。ハレルはとっくの昔にあんな国には見切りをつけているもの」
「まぁ、そういうことだ。俺はエアとは何のかかわり合いもない」
「ならば、あなたたちは尚更何をしにこの国へ? まさか……観光?」
「面白い冗談だ」
ハレルの瞳はニアリスから逸れ、その後方で怯えている一人の民へと移った。パンプキンケーキの中毒により震え、渇き、廃人一歩手前の彼を見る。
「もう一度言う、話が聞きたい。その男のこと、今俺が殺した兵士のこと、そして、この国のことだ」
「…………」
ニアリスの口は軽々とは開かない。
ニアリスは品定めをしなくてはならない。
彼等がこの国にとって正へと働くのか、負へと働くのかをだ。
同じ過ちをもう二度と犯さぬように、彼女は胸に刻む。
「……あなたたちは何者ですか。この国の王として、それがはっきりとするまではお出しできる情報はありません」
「ほう、目の色が変わったな。まさか、この国の王が女とはな。下調べが足りなかったよ」
「ハレルはいつもそうよね」
「そういうな。アメ、悪いがあの一緒に連れて来た男をこっちに呼んでくれないか。あいつも元この国の人間ならこの王様の言葉が真実かどうかわかるだろう」
「はーい」
アメは元来た道へ引き返し、ハレルはもう一度ニアリスに瞳を映す。
「そちらも名乗ったことだし、先に身分ぐらい名乗っておこうか」
彼は身に纏う羽衣をはためかせた。
それは髪の色同様に鴉色に艶のある黒。
「俺たちは『黒狩り』世界の正常を願う者」
それはルークが以前勝手に名だけを借りた組織名。
具体的な人員、構成は分からず、ただどの種族関係なく悪と判断した国、組織を潰して回る謎の組織。
この国の原型イリアタ、ホンニの王族殺しの罪をルークにより全て被せられた疑いの余地なしの完全被害者たちだ。
ついにこの国ホイホイが本物を呼び寄せたのだ。




