狂おしい命
神崎と強華は戦場を駆け抜けた。
一刻もこの戦いに終止符を打つためにだ。
二人がそれぞれメアリカとアシロのトップであるウーノとフライトを打ち取れば戦いはそこで終結する。
彼女たちの前にある最大の砦であるオセロム、キースとノーボスはホイホイ華中連合の精鋭たちがそれぞれ足止め中だ。しかし、長くはもたない。長引けばその分誰かが傷付くこともある。
神崎は事の重大さとこれから行う戦いの無情さに打ちひしがれていた。
「ねぇ、強華。僕らは本当にウーノとフライトを殺さないといけないのかな」
「今更、神崎人殺すの怖い? ワタシはルークの為になら殺せる」
(僕はどちらかというと、その盲目的な信仰の方が怖いよ)
口に出すことはしなかった。そして、その信仰を持っているのは強華だけではなかった。神崎が日本からここにきて一番倫理観の差が生まれていると思ったのがそれだ。この世界では誰かの為に誰かを殺せるのだ。無論、神崎のいた世界でもなくはなかった。だが、その引き金はもっと重く、しっかりとセーフティのかかったものだったはずだ。
多分、神崎はもう人を殺せる。
いや、この世界に来て既に何人かは殺めているし、殺める気で戦ったこともある。だが、やはり始まりは、序盤はその手段を用いずに解決を図ろうとする。
今はいい。
その圧倒的な力はそれをすることが許されるだけの権利になる。
しかし、神崎はチートを与えられことしているが、その力は決して最強ではないかもしれない。この世界は広く、またすでに何度も苦戦を強いられている。
ならば、神崎は最強、無敵である証明は出来ない。
いつか出会った瞬間に殺しにかからなくては殺される。
そんな相手に会うことがあるかもしれない。
そんな時を、そんな自分になってしまうのを神崎は恐れた。
世界を変える為に、ルークと手を取り合った。
ルークの求める世界なら、限りなく殺意の少ない世界が生まれると思ったからだ。
その道を歩くための覚悟はした。
だが、それでも常に葛藤だけは振り払えない。
それは人間の性なのかもしれない。
「神崎、テントが見えた。あれが最後方の敵地だよ」
「……急ごう」
テントの周りの敵の兵士たちの量は今までより数倍厚かった。しかし、神崎と強華のペアの前では紙切れの枚数が一枚、二枚増えた程度の話だ。
十秒足らずで制圧し、テントの中に押し入る。
「……ここじゃない」
「もぬけの殻だね。外の兵士は囮か」
あまり感情を露わにしない強華が苛立ったような口調になる。
「最後方に構えていないとなると、これは拠点が読めないね。まさか、そもそも戦場に出てきてないなんてことも―」
「それはない。ルークが人類の全てのかかるこの場面で指揮をとらないなんてあり得ないって言ってた」
「でも」
「時間がない。とにかく虱潰しに探そう」
「それこそ時間を喰うよ」
「じゃあ、どうすれば」
ここは敵の最後方。
ルーク陣営に再度指揮を仰ぎに行く時間はない。
最前線にはアシロの最終兵器キースとノーボス。
中央ではメアリカの人類最強を誇るオセロム。
そして、最後方はもぬけの殻。
(だけど、このどこかにいるはず)
強華は金色の髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。
ここまでゴリ押しともいえるチート力だけでことを解決してきた脳筋組が頭を悩ませる場面が来てしまった。




