第十四話 都合の良い展開、初陣
ルークとシグレは参謀室にいた。
シグレは神妙な面持ちだ。
「……ルークさん」
「なんですか」
ルークはアレットにしこたま殴られ腫らした顔を撫でながら返事をする。
「今月の支持率五パーセントほど落ちてますよ。これで六十を切りました」
「……まだ、焦る時間じゃないですよ」
ルークは焦っていた。
思った以上に吸血鬼だと偽る恐怖政治はついてくるものが少なかった。
まぁ、恐怖政治に絶対的に必要な鞭をまだふるってないのだから当然と言えば当然だ。
しかし、このままでは外敵を減らしたのはいいが、内から潰れてしまう。
シグレが出ていき、一人になった部屋で彼はどうしたものかと途方に暮れていた。
「手ごろな敵を作りそれを討伐、そして適度な報酬」
ルークは背後からの声に慌てて振り返った。
そこにはモンブランを素手で食べるティグレがいた。
一応、皿の上には載せている。
「……いつからいたんだ」
「モンブランがこの世に誕生した時からだ」
「お前、モンブラン知ったのつい最近だろ」
付き合ってられないとルークは本題に戻す。
「で、手ごろな敵ってのは?」
「確かホニンの方にはこの急な建国に反対しているもの多くいただろう。そいつら今ホニン領土の島に立て籠もってるんだろ? 何故、殲滅しない?」
ルークは思い出したように項垂れる。
「あぁ、あいつらか。手ごろどころか弱すぎる。神崎一人でも対処できるレベルだ。その上、得るものがない。元々うちの領土だしな」
その内処理しなくてはいけない問題ではあるが、最優先ではない。ルークの認識はそんな程度だった。
ティグレは二つ目のモンブランに手を付ける。
「そんなものかな。意外と練習になっていいんじゃないか?」
「元仲間を討伐が最初だと後味が悪いだろう。それに今反対派のラブジルとの戦いに備えて兵士を整えてるんだ。少しでも疲弊したりして隙を見せたくない」
ラブジルとはホイホイの建国に反対する国の中で二番目に大きい国だ。
武器の製造、輸出に秀でていて工場地帯も多い。
ルークが目を付けた理由の一番はそこだ。
ティグレが三つ目のモンブランを手に持ち、ラブジルの思い出を語った。
「ラブジルねえ、昔行った事があるが殺風景なところだったよ。食べ物もイモ類ばっかですぐに飽きたな」
「……俺は旅行に行くんじゃないんだぞ」
ルークが呆れた様子でティグレを見ていると、先ほど出ていったばかりのシグレが血相を変えて舞い戻って来た。
「大変です‼ 大変ですよ‼」
「何がどう大変なんです?」
ルークは落ち着いた口調でシグレをなだめる。
「それが、旧国家の残党で島に立て籠もってた人達なんですが―」
「あぁ、近いうちになんとか―」
「違うんです! 彼らラブジルと手を組んだんですよ! 島にはラブジルの兵士も流れてきていて、残党に武器を流しています。武装が終われば、こちらに攻め込んでくることも十分にあり得ますよ!」
十分考えられることだった。
新しい国が邪魔になる外部の者が新しい国の建国に反対する内部の者に手を貸すことは、よくある話だ。丁度良く同士討ち、出来なくても戦力の少しでも削れれば儲けもの。
だが、敵はこちらの戦力を測り間違えた。
ルークの口角がニヤリと上がる。
(好都合だ)
「よし、明日までに兵を整え、準備出来次第、占領されている島に向かうぞ」
こうして新国家ホイホイの初陣の相手が決まった。




