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第十三話 その男の正体、吸血する鬼

 新王国建国から一週間ほどが過ぎた日の事。


 市場視察を兼ねて街へリオンと買い物に出掛けることにした。

 ティグレは興味なさそうだし、神崎は街をうろつくには危険だと判断し置いて行くことにした。

 街並みを見ながら、リオンがポツリと呟いた。


「……なんだか、二人きりになるのは久しぶりな気がするわ」


「まぁ、ここ何日か慌ただしかったからな」


 ルークの言葉にリオンは呆れて首を横に振る。


「慌ただしいで済むレベルじゃなかったけどね」


「まぁ、そうだな」


 ルークがやれやれと息を吐くと、二人の子供が近寄って来た。

 その子供たちは、ルークの前で止まると、もじもじとしながら緊張した様子で話しかけてくる。


「あっ、あの、ルーク様ですよね?」


「そうだけど?」


 二人はやっぱりといった感じで顔を輝かせる。

 そして、二人のうちやや大きい子が話を続けた。


「おっ、お初にお目にかかります。わっ、私はイチで、こちらは妹の二ーです。あっ、あの私たち姉妹は、この数日前まで奴隷商人の商品でした。あなたが私たちを開放してくれなければ確実にどこかで玩具にされて使い潰されていました。奴隷解放はルーク様の発案だと聞きました。ほっ、本当にありがとうございました」


 二人は深々と頭を下げた。

 顔を上げるようにルークは促しながら、顔に笑顔を張り付ける。


「いやいや、当然のことをしたまでだよ。イチ、ニー、これからも困ったことがあったら遠慮せずに言うんだよ」


 二人は顔を上げ、更に顔を明るくした。


「「はっ、はい!」」


 再び深いお辞儀をして、二人は去っていった。

 ここ数日で、奴隷解放の案はルークの発案だと、国内に噂が広がり、この手の感謝をされることが多くなっていた。

 その様子をリオンは冷めた目で見つめていた。


「……言っとくけど、明日うちの使いの者が来るからね。多分、アレットが来るわよ。あんた、結構本気で殴られるでしょうね」


 ルークはそれを聞いてげんなりする。


「あぁ、多分な」


「まぁ、よくて二、三―」


(まぁ、二、三発は覚悟しないとな)


「二、三日は殴られるわね」


「それ俺の原型残ってるか?」


 ルークはあながちあり得なくもないなと怯えていると、小太りの男と肩がぶつかった。


「あぁ、すいま―」


 ルークは頭を下げようとしたその時、小太りの男に胸ぐらを掴まれた。


「昼間っからふざけた眼帯して、女連れの街中散歩とは羨ましいですなぁ」


 男は言葉こそ敬語だったものの、ほとんど吠えると言う表現が相応しかった。

 ルークは大体の当りをつけていたが、敢えて質問した。


「俺があなたに何かしましたか?」


「どうしてだとぉ」


 胸ぐらを掴む手に力がこもる。

 そして、ルークをゆっさゆっさと揺らしながら、理由を述べた。


「テメーが奴隷の開放を宣言したせいで、この国の奴隷商人はみんな困ってんだよ!」


 この手の苦情は実は他にも何件か入っていた。


「俺は発案しただけです。最終的には俺の一存じゃないので、俺を責めたって仕方ないでしょ」


 まぁ、ルークの一存なのだが。


「それに、気に食わないなら他所に移ればいい話ですし、今回で奴隷商から足を洗った方たちには優先的に他の仕事を紹介しているはずですよね?」


 そう、ルークはここ何日かは、ある程度新王国に出た問題に対処をしていた。

 だが、男の手の力が緩むことはなかった。


「そんな問題じゃねぇんだよ!」


 男はわなわなと肩を震わす。


「俺はなぁ、俺は―」


「この国で俺だけのロリハーレムを作りたかったんだよ!」


 男の熱弁とは反比例して、騒ぎを見て集まって来た野次馬たちの熱が引いていくのがはっきりとわかった。


「……本気ですか?」


「本気も本気! この国の幼女水準の高さ舐めんな!」


 あまりもの我欲の塊にルークは怒りさえ湧いてこなかった。

 だが、かえってこの男なら同情はいらないかもと、どこかでやろうと思っていたプランを決行した。

 ルークは自分の胸ぐらを掴んでいた手に己の手を添える。


「……そうですか、残念です」


 ルークはスキルを発動させる。

 互いの体力を奪っていくスキル。

 時間外(オーバー)労働(タイム)


「はっ、なんっだ! 力が抜けていく」


 男は直ぐに全身の力が抜け、地べたに膝をついた。

 ルークも本来ならそうしたいほどの疲労度だが、ここは長年の慣れで一切顔に出さず必死に耐え、男を上から見下ろす。


「……どうしたんですか?」


 その一言は得体の知れない男からしたら、全身に恐怖が侵食していくスイッチでしかなかった。

「どっ、どうしたって、俺の全身の力が―」


「あぁ、それですか。()()()()()()()()()、あなたの()()


「美味しかった? 精気? まっ、まさか! お前! いや、そうだ。他人の力を自分の力に変換できるなんて人間にそんな芸当出来るわけねぇ!」

 

 ルークは内心ほくそ笑む。

 男はまんまとルークのミスリードに乗った。

 ルークは笑顔で男に一歩詰め寄る。


「おやおや、どうしました?」


 男は詰め寄られた分、同じ距離後ずさる。

 そして、涙声で叫ぶ。


「くっ、来るなー! この吸血鬼が‼」


 その声に周りがざわつく。


 吸血鬼。


 この世界には言語にて他族とコミュニケーションを取れる生物は人間と魔族である。

 厳密に言えば、人間も魔族の最下層の種族の一つなのだが。

 言葉が話せる、繁殖能力が高い、戦闘能力が低いという特徴がある、他の魔族にとっては非常食、もしくは都合のいい労働力程度の認識。

 あきらかに魔族の中でもずば抜けて格下。

 つまり「人間」「人」というのが魔族の中の種族名である。

 人間自身も魔族たちも自分たちとは違う生き物だと、魔族、人間と分けることも多い。


 ここからが、本題。

 実は吸血鬼と言う種族は厳密に言えば存在しない。

 カテゴライズするなら、鬼である。


 鬼。

 魔族の中でも少数部族でありながら、上位に位置する戦闘力を思った恐ろしき種族。

 個々の能力が高く、また特定の居住地はなく、高い隠密能力もあり、彼らの居場所を知るものはとても少ない。

 それ故に色々な憶測が飛び交う。


 その中の一つが、吸血鬼。


 鬼の中でもほんの一握りが到達されると言う鬼の境地。

 他人の力を吸い、自分に還元する鬼がいるらしい。

 単純な戦闘力の高さに、そんな特殊能力を加えられては魔王でも手こずるのではないかと言われる。

 この世界においてまことしやかに語られる伝説。

 おそらく、今存在している魔族で一番の種族はどこかと言う話をすれば筆頭に上がるだろう。


 つまり、ルークはそれに成りすまそうとしている。

 勿論、ルークは純度百パーセント人間だ。


 野次馬たちの中から、悲鳴に近い声も上がる。

 男は震える声を振り絞り、ルークに問う。 


「こっ、この国は他種族禁制国家だったはずだ……ろ」


 男はそう言いかけて気が付いた。

 ルークは静かに答える。


「そうでしたね、確か()()()は」


 群衆の動揺が凪のように伝わってくる。


「……みっ、認めるのか? 吸血鬼だと」


「さぁ、どうでしょう」


 ルークは再度男に手を差し伸べる。


「もう一度試してみます?」


「―ひっ、ひぃぃぃぃ‼」


 男は一目散に逃げていく。

 それを見た、周りの人間も散っていく。


 リオンがルークのもとに寄ってくる。


「……うちの国に箔をつけたいのは分かるけど、自国民にまで恐れられたら本末転倒じゃない?」


「まぁ、仕方ないことだ。新体制に異議を唱える奴も多かったからな、しばらくは恐怖によって内と外の攻撃を止めさせてもらう」


 ルークが辺りを見渡すと完全に散ったかと思われた野次馬たちの中にまだ残っている者がいた。

 先ほど、礼を述べてきた元奴隷のイチとニーだ。

 ニーはイチの背中に隠れ、怯えるような目でルークを見ていた。

 イチはルークに無言で頭を下げると、ニーを連れ街中に消えていった。


「残念だったわね」


「やっぱり、やめとけばよかったかな」


 リオンに脇腹を突かれながら、二人は城に戻っていった。


 ホイホイに吸血鬼が在住していると言う噂は瞬く間に近隣の国に広がることとなった。

 そして、好戦的だった国のいくつかは態度を軟化させたのは言うまでもない。


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