際限なく欲する男
話は冒頭に戻る。
オストリアでは、ホイホイ、アシロ、華中、メアリカの四国が足を運び、話し合いの場が設けられていた。
会議室には、それぞれの国のトップとその右腕、腹心たち、そして開催場所であるオストリアの国の最高幹部が数人いるだけだ。
談笑も一段落し、最初に口を開いたのはメアリカの最大主ウーノだ。
「でででで、議題なんて出すまでもないよなルーク殿。私らの言いたいこと分かるよな?」
「さて? 俺のようなガキには皆さまのような国を背負われる方々の偉大な考えなど分かるはずもありません」
「あまり笑わせないで下さい。あなたが実質的なホイホイの支配者だということぐらい私達は調べを付けています」
ルークの軽口をアシロの帝王代理であるフライトが咎めた。
「……何のことやら、俺は今日どうしても来られないニアリス王に代わり代理としてきているだけですよ。フライト様と同じようにね」
フライトは舌打ちをする。
「まっ、茶番はこの辺にして、ルーク珍。パンプキンケーキって知ってるよね?」
「勿論ですよ。うちの国の新たな名産品ですから」
「うん、まっ、それはいいんだけどね。出荷量は把握してるんだよね?」
「はい、二国間の輸出入のバランスを崩さない程度に―」
フライトが我慢できず、テーブルを叩きつけその場に立ち上がった。
「白々しい‼ 非正規のルートであのおぞましいケーキを垂れ流しているのは知っているんだぞ‼」
「落ち着いて、フライト」
「ここで手を上げては向こうの思う壺ですよ、フライト」
フライトが側近の双子キースとノーボスに肩をさすられ、短く「ごめん」と謝ると席に着いた。
「おぞましいなんて失礼な。ホイホイの新たな名産品ですよ」
ウーノはルークを冷めた様子で笑い「で」と言葉を足した。
「ででで、あれ、何入れてんだ?」
「言っている意味がよく分かりません」
「まぁまぁまぁまぁ、非正規のルートって言ってもな、完全に国の目を掻い潜ってるわけじゃないんだよ。私らだって鬼じゃない。ある程度は目を瞑ってあげてるルートもあるわけ、君はそのルートのいくつかに引っかかった」
「………………」
「あのケーキの中毒性は私達も確認済みだ。あれは飛ぶように売れるだろうね。国のバランスを崩すぐらいには」
「………………」
「いや、実際話し合いの場にここを選んだルーク殿は賢明だよ。フライト殿じゃないが、ここじゃなければ私も一発くらい殴っていたかもしれない」
ウーノは部屋の四方には、オストリアの精鋭がピリリとひりついた空気を察して圧力をかける。
ウーノはそれを見て肩をすくめる。
「戦闘禁止区域って言っても随分殺伐とした国だよな。いや、だからこそなのか。ススイはもっとゆったりした印象だったんだけどね。あの国はもう普通の国になったんだっけ? あっ、それこそルーク殿のホイホイの植民地なのでは?」
「ははっ、国が崩壊する前に保護したまでですよ」
「上手い言い方だ」
ウーノはテーブルに両肘をつき、両手を絡める。
「で、ルーク殿は私らと戦争がしたいのかな?」
ルーク、そしてすぐ後ろに控えていた強華とバレッタの鼓動が早くなる。
これが人類最大戦力を有する国家メアリカのトップ。
フライトは横から見ていて落ち着いてきたのか、これ以上の話し合いはするまでもないと一言はっきりとした口調で言った。
「あれの輸出を今すぐやめろ。それで話は終わりだ」
ルークは嫌な汗が止まらなかった。
ここがターニングポイント。
その自覚があったからだ。
「……実に羨ましい」
「は?」
「メアリカの戦闘員数は約十万人でしたっけ? これは他国と比べて文字通り桁違いだ」
「それが?」
「華中は五万、アシロは四万これも人族のトップスリーに入る堂々たる戦力ですね」
「それが何か?」
ルークは会議室全体を見渡した。
悠々と、そして堂々と言い放つ。
「それを俺にくれ」




