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第十二話 今ある戦力、新顔

 新国家ホイホイの設立宣言から一夜が明けた。

 ルークは城から少し離れたところにある兵士たちの修練場に来ていた。

 朝早かった為か、まだ人影はルークを覗けば一つしかない。

 ルークはその兵士に声を掛ける。


「ご苦労だな」


 黙々と剣を振っていた兵士は、その声に振りかえると剣を下ろし、挨拶を返す。

 見た目は若く、ルークたちと同世代ではないかと思われる兵士だ。


「これはこれは、ルーク様。わざわざこのような場に朝から何の御用ですか?」


 昨日の晩、城の関係者たちにはルークやリオン達の説明はされていた。

 ルークはニアリスの右腕に位置する参謀総長ということにしている。


「いや、元気のいい声が聞こえたもんでな。君、名前は?」


 兵士は敬礼の姿勢をとる。

 そして、元気よく答える。


「ハッ! 自分はバルコスであります。新兵ではありますが、この新国家ホイホイの為に尽力を尽くす所存であります!」

「そうか、良い心がけだな。バルコス、俺はしばらく見学しているよ。気にせず続けてくれ」


 いきなり、目まぐるしく変化したこの国の現状に兵士たちの士気は、どの程度のものかと、覗きに来たのだが、中々に高い者もいてルークは一安心する。

 皆が皆、バルコスの様ではないかもしれないが、一人いるかいないかでは組織の空気は大違いだからだ。


(一度体制がリセットされると考えれば、若い者たちがやる気を出すのは当然かもしれないな)


 バルコスは爽やかな笑みを浮かべ、ルークを修練へ誘う。


「あの、良かったら、ルーク様もやっていかれませんか?」


 ルークは逡巡して断る。


「いや、俺は遠慮しておくよ」


 ルークの戦闘能力はそこまで低くない、だが、高くもない。

 一般兵よりは高いかもしれないが、兵団長クラスと一対一で戦えば、危ない程度だ。

 なので、ここでその底を見せるのを嫌ったのだ。

 バルコスががっかりしていると、修練場に新しい声が響き渡る。


「あー、またバルコスが一番乗りかー!」


 悔しそうな声音で近づいてきたのは、褐色の肌を持つこれまたルークやバルコスと同世代ぐらいと思われる女の子だった。

 その女の子にバルコスは言葉を返す。


「ルイ、君には修練量で負けられないからね」

「まぁ、実力では負けてるからな」


 アッシュグレーのぼさぼさの髪を掻きルイと呼ばれた女の子はシシシと笑う。

 バルコスはバツが悪そうな顔をし、言い返さない。

 どうやら事実のようだ。


「おいおい、そう落ち込むなよ。んっ?」


 そこでようやくルークの存在に気が付いたようで、視線がルークの方に向く。

 ルイは訝しむような目でルークに問いかける。


「あんたは確か、昨日、参謀総長になったルークだったけか?」


 その態度に慌ててバルコスが注意をする。


「おい、ルイ! 失礼だぞ!」


 それをルークが制す。


「いや、バルコスいいんだ。昨日の今日、いきなり知らない奴が自分の上に着けば当然の反応だ」

「おっ、話は分かるようだな、なら率直に言うぜ。私はあんた達をまだ臭いと思っている」


 達、とはリオンやティグレ達の事だろう。

 新王国になるまでの経緯は分かっても、確かに急に上層部が今までいた大臣や騎士長を押しのけて新顔とは疑問に思うのも無理からぬ話だ。

 ルークもそういう態度の兵士がいるのも想定内だった。


「それは仕方がないことだな。せいぜい、結果で疑いを晴らすこととするよ」

「あぁ、そうしてくれ」


 ルイは軽い調子でそう言い終えると、バルコスを引っ張って稽古を始めた。


 ルークの率直な感想。

 バルコスはルークでも一対一なら多少の苦戦はするかもしれないが、危なげなく勝てるほどの実力だった。

 因みにスキルは武器や己を一瞬加速させるスキルと減速させるスキルのようだ。


 だが、ルイはルークより確実に格上だった。

 ルークでは正面からなら、まず勝てない。

 ルイはまだスキルを使ってないので、何とも言えないが、身のこなしが只者ではない。

 リオンでも勝つには勝つだろうが、苦戦しそうだ。

 前回の城内侵入の際に出会わなくて本当に良かったとルークは胸を撫でおろした。


 その後もぞろぞろと修練に来た兵士たちの戦力分析をしていると、ルークのもとに慌てて駆けてくる小さな影があった。


「ルーク様ー、ここにおられたのですねー」


 半べそを掻きながら現れた彼女の名前はシグレ、一見子供の様な体躯で頼りなさそうだが、これでもこの国の外務大臣だ。

 イリアタの頃も外務大臣をしていたので、そのまま外務大臣に任命されたのだが、いきなりの新国家設立だ。

 忙しくないわけがない。


「どうしました? シグレさん」

「大変なんですよー、まず、この国の建国に反対する国が多数。また、特に賛成も反対もなく傍観姿勢の国もイリアタ、ホニンの時に交わしていた条約や貿易ルートをどうするのか? と。そして、賛成派の国も新たに交渉を求めてきてます」


 急に自分たちの近隣に新しい国が出来れば当然の反応であろう。

 ルークはしばし逡巡する。


「……そうですね。反対派以外の国との交渉はなるべく穏便にいきましょう。イリアタ、ホニンの時に交わしていた条約や貿易ルートも出来るだけ残しましょう。賛成派の国の交渉も多少相手国が有利でもいいので飲んでください。

 そして、反対国ですが、これは俺と防衛大臣で対処するので無視してください。

 近いうちに見せしめに反対国の中で二、三番目にデカい国を潰します」


 シグレは言われたことをメモすると、一つだけ疑問を口にした。


「潰すのは、一番デカい国でなくてもいいのですか?」


 顔に似合わず、結構物騒なことを言う子だなとルークは思ったが、それを顔には出さず柔らかな笑みを口にし告げた。


「いいんですよ。今から、精査しますが、ある程度周りから認められてる国でなくては潰しても牽制にならないし、あまり強すぎる国は勝つにしても長引きます。

 取り敢えず、我が国の力を見せつけたいので、上の方の国を適当に叩くだけで十分です」


(勿論、精査して相性が良く、尚且つ勝って得る物の国を狙うがな。神崎さえいれば戦略も戦術も大して必要ないしな)


 この少し後にルークは頭を悩ませることになる。

 まだ、外の敵にばかり目を向けるには早かったのだと言うことに。


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