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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第四章 人を喰らえ、人共よ
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暗躍は表へ 前編

 ルークの右腕に鈍く光る鉛色の腕が装着された。


「付け心地はどうです?」

「まだ違和感はあるが、初めに比べると格段に良くなった。しばらくはこれでいってみる」

「そうですかい、それは結構」


 ドロクは自分の作品に満足が得られたことを嬉しそうに頷いていた。

 ルークは鬼族の長、鬼々との戦いで右腕を失った。

 そのままにしておくのは流石に不便なので、異世界から呼び出したマッドサイエンティスト、ドロク・メルソンによって義手を作ってもらったのだ。


「しかし、あっしも大概人のこと言える風貌じゃありやせんけど、ルークは目立ちやがりますね」


 左目の眼帯、薄紫の髪色、そして右腕の眼帯。

 大分、あれな感じの仕上がりだった。


「ふん、はったりぐらいになればいいけどな」

「うーん、せいぜい変わり者の道化師って感じじゃないですかい」

「いうじゃないか。まぁ、俺のことはどうでもいいんだ。それより強華の状態はどうなんだ?」

「あぁ、あの子ですかい。随分と面白い身体してますね。流石のあっしも手を焼きました」

「それで」

「確かなことは言えやせんが、命に別状はありやせん。最低限の処置はあっしが責任をもって終わらせやした。しかし、いかんせん未知の動力機、パーツも多い。以前と同じ出力で活動できるかと言われると多分ノーです。全快時の七割から八割っていったところですかね」


 鬼々との戦いで最もダメージを負ったのは強華だった。

 彼女もまたルークが異世界から呼び出した人間の一人で、向こうの世界では腐敗した人類を滅ぼすために作られたクローン人間だった。

 身体の至るところを改造され、高い身体能力を引き出すために機械的な動力源も埋め込まれている。

 今回、腹部に取り付けられていた動力源一部を鬼々に腹事貫かれ損傷した。

 一時は命も危ない状態だったが、ドロクの治療によりなんとか一命をとりとめている。


「強華の身体は未知のテクノロジーが詰まっている。そこまで回復させられただけでも大したものだ」

「へへ、あっし、人間を弄るだけは自信があるんですよ。まぁ、それをやり過ぎて向こうの世界で死刑になりかけたんですけどね」

「それは笑っていいのか?」

「今こうして生きてるんですから笑ってくれて結構ですよ。それで強華のこれからの研究の主任は前任から完全にあっしに移るってことでいいんですかい?」

「そうだな、前任のステニーを副主任にするから強華に害のない範囲で研究を続けてくれ」


 強華の身体が未知のテクノロジーで動いていることを知ってから、ルークは彼女を研究するチームを密かに作っていた。

 その責任者はステニーというアラサーの女だが、彼女も彼女でドロク程ではないが優秀で強華の身体が半永久機関としてエネルギー切れなどの状態にないことを突き止めたり、身体の内部に埋め込まれているパーツの代替パーツをいくつか開発した実績がある。


「わかりやした。そのうちルークの右腕ももっとカッコいいものにしてあげやすよ」

「……あまり期待せずに待っておく」


 ルークの右腕は正確には二の腕の辺りまでは少しだけ残っている。

 そこに接続されたドロクの義手ははっきりいってあまり良い出来とは言えない。食事や書き物の際は食器や紙を抑える程度の補助しか出来ないだろう。メインのペンや箸は左手で使えるように練習しなくてはならない。

(ただですら弱いのにまた弱くなったか)

 ルークは力の代償に苦虫は噛む。

 その上、代価として得た転生ドラゴン、ボラムゴアは鬼々に殺された。

 そして、その鬼々は殺せずに今もどこかで元気に生きている。


「あっしもこの世界のことをざっくり説明してもらいやしたけど、世界征服とは豪気な話ですね」

「なんだ、反対か?」

「いえ別に、あっしは潤沢な研究資金と素材を提供してくれる人なら誰でも喜んでついていきやすぜ」

「無理だと思うか?」

「正直、あっしにかかっているとこもありやすよね?」

「そうだな、強華と並行してあっちの方もしっかり頼むぞ」

「それは心配なく、どっちかというとあっちの方があっしの得意分野ですので」


 ドロクは「それじゃ研究に戻るので」とルークの参謀室を退室した。

 そこに入れ替わるように入室してきたのは、外務大臣であるシグレだった。

 相変わらず身長は子供のように小さいがれっきとした大人で真面目で礼儀正しい。あと、胸がデカい。

 ドロクはそのことを見逃さず、視線を一点に奪われると自分の足を縺れさせてしまった。


「おっと、失礼」


 ドロクがシグレにぶつかりその事でお辞儀をすると、シグレは大して気にする様子もなく、それを返し怪訝な顔でルークを見た。


「……何をしたんですか?」

「何のことでしょう?」

「うちの部下たちがここのところ忙しくててんてこ舞いですよ」

「忙しいのはいいことですね」

「ここ最近の輸出量が跳ね上がっています」

「そんなこともあるでしょう」

「特に華中、メアリカ、アシロの大国での輸出量はもはやバランスを崩すレベルです。あまりに一方的過ぎます。向こうのトップが良い顔をしない」


 ルークは結果が早く知りたかった。

 なので、彼女の答えを急かした。


「……で、シグレさん。用件は?」

「今、上げた三国の商人たちから裏取引が持ち掛けられました」

「なるほど、つまり国を介さずに個人的に我々ホイホイと取引をしようと」

「えぇ、このままでは高い関税をかけられることは火を見るよりも明らかです。なので、各国の商会や連合はそこを何としても避けたい」

「そうですね。仕入れれば仕入れるほど売れる魔法の商品があるんですから、普通はそうしたいですよね」


 シグレは一枚のプリントを取り出した。

 そこには商人たちが求めるただ一点の商品のことについて事細かに記載されている。


「これがルークさんの人類統一のための切り札何ですか?」

「いくつかあるうちの一つが咲いただけにすぎませんよ。それより生産体制の方の整備を何とかしないといけませんね。ラブジル側に要請してみましょうか。あちらの方が華中やメアリカに距離的にも近いですしね」

「じゃっ、じゃあ」

「えぇ、商人たちの取引に応じましょう」

「……ばれるのは時間の問題ですよ」

「そこは時間との勝負と言って下さい」


 プリントに表記された商品名は『パンプキンケーキ』

鬼々の介入で中途半端な形で締めることになったパンプキン祭にて目玉商品をして売り出していたものだ。

 ルークはシグレの手に持つプリントに手を落とす。


「シグレさんほど聡明な方ならもうその商品の仕組みに気が付いているんじゃないですか?」

「……えぇ、おおよそは」

「どうします? 今ならあなたは引き返せるかもしれない。言っておきますが、俺の最終目標は人類統一ではない」


 ルークの右目は真っ直ぐシグレを捕らえる。

 ルークはここでシグレを見極めにかかった。

 使える部下か、これからついてこられる者か。

 シグレは小さく息を吐く。


「私には過ぎた野望もルークさんに付き従う忠誠もありません。身の危険が迫れば降りさせてもらいますし、あなたと心中は出来ませんからね」

「盲目的に付き従われるよりはよっぽどいいですよ。俺は一見人懐っこそうにみえて、心の底では誰よりも利己的なあなたのそういうところが好きですよ」

「そうですか。今初めてルークさんと腹を割って話せた気がします。私もその汚い笑みは嫌いじゃありませんよ」

「どうも」


 ルークは指先をパチンと鳴らした。

 すると、天井から何者かが降りてくる。


「シグレさん、あなたはホイホイとは別に俺の世界征服を目的とした組織チャトランガにも加わってもらいます。そして、裏の密輸ルートはこのアレーニェに相談してください。彼女は俺の仕事の汚い部分を専門で行っています」

「ふん、気に食わん言い方じゃが、概ねあっておる」


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