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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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不鮮明な力、不確かな力

 触れた。

 触れることが出来たのだ。

 透過、通過しない。

 ルークたちの方からは目視は出来ないが確かに弾く音がした。


「うおぉう、間一髪でしたね」


 ゴーグル男は呑気な声を出す。

 自分が防いだその大鎌の脅威を正確には理解していないのだろう。


「お前、名前は」

「あっしは流浪のマッドサイエンティスト、ドロク・メルソンと申す者です。それよりあっしは今しがた処刑台で首を落とされたと思ったんですが、ここはどこですかい?」

「俺はルーク。こっちが神崎だ。お前は俺が異世界から呼び出した。つまりここはお前にとっても異世界ってことだ」

「呼び出す。こっちにはそんな技術があるんですかい。そうか、異世界。そんなものが本当に存在していたとは」

「関心している場合じゃない。知りたいことは後で何でも教えてやる。だから、とりあえずあの目の前の女を倒すことが先決だ」


 神崎がルークとドロクを抱えて着地すると、鬼々の機嫌は最高潮に悪くなっていた。眉が中央により眉間に深いしわを刻む。


「はぁ、あのお嬢さんがそんなに強いんですかい」

「あぁ、恐らくこの世界でも五本の指に入る」

「そりゃ、あっしには荷が重い」


 ドロクはその場でしゃがみ地面に両手をつくと、またグローブのダイヤルをいじった。


「物質変換。座標左右前後三十移動」


 すると、ドロクの触れた地面がわずかにうねった。

 次の瞬間、鬼々の足元の地面がせりあがり、石のタイルが変形し、鬼々を中心に球状に包み込んだ。


「ほら、今のうちに逃げちゃいましょう」

「は?」

「あっしは根っからの研究者。戦闘になんて向いていません。この異世界のパワーバランスなんて知りやしませんが、どう考えてもあっしの手に余ります」

「……戦闘ができないタイプの転生者もいるんだね」


 神崎は少し呆けるように口を開けた。

 神崎、強華とこの世界でも破格の戦闘能力を持った者が続けて呼ばれたことでルークのスキル異世界(ナ・)転生(ロウ)はてっきり異世界から強者を呼び出すものとばかり考えていた。

 しかし、このドロク明らかに今までの二人とは違った。


「ちっ、そうしたいがここは俺の国だ。これ以上あいつの好き勝手にさせるわけにはいかないんだ」

「はぇ、その若さで国を持っているとは大したお方だ。あっしは命まで救われた上にこんなすごいお人に呼んでもらえたんなんて果報者です」


 ドロクの口元に薄い笑みが現れる。


『いい加減にして』


 その声に三人は振り返る。

 石の牢は壊すまでもなく、鬼々はその檻の中での存在が消え、また檻の外で現れる。


「すごい、あれはどんな原理なんですかい? あっしのいた世界にはなかった法則だ」

「それも今は詳しく説明している暇はない。簡単に言えばあいつはどこにでも現れて、どこにもいない。つまりあいつ自身も武器も全てはあいつが望んだ場所にだけ存在している」

「……なるほど。では、何故さっきのあっしの物質変換した白衣は彼女の鎌を防いだんですかい?」


 ルークは察しが早くて助かると、口を開く。


「そこに女が倒れている。彼女も俺が異世界から呼んだ女だ」


 ルークは少し離れた場所の強華を指す。

 

「そいつは見た目は普通の人間だが、身体は向こうの世界の人間が都合のいいように作り上げたクローン人間だ。それだけではなく至るところに機械的改造も施されているようだ」


 鬼々が一歩一歩迫ってきて、短い時間で説明しなくてはと焦る。


「そいつも一度は鬼々、つまり目の前の敵の攻撃を防げた。二度目からはほどんど通用しなくなったがな。だから、俺は考えた。敵の存在の自由はあくまでその他の物質をある程度理解できているからこそ消えたり現れたり、ここではしっくりくる言い方だと、攻撃するか、通過するかを取捨選択出来るんじゃないかと踏んだ」


 ドロクは聞き入る。


「神崎と鬼々の初コンタクトを見ていないから何とも言えなかったが、俺は異世界転生者か、もしくは強華のように見た目と中身の違うイレギュラー、もしくはその両方ならあいつの攻撃をその場限りでも防げるんじゃないかと推測した」

「だから、あっしを呼んだと」

「そうだ。完全に賭けに出た。そして、それはある意味では成功した」

「あっしが戦闘タイプ出なかったのだけが、誤算でしたかね」

「まぁな」


 鬼々が大鎌を三人の胴を裂くように薙いだ。

 ドロクは地面に両手をつく。


「物質変換。硬度五十アップ、座標前五移動!」


 すると、今度は三人を守るように石の壁が鬼々との間に現れた。


「もうそれ知ってるから」


 石の壁から鬼々の大鎌の刃先が顔を覗かせた。


「くそ、もう対応しているのか」


 これが最強の種族鬼。

 どんなイレギュラーもものともしない。


「伏せろ!」


 ルークは大鎌を避けるために姿勢を下げた。

 神崎もドロクの頭を押さえるようにし、二人ともぎりぎりのところで大鎌を躱す。

(くそ、今の動き。本当に戦闘タイプじゃないのか)

 ルークはドロクの動きに落胆の色を隠せない。


「おい、ドロク。他になにか出来ることはないのか!」

「そういわれやしても、実験室から直行で処刑台に連れていかれやしたからね。その場で身に着けていたもの以外何も持ち出せていないんですよ」


(もう、手詰まりか)

 ルークがギリギリの賭けに勝ち手に入れた命の猶予はもう既に無くなり替えていた。

 だが、彼は諦めない。

 何度でも足掻く。


【そのスキルにはまだ先があるぞ】


 ルークの頭の中で何かが声を発した。

 ルークは頭痛のような痛みに頭を押さえる。


【レベル3か。三分の一だ。君は少しこのスキルのことを知り始めたんじゃないか】


 頭痛は止まらない。


「ルーク⁉ 次が来るよ‼」


 鬼々の追撃にも動きの鈍いルークに神崎が心配の声をかける。


「くそ、なんだってこんな時に」


【こんな時だからさ。君はもう薄々このスキルのレベルアップ条件に気が付き始めている】


 そう異世界(ナ・)転生(ロウ)は他のスキルとは違いレベルアップの条件が不明なスキル。

 それ故にレベル2になって呼び出すことのできた強華の時には、いつのまにレベルアップしていたのか気が付かなかった。


【久し振りだ。君は答えを知った】


 ルークは鬼々の攻撃に集中できず、致命傷ギリギリの裂傷を負う。

 神崎はドロクの回避の介護に追われルークにまで手が回らない。

 

【力を使いなよ。そして、また生きていたら会おう】


 最後に一番大きな頭痛が走った。


「ルーク‼‼‼」


 目の前に鬼々の足が迫っていた。 

 それはルークの脇腹の骨を砕き、ルークは地面に転がった。


「どうしたの。さっきまで以上に歯応えがなくなったね」


 ルークは両手両足を踏ん張らせ、よろよろと立ち上がる。


「くくくっ、ははははは」

「ルーク?」


 ルークは不敵に不快に不正常に笑った。


「……勝つぞ」


 不確かで不平等で不明瞭なこの世界で彼は何かを受け取った。





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