99. 幻流の剣士⑤
「どうでもいいが怪我だけはしないでくれよ?お前らに何かあったら旦那に殺されちまうぜ」
「大丈夫。リョウ兄なら苦しまずに逝かせてくれる」
「・・・何も大丈夫じゃ無いじゃねーか」
ジローの言葉にクラウスは再びため息をついた。
一人状況から置いてけぼりのリセンが苛々したように曲刀を振った。
「なんだこのガキどもは!ミカサギ流だと?無名の雑魚流派が何の用だ?」
「む。ミカサギ流は雑魚じゃない」
「ミカサギ流は最強の剣士である兄上の流派だ。バカにするな!」
「・・・ちっ、つまりは子供のお遊びか。おいガキども、痛い目見ないうちにさっさと馬車に戻れ。貴様らガキはまだ利用価値があるから生かしておいてやる」
「・・・。」
ミカサギ流を子供のお遊びと言われたジローがキレて、リセンに飛びかかった。
素早くリセンとの間合いを詰めたジローは、両手の短剣で間断なく斬撃をくわえる。
「ちっ、ガキが」
思ったよりも速いジローの攻撃に防戦一方になるリセン。
リセンはジローの短剣をあしらいながらも冷静に魔法の詠唱を始めた。
しかし先に魔法を発動したのはタローだった。
「アイススピアーッ!」
「っ!」
ジローと切り結んでいたリセンは、横からうけた氷槍の投擲を身を反らして辛うじて避けた。
ジローはその隙を見逃さずリセンの胸を切り上げた。
リセンの胸が浅からず斬られ血がほとばしる。
「サンダーアローッ!」
リセンは負傷しながらもなんとか完成させた魔法をジローに向けて放った。
ジローの目前に現れる雷の矢。
普通の剣士であったら避けることも防ぐことも間に合わないタイミングだ。
しかしそれにも関わらずジローは一歩も下がらず、しかもあろうことか一歩前進し短剣を握った右手を前に出した。
直後、その拳の先から幾条もの紫電が放出された。
紫電の糸は雷矢を絡み取り飲み込んでリセンへと襲い掛かった。
想定外の攻撃、間合いも災いして何もできず雷を受けるリセン。
電撃に撃たれたリセンは硬直し、そしてその隙を2人は見逃さなかった。
「扇一閃。」
「春雷っ!」
「ぐ、はっ・・・」
ジローの横一文字とタローの袈裟斬りがまともに決まった。
たまらずリセンは苦悶の声を挙げて膝から崩れ落ちた。
地に伏したリセンの体のあちこちから小さな煙が緩やかにたなびいている。
「今のは何なんだ?無詠唱魔法ってやつか?」
疑問に思ったクラウスがジローに質問した。
クラウスの記憶では、魔法を詠唱無しで即時発動するには相当な技術と訓練が必要なはずだった。
いや、それ以前に先程のジローは発動のための呪言すら唱えてないように見えた。
「今のはサンダーブレス」
ジローはぷいっと顔を背けてそっけなく答えた。
「・・・ブレスだと?手から出ていたように見えたんだが」
「・・・しーん。」
答えるのがめんどくさくなったジローは擬音を口にしてそのまま押し黙った。
「ま、細かいことはいーじゃねーかクラウス。皆無事で済んだんだからよ」
「・・・まあ、そりゃそうなんだがな」
すでに他のゲオルグの私兵達を倒したガイアが、カッカッカと笑いながらクラウスに声をかけた。
クラウスも頭を掻きながらも気を取り直したように頷いた。




